他人の顔 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121017

感想・レビュー・書評

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  • 「モンスター/百田尚樹」の顔に関する肉体的精神的価値の類似
    動物の世界にも顔の美醜はあるのだろうか
    唇に皿状のものをはめたり、顔全体に刺青を施した、
    昔の民族にも顔の美醜はあったのだろうか
    現代人の個性は顔なのだろうか

  • 冒頭は核心部分から始まる。そして過去を振り返っていく。化学実験により顔に致命的な大怪我を負った主人公が妻の愛を取り戻すため、他者の仮面をかぶり妻を誘惑する。とまぁ書くとあれなんですが、仮面の出来は決して素晴らしいものじゃないことが少女に正体を見破られていることからわかってしまうのですね……妻はわかっていながら見過ごすと。顔って言うのはやっぱり一番に目に入るし印象に残る。顔は言うなればアイデンティティ。安部作品はアイデンティティの崩壊をいろんな目線で書いてる気がする。名前をなくす壁にしろ、箱をかぶる箱男にしろ、自分をいつのまにか見失う燃えつきた地図にしろね。2013/418

  • 以下引用。

    生存の目的とは、おそらく、自由を消費することなのだ。人はしばしば、自由の貯蔵を人生の目的であるかのように振舞うが、けっきょく自由の慢性的欠乏からくる錯覚にすぎないのではあるまいか。そんなものを目的にしたりするから、宇宙の果ての、その向こうを論ずるような羽目におちいり、守銭奴になるか、さもなければ宗教的に発狂してしまうかの、いずれしかなくなってしまうのである。(p.172)

  • 箱男>他人の顔>砂の女>燃えつきた地図>無関係な死・時の壁>壁>方舟さくら丸

  • 化学実験で顔を失った男。
    顔のない人間は誰とも共感を持ち得ない孤独な差別対象となる。
    男は、精巧な仮面をつくり、妻の愛を、そして自分を取り戻そうともがく。

    201「≪仮面だけの自由≫は、何をおいても、まず不法行為でなければならなかったのだ。」
    204「断っておくが、空腹や、乾きのように、性そのものに飢えていたわけではない。仮面がひかれていたのは、あくまでも、性の禁止を犯すことだったのである。」

    ぼくは、仮面の男になって、妻を犯す。
    妻の不貞行為を見る腹黒いぼくと、妻を犯している仮面の男。
    男のなかの二面性それぞれと妻、といった三角関係に苦しむのである。

    この内容は、妻に向けた男の手記である。
    妻はこれを読み、男に手紙を残す。
    彼女は、最初からわかっていたのだ、仮面をかぶった男が自分の夫だということを。

    268「あなたに必要なのは、私ではなくて、きっと鏡なのです。どんな他人も、あなたにとっては、いずれ自分を映す鏡にしかすぎないのですから」

    顔は、単なる記号にすぎない。任意の数字nとなんら変わりない、それなのに、人間は、任意の記号nに醜美を求め、その内面までも推測する、それはとても滑稽なのだがあまりに日常的に行われすぎて「ごくごく普通のこと」として認識されている。

    顔をなくした男は、仮面をかぶることによってなにができただろうか。
    「良いことも、悪いことも、何一つすることは出来なかった。ただ、街を歩きまわって、あとはこの尻尾をくわえた蛇のような長ったらしい告白を書いただけ」だった。


    …男は、再び仮面をかぶり、空気拳銃を持ってぼくを捨てた妻の向いそうなところへ足を運ぶ。
    拳銃の安全装置を外し、近づいてくる女の靴音に耳を澄ます。
    尻尾をくわえた蛇は、腐った水から脱皮したのだ。その結末に死があろうと、自ら選んだのだから、はるかにましなのだ。
    「…ともあれ、こうする以外に、素顔に打ち克つ道はないのだから」

  • 顔一面蛭の巣のようなケロイド跡がある主人公。妻の愛を取り戻すために仮面を作るが…。もうせつない…全てせつないが妻の手紙が最高にせつないし、主人公が観た映画の内容もせつなすぎて印象に残る。

  • 頭良いのはわかるけどもう少しシンプルに喋ってもいいんじゃないか。

  • 怖すぎる。人間に対する深い哲学と、優れたSFの手腕と、様々な理系的知識と、それらを統括する文学的才能によって生み出された作品。事故で顔が醜くなってしまった男が、四苦八苦しながら仮面を作って、妻の愛を取り戻そうとする。筋は簡単なのに、とてつもない重量感。SFのような設定なのに、身に迫る安部公房の哲学。病的なまでに細かい描写のせいで、本全体がボリューミーになっている感じがしたが、緻密でとても丁寧な物語だと感じた。
    どうして安部公房はSF風味の話を書いても、SFっぽくならないのかが不思議。SFというよりむしろ、読めば読むほどリアリティーが増す。こんなこと、ありえないのに。やっぱり社会や人間というものを鋭く捉えて、それを作品として昇華させていた人だったんだな、と感じた。

  • とにかく読みづらい作品でした。
    主人公が妻にあてて
    様々ないきさつを手紙の用に書き綴った形で
    話が進んでいるのだけど
    それが叉主人公の言い訳や片寄った思想が
    尚更読みにくさに拍車をかけてます。

    たぶんそれも味の一つと思いますが
    とことんそれにはまり込んでしまったようです。

    内容を理解しようと心を入れこんで読み過ぎると
    主人公の言葉を鵜呑みにしてしまいそうになり
    正常な考えがとんでいっちゃうし
    理性的にとらえようとすると
    主人公の顔に対する執着や思想が
    理解できなくなるし。 うっとうしささえ感じるし。

    よんでる人なら誰でも想像着くことが
    主人公に想像できなかった事が
    終盤にかけてのスパートの役目を果たしてくれました。

    でも読むのに疲れました。

    1960年代にこんな現世みたいな考え方するなんてねぇ。
    やっぱ安部 公房ってぬけてたんだなぁ。

  • 顔を事故で失い仮面をつけるようになった男が、妻に向けて大学ノートにメッセージを書いた、という設定の話。いったい誰に向けて書かれているのか、謎解き的な気分を味わえてワクワクする。

    主人公が仮面を作るときの突っ走り具合に驚いた。化学的な説明とか、妻に向けて書く内容ではないと思う。
    でも主人公の心情を酌んだら苦労を妻に吐き出したくもなるだろう。「顔」が社会的に果たしている役割について考えさせられる作品。

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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