プリズンの満月 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1998年7月29日発売)
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  • 本 ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117393

感想・レビュー・書評

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  • 冷徹な無駄のない文章、最高ですね。

  • 戦争は戦争終結宣言で終わったのではなく、戦後処理が敗戦後も長い間続いたことに驚く。多分、学校で習ったと思うが記憶の中からすっぽり抜けている。多分、学校でも詳しくは教えてくれなかったのだろう。
    戦争を仕掛けた者、実戦で戦った者、後方で支援した者。それぞれの思いが交差し苦労している。戦争というものはやってはいけないものだとつくづく思うが、それでも戦争は世界のどこかでづっと行われている。

  • 戦犯とはいえ、日本人同士で監視するのはきつかったよね。

  • 「熊嵐」で吉村昭を知り、自分が好みそうな作品を色々書いてることを知り、まず読んでみた。
    小説は小説なのだが、純小説とだけ捉えてしまうと、次第に主人公の人生に波乱万丈が起こっていく展開とか、登場人物の心情をつぶさに描ききっているとかそういうのを期待してしまうので、おそらくこの本は事実、史実の比較的単調な羅列に感じられてしまうかもしれない。その毛を感じたので、自分は途中から、戦犯と収容所の半歴史物として読み進めた。

    管理監督体制の建てつけの認識から、実際の報告系統の流れ、初め誰にどう伝えて、それがどういう流れで上に伝わって、どういう返事が返ってきたとか細かく書かれていた。一時外泊を許された者たちが、喜びではなく、逆に稼ぎ頭を失った家族の貧しさに絶望した顔でプリズンに帰ってきた話とか、死刑囚の一人が減刑を求めて精神錯乱の演技の一環で、もう恥も外聞もなく放尿、脱糞をし続けていた話とかリアルなエピソードがちりばめられている。

    朝鮮戦争の勃発を明らかなきっかけに、アメリカの人的注力がそちらに移っていき、ちょうど投獄してからある程度経ってもいたのもあいまって、次第に減刑があったり、何よりびっくりしたのは、刑務所外の畑作業が許されたと思ったら、普通に一般社会で働いて家族への仕送りが許可されていたこと。現在の犯罪者が拘置中に門の外で働く、ましてやそこで稼いだ金を自分に懐に入れるって考えられないから驚いた。

    人を殺したとか実際に行った行為は同じでも、戦勝国では英勇、敗戦国では戦犯とされたりする。立派なバッジと手帳もらって医療費は生涯無料、片や投獄される。こういう客観性のかけらもない勝手な線引きを人にさせてしまうのが戦争なのだろう。

    近くに住んでいるので、巣鴨プリズン跡をGoogle mapで見たことはあっても、サンシャインがまさにそことは知らなかった。まぁあの辺なんだろうぐらいにしか思っていなかった。松島トモ子もライオンに噛まれた目の大きい人としか知らなかった。少女だった彼女がプリズンで慰問の舞をしていたとは。網走刑務所に行って教誨という言葉を覚えたばかりだったので、ここにもいたんだと、経験が知識に繋がったのも気持ちのいい感覚だった。

  • 今や、池袋のシンボルになっているサンシャイン60。その場所は、以前は、A級戦犯を含め数多くの戦犯が捉えられた巣鴨プリズンであったことを改めて知った。法律の根拠もない、監獄、裁判がどのように進められ、形骸化していったことがわかる。

  • この作家の人物描写はオーバーで無く冷静な目で見ていると思う。文体は簡潔だが余韻がある。特に最後の文章にそれを感じます。刑務官を務めあげてから多分サンシャインビルの工事現場の監督を務めそれも無事に勤め上げる。刑務官時代の一時期巣鴨プリズンで戦犯と向き合った時の回想を描いている。確かに戦争の後始末把握戦勝国が決めていく。第二次大戦で言えば広島長崎への原爆投下もあれが無ければもっと多くの犠牲者が出ていただろうと正当化されてしまっている。理不尽を感じる。戦犯の中にはこんな理不尽のうちに処刑されたひとも大勢いたはずです。吉村あきらの本を読むもう少し読んでみようと思いました。

  • 戦争は、終わってなかったのだなと、感じた。そして、地続きで戦後が始まっているのだなとも。敗戦がいかに惨めで、その時間を乗り越えてきた先人に頭が下がる。

  • 実在した森田石蔵という元刑務官の話や、彼が作ったという年表をもとにして書かれた小説。完全にフィクション。
    ドラマのような感動や、物語の起伏はない。むしろ時間軸場所軸が前触れなく変わるから、吉村昭に慣れない人には読みづらい印象。
    それでもやはり、あとがきにも書かれていたけど「共苦」の感情を作品の基底においてあるところが、日本人たる自分の心を揺さぶる。
    戦争責任なんて、個人はおろか、国単位で考えてももしかしたら存在しないんじゃないかと思った。

  • 戦後、戦争犯罪人が収容されていた巣鴨プリズン。
    戦勝国、アメリカから一方的に戦争犯罪人と言われ収容された者たち。
    敗戦国、日本としては従うしかない。
    だが、自分たちが何をしたのか、何故、収容されているのか分からない。
    徐々に処刑されていく者たち。
    残されていく者たちには、恐怖しか残らない。
    日本人を処刑する道具を日本人に作らせるアメリカ兵。
    作った者たちは、処刑されていく戦争犯罪人を見て徐々に狂っていく。
    全てが狂っていた時代だったのか。
    巣鴨プリズンの跡地は今、サンシャイン60として戦争犯罪人の墓石のように高々と聳えている。

  • 巣鴨プリズンに勤務する刑務官の視点で、その誕生から消滅迄を淡々と描いた歴史小説。一種の政治犯として収監された戦犯たちの、国際情勢に翻弄される姿が生々しく描かれている。彼等に同情を寄せる刑務官等の心意気と細かな心配りに、救われる思いがした。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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