天に遊ぶ (新潮文庫)

  • 新潮社 (2003年4月24日発売)
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  • 本 ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101117454

感想・レビュー・書評

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  • 短編集と言ってもこれは超短編集だ。とても短い話ばかりだけれど、どれも秀逸な作品に感じた。余計な情報がそぎ落とされた凝縮感を感じる。

  • 吉村昭『天に遊ぶ』新潮文庫。

    吉村昭の21編を収録した掌編集。今どき文庫本で490円という価格はかなり珍しい。

    普通に生きる市井の人びとの様々な人生の場面を切り取り、背後にある過去と後悔をも描写してみせた味わい深い掌編が並ぶ。

    『鰭紙』。南部藩の庄屋だった家で見付かった古文書にはかつての飢饉の様子が描かれていた。明らかにしなくともよい歴史もある。

    『同居』。上手く行くと思われた縁談だったが、まさかの理由で破談に終わりそう。

    『頭蓋骨』。取材で北海道の漁師町を訪れた小説家は帰り道に思わぬ雨に途方に暮れる……

    『香奠袋』。頻繁に文壇の著名人の葬儀に姿を現す老女は香奠婆さんと呼ばれ、香典泥棒を疑われる。

    『お妾さん』。空襲の夜に見た孤独さを滲ませるお妾さんの姿。ひと昔前はお妾さんというのは当たり前のように居たように思う。

    『梅毒』。梅毒を患っていたと思われた水戸脱藩士の関鉄之介の日記を読み解くと……

    『西瓜』。離婚した元妻に突然呼び出された男の罪と戸惑い。

    『読経』。父親の葬儀で三十数年ぶりに再会した親戚の男に過去の記憶が甦る。

    『サーベル』。明治二十四年の大津事件でロシア皇太子をサーベルで斬り付け、国賊と呼ばれた津田巡査の末裔の百年に及ぶ苦悩。

    『居間』。伯父の訃報を知らされた伯母の反応に自らの夫婦生活を重ね合わせ、振り返る主人公。ちょっとしたイヤミスだ。

    『刑事部屋』。友人宅の強盗事件で、警察に呼ばれた主人公は……

    『自殺 ー獣医 (その一)』。肺癌を患い、余命幾ばくもない犬が……

    『心中 ー獣医 (その二)』。珍しい連作掌編。老女が犬と共に心中するが……

    『鯉のぼり』。戦時中。紺屋を営む祖父と二人で暮らす少年が交通事故で死亡する。空襲の最中にも空に翻る鯉のぼり。

    『芸術家』。温泉地でスナックを営む四十歳過ぎの女性は街に現れた小説家を名乗る男と財産を全て処分し、失踪する。やがて、岩手県の温泉地で女性は見付かるが……

    『カフェー』。友人が勧めてくれた敷島という煙草で思い出した過去の記憶。

    『鶴』。かつての同人誌仲間の死に際し……

    『紅葉』。山中の温泉宿で長期逗留していた友人の話。友人の隣部屋に泊まった男女の正体に……

    『偽刑事』。八丈島を取材で訪れた小説家は刑事と間違われるが……

    『観覧車』。束の間の父娘の時間。浮気を繰り返す男に愛想を尽かし、実家に帰った母娘。余りに酷い男の身勝手さ。

    『聖歌』。教会葬となった姉の葬儀にかつての姉の恋人が現れるが……

    本体価格490円
    ★★★★

  • 当初は吉村氏の別の作品を探すために書店に行ったところ、本書に妙に惹かれ衝動買い。結果、大当たりであった。原稿用紙10枚ほどの掌編21話。滋味深いとはこういうことを指すのかと思うほど機知に富み、ほのかな切なさ、滑稽さ、無気味さ、やるせなさをじわじわと感じさせる作品ばかり。
    掌編というとつい、わかりやすい大きなオチを期待してしまい、そういう視点だと作品によっては物足りないかもしれない。が、別の見方をすればその余白が味になっている。初出は平成だが、昭和を感じさせる作品が多いのもよかった。この時代の、独特の翳りがたまらない。
    新潮の「波」に連載していたのですね、月一でこの名掌編を味わうのもまた格別だったろうな!
    吉村氏の作品を読むのは本当に久し振りだが、これを機に長編など他の作品も挑戦したいなと思っている。

  • 鰭紙
    同居
    頭蓋骨
    香奠袋
    お妾さん
    梅毒
    西瓜
    読経
    サーベル
    居間にて
    刑事部屋
    自殺ー獣医、心中―獣医
    鯉のぼり
    芸術家
    カフェー

    紅葉
    偽刑事
    観覧車
    聖歌

  • 吉村昭は短いお話も上手い。タイトルの付け方も上手い。

  • 21編の小さな小さな短編集。
    『はて、それから⁇』と戸惑う物語も多い中、一つ一つに共感できる人間臭さ。日本人らしさ。

    そして人生は『はて、あれからどうなったのだろう』と思う出来事がいつの間にか流れ続けているものなのかもしれないと感じた。

  • 新潮社編集部の依頼を受けて、著者【吉村 昭】が原稿用紙10枚以内で書き溜めた21編の超短編集です。作品の登場人物は著者自身か、その分身と窺えるものが多く、取材先での体験から得た、人間の細やかな心理描写を鋭く突く生々しさがあります。病魔に倒れる前の著者が、高揚した気分を愉しみながら書き綴ったという、人間ドラマのある局面を切り取って描いた読み応えある作品集です。

  • ・9/5 読了.この人の短編集は初めて読んだけどエピソードの終わらせ方やまとめ方が簡潔で歯切れがいい.でも怖い話かもって思って読んでて身構えちゃうのは過去に読んだ作品の印象のせいかも.

  • 一編がわずか8ページほど。10分で読める短いお話ばかり。どれもたいへん興味深く、強く胸に迫り、何とも言えない、しみじみとした気持ちが残る。

    明治時代の大津事件の犯人の子孫を取材したときの、こぼれ話。とても興味深く読み、さいごは涙がこぼれた。

    作家の葬式にあらわれる香典泥棒ばあさんの話。ちょっとホッとする。

    著者の遠い親戚を襲った過去の悲劇。哀れでしみじみ。

    下町の近所のひとびとの思い出。

    犬と人間の絆。生命の重さ。

    妻子を捨てて年上の女に走った、作家志望の男の末路。

    などなど、多種多様な人びとの、生々しい人生模様にお腹いっぱい、胸もいっぱいになった。

    フィクションの体裁だけれど、実際にあったことをもとにしているのは著者の長編と同じと思われます。短かくても切れ味バツグン、胸を殴られるよう。短いからこそ、書かれてないことを想像してしまい、余韻が深まるのかも。

    吉村昭は、短編も、凄い。


  • 原稿用紙10枚(4000字?)以内の珠玉の短編集。
    ここまで短いのに、物語が成立していて、うならされたりちょっとほろ苦かったり。
    名人芸ですね。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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