ふぉん・しいほるとの娘(下) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (752ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117324

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  • シーボルトが長崎出島で、遊女のお滝との間にお稲という子をもうけ、その子の話。
    シーボルトが鳴滝館で、外科を中心に医学を教えたこと、オランダ政府の命で、生徒を使い、日本の地理、学術等を調べたこと、シーボルトが江戸に呼ばれた際には更に詳しい情報を入手したことなど、知らなかったことばかり。
    シーボルトは、幕府に見つかり、国外退去となり、関係生徒も罰せられる。
    お稲は、あいの子であり普通の生活ができないこと、シーボルトへの憧れから、学問を目指すこととし、愛媛に行き、シーボルトの弟子の家に居候。
    そこで、産科医を目指すように言われて、決意し、基本的医学を身に付けた後は、大阪の産科医でシーボルトの弟子の家に居候。
    その医師に襲われ、長崎に戻り、タダを出産。タダ1人の子の意味。
    長崎で産科医として働く。
    日本が、開国に舵を切り、シーボルトが30年振りに来日し、お稲やタダと会う。シーボルトは本国妻との間にできた子供を連れてくる。
    幕府は、アヘン戦争を目の当たりにし、開国に舵を切るという合理的選択をするが、長州と薩摩が反対し、尊王攘夷の機運が高まる。
    その後薩摩はイギリスと戦争して、完敗し、攘夷はあり得ず、勤皇倒幕に方針転換。
    長州は攘夷を維持し、長州征伐を受けるが、近代兵器を購入していたため、負けず。久坂玄瑞ら急先鋒らが処罰され、落ち着く。
    坂本龍馬が間に入り、薩摩と長州が手を組む。
    坂本龍馬が船中八策を作り、幕府も江戸が戦火に飲まれることを避けるため、大政奉還。
    王政復古の大号令。坂本龍馬死す。
    しかし、薩摩の西郷隆盛は、戦争により幕府の主導権を完全に失わせようとし、江戸で掠奪を繰り返し、慶喜は我慢に耐えかね、勤皇派と戦争。大政奉還後の主導権争いで、会津藩や庄内藩が抵抗、榎本武揚は函館五稜郭で抵抗するが、完敗。
    タダは、愛媛医師の甥の通訳と婚約するが、甥は来日したシーボルトの通訳をしていたため、幕府勤皇派に捕まり、投獄される。その後結婚し、シーボルトの子に日本語を教えたり、監獄医療改革などに取り組むが、死ぬ。
    愛媛にいたお稲は、タダにも医学を学ばせようと考え、知人医師に大阪か江戸への送迎を頼むが、その際襲われ、長崎で出産。子連れで長崎で再婚し、更に子をもうける。
    お稲は、東京でも、宮中医師などをし、福澤諭吉らと交遊し、70か80で大往生。
    明治維新などの流れも分かり、大満足。

  • ようやく読了。

    上巻はいつ読んだのかわからないくらい前で、どんな話だったかも忘れたけれど、
    下巻だけでも結構おもしろかった。

    シーボルトが二人の若い女にてを出すあたり、最悪だと思った。イネの感情がよくわかる記述だった。

    江戸から明治への時代の変化をもっと知りたいと感じた一冊。

  • 下巻は、十四歳のイネが長崎の親元から離れ、独り宇和島の二宮敬作を訪ね、医学を学びところから始まる。
    イネは、その後、波乱の人生を送り、彼女が76歳で亡くなるまでの、まさに大河ドラマを描く。

    イネは二宮敬作の勧めにより、日本で初の女性産科医としてのキャリアを歩む。舞台は幕末から維新にかけての激動の時期と重なり、西欧との接点でもあった医学が政治的に結びつく時代、村田蔵六など登場人物との繋がりも興味深い。(司馬遼太郎の「花神」ほどは登場しないが)

    明治に入ると福沢諭吉とも懇親を深め、女性の社会的地位向上に一役を買う。(福沢諭吉の口添えにより宮内省御用掛となる)

    一方で未婚のままの出産などイネを取り巻く数奇な運命の数々は、歴史小説としての読み応えを提供しているのだろうか。

    幕末維新の歴史小説からは、当時の人々の志の高さに心を打たれ、魅了されるのだが、この小説では、女性で混血、という社会的には弱い立場に置かれながらも、志を強く生きたある意味ではユニークな生涯を知ることができ、今の自分を振り返ると身が引き締まる思いがした。

    以下引用~
    ・「私は、女医者になります。多くの妊婦の命を救いとうございます」
    ・シーボルトは帰国後、オランダ政府の植民省に日本に関する報告をおこない、イギリス、アメリカの関心が日本に向けられていることを憂慮し、即位前のウイリアム二世に謁見して日本とオランダの貿易の現状と将来、鎖国政策を堅持する日本の国際的位置などに対して意見を申し述べた。
    ・宇和島藩の財政建直しは産業の奨励によるが、その中心は製蝋業であった。・・・宇和島藩の蝋は品質が良く、蝋燭、鬢つけ油として需要もさかんであった。そのため藩の収入は増大し、窮乏していた財政は好転した。

  • 下巻は、お稲の話よりも激動の幕末の話が大きな割合を占めています。新しく明治政府が出来て、医療制度も変わってきます。日本初の女医のお稲ですが、江戸時代はこれといった医師免許の試験はなかったのです。明治になり試験に受かった者が医師として認められるようになり、その試験には別の女性が受かっています(お稲は受けていない)。こうして新しい日本は女性の社会進出をどんどん認める時代となり、時代の流れとお稲の年齢からくるギャップに共感せざるをえません。

    原発事故で、シーベルトについて調べようかと思い、ふと、シーボルトを思い出して読み始めた大作でしたが、学校で習う年表歴史ではない息遣いを感じることができ、大変有意義な読書タイムだった。

著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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