- 本 ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101117423
感想・レビュー・書評
-
生麦事件が起こった,としか日本史では習わないが,この事件こそが近代日本になるべく薩摩藩を押し進めた最大の要因とも言える一大事であり,あまりに面白く,手に汗握る展開で2冊を一気に読み終えてしまう.
詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「法に従ったとはいえ、殺すのはよくない」「事に付け込んで列強が攻めにくる」。倫理面、政治面から薩摩側を責めたくなりがちだ。当の藩も嘘の言い訳をし、暗に非を認めている。ただ、当時の国際世論はあながち一方的でもない。NYタイムズは被害者側の無礼さこそを断罪している。攘夷は無謀だ。しかし、その後の歴史が証すように抵抗することで独立が保てた。生麦事件、下関戦争。どんな争いにも多面性がある。幕府、薩摩、長州、列強。今のところでどこにも肩入れして読んでいない。後編、薩英戦争。新たな視点が得られることを期待する。
-
会話がない、登場人物が膨大。
出来事をたんたんと叙述する手法に圧倒されて読んだ。 -
神奈川県を舞台とした小説の一つとして。
タイトルの通り、幕末の大きな事件の一つである「生麦事件」を扱った歴史小説です。
作者の吉村昭は『羆嵐』などで有名ですが、史実に基づいた精緻な描写がこの作品でも展開されています。
幕府や薩摩藩の対応を批判するのでもなく、かといって賛美するのでもなく、冷静な視点から描かれており、戦闘描写・外交交渉の様子などもとてもリアルに感じます。
特に、事件についての久光の主張「生麦村の事件については、家臣が外国人に斬りつけたのはやむを得ぬことと久光はその行為を是認していた。大名行列は、班の威信をしめすもので、藩士たちは身なりを整え、定められた順序に従って整然とした列を組んで進む。それは儀式に似たもので、その行列を乱したものは打果たしてもよいという公法がある。日本に居住する外国人たちは、日本で生活するかぎり、その公法を十分に知っているべきであるが、殺傷された外国人たちは下馬することもなく、馬を行列の中に踏み込ませるという非礼を働いた。それは断じて許されるべきではなく、斬りつけたことは当然といえる。▼しかし、国情のちがいからニール(英国代理公使)が憤激し、強硬な態度で激しい抗議をしているのも無理はなく…」もわかりやすくまとめられていましたし、生麦での事件そのものの描写も、殺傷された外国人の前には「礼儀」を守った外国人がいたことなども描かれているほか、「無礼」な4人の外国人たちにも悪意が無かった(意図的に行列を軽視して列を乱したわけではなかった)ことなども描かれていて、興味深く読むことができました。
一方で、やや、長州藩に対しては少し批判的な印象も受けました。
事件勃発から。薩英戦争前夜までが上巻では描かれています。
【下巻に続く】 -
今年は生麦事件から150年の節目にあたる。生麦村は東海道の川崎宿から神奈川宿の間にあり、人馬の交通量の多い場所だった。江戸と横浜の往来には必ず通る。当然西国からの大名行列は普く生麦を通過する。
事件は薩摩藩の島津久光が江戸から薩摩へ戻る道中で起こった。横浜の居留地から川崎大師へ馬で遠乗りに出かけたイギリス人4人が大名行列に出くわしたが、街道が狭かったため行列を避けることができず、列の前面に押し出されてしまった。それに対して護衛の武士数人がが斬りかかり、一人がその傷がもとで絶命してしまった。
これを知ったイギリス公使は激怒し、横浜に駐留する諸外国の軍事力を背景に、幕府と薩摩藩に下手人の斬首と賠償金を求めた。幕府はそれに応じたが、薩摩藩は勅命で京に急がねばならぬと早々に逃げ、要求を事実上拒否した。
これにより日本は、隣国の清のように諸外国との戦争に突入する可能性が大きくなり、存亡の危機に瀕した。
なんとなく攘夷の騒乱のひとつだろうくらいに思っていた生麦事件が、実は日本の行く末を揺るがす一大事だったことがこの本を読んでよく分かった。早く下手人を引き渡して謝罪すれば、賠償金も多少は値切ってくれただろうに、それをしない薩摩はなんて傲慢なんだ、と当初は思った。でも読み進めていくうちに、薩摩は薩摩なりに、そんな卑屈な態度をとらなくても切り抜けられるとの目算があったことがわかる。
薩摩は以前から藩財政の再建に着手しており、琉球との貿易(不平等貿易)と、奄美の糖きびの専売により、利益を上げていた。それを軍事の増強と西洋式の兵法改革に注いでいたため、攘夷にそれなりの自信を持っていたのだ。
しかし実際に薩摩の地でイギリスと戦うことで、彼我の戦力の差に歴然とする。そもそも威嚇をする程度に考えていたイギリスは、悪天候もあり、まずは引き揚げた。
戦争はひとまずは引き分けとなった。しかし本腰を入れてイギリスが攻めてきたらひとたまりもないことがわかった薩摩は攘夷を捨てた。
薩摩が攘夷を捨てたこと。これが明治維新への大きなターニングポイントとなる。
始めから終りまで抑制が効き、緊張に満ちた描写で、事件の全容が次第に明らかになる。幕府や薩摩の武士の立場だけでなく、街道沿いの庶民の目線や居留地の外国人の目線からも詳細に描かれており、まるで自分が当事者かと錯覚するくらい引き込まれた。吉村昭はすごい。
-
かなり早い段階で事件が起こって、これからどうするん?と思ったけど、その後のほうが大事なのね………。攘夷と外国協調路線、薩摩藩、幕府、朝廷それぞれの思惑とパワーバランス。激動期をダイナミックに描く。
-
20220330
-
レビューは下巻にて。
著者プロフィール
吉村昭の作品





