太陽の季節 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1957年8月7日発売)
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感想 : 160
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  • 本 ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101119014

感想・レビュー・書評

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  • 「太陽の季節」
    時代背景や、人間の本質などもあるかもしれないが主人公の価値観、倫理観に嫌悪感を感じた。女を肉体の歓び以外のものではないという主人公が出会った中で変わっていく瞬間は確かにあったが、でも素直に愛することはできない。主人公の攻撃性や反発性からしてそれは叶わぬことであった。ラストの運びは衝撃的だが、でもヒロインの主人公への思いが成したものとも思えば作品としては納得。

    「灰色の教室」
    自殺未遂を繰り返す友人、彼は生き甲斐よりも死に甲斐を求めているのであろう。生きていくのに苦労はしない、ただ日々の中にスリルが欲しくて悪事に走る少年達には生きることが何かを考えさせられる。主人公とヒロインの葛藤や事の運びにも次第に生きることがどういうことなのかが影響し始める、そして結末。生きるとは何かを問う作品。私は太陽の季節よりこちらの方が好き

    「処刑の部屋」
    かつて手を出した女性、敵対心を持っていたグループにリンチをされていく、その中での暴力描写は凄まじく目を覆いたくなるようなものも多い。ボロボロの体になっても生きている、肉体的な勝利と精神的な勝利はまた別のものであり、でもそこに感じる生き延びたいという感情、なんのために死ななければいけないんだという感情。描写にキツさはあるが今までの生きてきた中にあった無意味さから経て意味を見出そうとなった主人公。これからを感じさせる。

    「ヨットと少年」
    ヨットのことについて私は何も知らないので操縦などの描写の理解が難しかったのが残念。ヨットに亡き母親、信頼する人の奥さんなど母性を重ねつつ、悪童が「自分のヨットが欲しい」という願いをもつ話。途中の娼婦とのくだりの中で自分のものになるしたい思いと周りに嫉妬する思い、そしてそこから周りへの悪意が出てくるところはわかるが、ラストが無理やりバッドエンドになっている感が否めない。

    「黒い水」
    兄と妹、妹の思い人との3人でのヨット航海の中で恐ろしい波、雷などと向き合い戦いながら話が展開される。自然の恐ろしさを文字に込め登場人物に襲いかかる様子はとても緊迫感や絶望感があり、鬼気迫るものを感じた。

  • 生々しく見てはいけない昔の青春を見せつけられた作品。

  • どの短編もスッキリして終わるような話ではなかったが、表題の『太陽の季節』『ヨットと少年』は結末が非常に悲しいものだったが破天荒で無気力な若者感が溢れていてよかった。
    昭和30年代を題材にした作品なので拳闘やヨットの話というのは令和の時代になって読むと古い感じがするが、それはそれで昭和を感じられて面白かった。

  • 芥川賞選定に際して井上靖が、こんな青年現代に沢山いるに違いない、と述べたらしいが、内面に爆発的な負の感情を秘めた青年はそれこそ数え切れないほどいるだろう。そのエネルギーを拳闘に注ぐことは出来なかったのか。男運に恵まれない英子と出逢ってしまったがために、その捌け口を誤った方向にもっていかれたのかもしれない。

  • 同じ時代の同じ年代の人にしか見えない世界がある。だから、若者が書く若者の物語には、その時代の若者にしか見えない世界が描かれていて、それは時に、同じ時代を生きる別の年代の人には理解し難いものだったりする。
    この単行本に収められている物語(「太陽の季節」「灰色の教室」「処刑の部屋」「ヨットと少年」「黒い水」)も、当時の「年配者」には理解し難かったに違いない。
    ただ、ある特定の時代・年代の人に深く共感されることを「時代性」と呼ぶとしたら、僕はこれらの物語に「時代性」よりむしろ「普遍性」を強く感じた。

    確かにこれらが書かれた時代は、江戸末期以来久しぶりの“凪の時代”であり、その時代の若者に芽生えた感情は、それまでの“時化の時代”を生きてきた若者には持ち得なかった感情だったかもしれない。だから、当時はこれらが「時代性」の強い物語に映ったはずだ。
    しかし、それから50年以上、長い“凪”の時代が続いたことにより、これらの物語が持っていた「時代性」が「普遍性」へと変化したように感じるのだ。

    戦後以降、いつの時代の若者も同じように自分たちの時代を“特別な”凪の時代と捉え、過ぎ去った少し前の時化を羨ましく思いながら、冷めた空しさを抱えているのではないのだろうか。そして、いくら冷めていようが日々自分の奥から生まれてきてしまう熱を放出するために、刹那な快楽や暴力や危険に惹かれてしまうのではないのだろうか。

    凪も時化も人が作り出すもので、その大きな動力は若者である自分達であるはずなのに、それに気付き、そのあり余るエネルギーを社会に向けて放出できる人は、残念ながらとても少なく、多くの若者は時代を盾に刹那に逃げる。
    まぁ、僕もまたそんな大勢の若者のひとりだったのだが・・・。

    著者をやがて政界に向かわせた動力が、少しだけわかった気がした小説だった。

  • 太陽の季節
    情景を淡々と流れるように連ねてきた文章から、一転して衝撃的なラスト。衝撃を受けた。

  • 「太陽の季節」は名前は知っていたが初めて読んだ。1955年に発表された作品。女を肉体としか見ていない竜哉が拳闘に夢中になり、奔放な女 英子に惹かれていく。男に弄ばれ、妊娠したら産めと言ったり、堕ろせという主人公。なんという身勝手な奴だと思う。男女の愛情のもつれというか共感出来なかった。2023年6月8日読了。

  • 第一に思うことは、60年前に読みたかったな。ということである。

    当時は無名の学生作家の作品でありながら芥川賞受賞、そして「太陽族」という言葉が生まれ、さらには倫理議論が巻き起こったほどの衝撃的な作品であったらしい。
    その前情報を聞いていたため私はとても期待をして読んだ。

    作品の独特の倫理性や石原慎太郎の筆力は素晴らしいのだが、今の時代を生き、今の小説を読んでいる私としては目新しいという感覚はなかった。

    解説にも書かれていたが、戦後10年再建資本制は確立されゆくと同時に当時の青年達は夢を失い、日常に鬱屈を感じていた。そこから生まれゆく大人達とは違った既存の倫理とは違った価値観を持つ若者たち。その世代の(既存の価値観を持つ大人達から見ると)歪んだ倫理観をもつ若者達を内側から石原慎太郎が描き切った時代性が衝撃的であったのであろう。

    しかし、現代は情報化社会と言われるだけあり小説はもちろん、SNS、インターネット、映像作品、さまざまな歪みを日常的に目にする。
    そのため現代を生きる人間達はこの作品が世に出た当時よりは遥かに価値観の歪みに慣れているだろう。 
    そのため今読んでもその面で衝撃を受けることは難しい。
    繰り返すが、60年前にこの本を読みたかったと思った。

  • 石原慎太郎が亡くなった特集の文藝春秋で読んだ。
    芥川賞ということで、どこが評価されたのか、それを探る思いで読み進めた。時代は遡るが、刹那的で退廃的な雰囲気が漂う作品、苦労知らずのお坊ちゃんの火遊び的内容に、まぁそんなこともあるか、ぐらいの気持ちで読んでいったが、途中から許せなくなった。こんな自堕落な作品に共鳴して芥川賞を認めさせた作家群には呆れた。訴求する内容に、何ら建設的な意味合いがない。胸糞悪い、という汚い表現だが、まさにその言葉通りの作品である。

  • 読みにくくて全然頭に入ってこなかった…また改めて挑戦する事にします。

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著者プロフィール

1932年神戸市生まれ。一橋大学卒業。55年、大学在学中に執筆した「太陽の季節」により第1回文學界新人賞を受賞しデビュー。翌年同作で芥川賞受賞。『亀裂』『完全な遊戯』『死の博物誌』『青春とはなんだ』『刃鋼』『日本零年』『化石の森』『光より速きわれら』『生還』『わが人生の時の時』『弟』『天才』『火の島』『私の海の地図』『凶獣』など著書多数。作家活動の一方、68年に参議院議員に当選し政界へ。後に衆議院に移り環境庁長官、運輸大臣などを歴任。95年に議員辞職し、99年から2012年まで東京都知事在任。14年に政界引退。15年、旭日大綬章受章。2022年逝去。

「2022年 『湘南夫人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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