法師蝉 (新潮文庫 よ 5-36)

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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117362

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  • 法師蝉 吉村昭
     海猫:福井?
     幻想:秋葉原

  • 退職後、老後をテーマにした、老年期男性の短編9篇。妻にないがしろにされた退職後、ふと海辺で一人暮らしをしようと思い達、退職金を半分もってとある街に住み着く男。退職後に料理教室を始めたら、若い男と駆け落ちした果物屋の奥さんに呼び止められ、復縁を取り持ってほしいと言われた男など。

    明らかに違う人生で、特にこれといった事件なども起こらない話ばかりなのだが、どうも吉村昭自身がどの作品にもにじみ出ており、1/3くらいは私小説なのだろう。若いうちに結核になって肋骨を2本取ったとか、念願の子供があっという間に亡くなるなど他作品で見たエピソードも複数見られた。

    それぞれこねくり回した純文学というものではなく、さらっと俳句のように読んでしまえる作品群である。そして、どの作品も、男がちょっと、わがままである。

    妻の、周りにいる女の能動的なわがままに対し、男たちは受動的にわがままを貫く。おそらく吉村昭の晩年がこうだったのだろうなと思う作品だ。

    さらに、どの作品からも「死」を感じるであろう。退職後も何かにとらわれている男たちであるが、それが開放される「死」に対する恐怖がそこはかとなく感じられる。

  • 以前に読んだ「亭主の家出」と類する男の短編が2つ登場します。「海猫」「秋の旅」の2編です。いずれも定年後の男性の寂しい姿、心の中を詳細に描いたもので、リアリティがあります。確かに女性の方が元気なことは間違いがないですね。思わず前に読んだかと勘違いしたくらいでした。この著者はこのテーマが本当に多いです!また不倫の心中をした男と女のそれぞれの妻と夫などの家族の苦渋を炙り出したような「或る町の出来事」、妻に先立たれる定年後の男性の静かな心境を描いた「法師蝉」ともに重い作品でした。すべての小品が高齢期の男性に忍び寄る静かな心の孤独、不安に共感を覚えさせてくれます。

  • 2012.5.23(水)¥136。
    2012.6.3(日)。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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