壁 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121024

感想・レビュー・書評

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  • 主人公カルマ氏は自分の名前をどこかに落としてしまい、もはや誰でもなくなってしまった。その上、カルマ氏は、目に見えたものを胸の陰圧で世界のなにもかも吸い取る「犯罪的暴力性」を持った人になってしまう。
    そして、題名である「壁」は存在証明としての「壁」である。自然から社会を区切り、その中で我々が「存在」することを決めた「壁」。「壁」を越えてしまえばそれは、世界、つまり社会ではないのだ。
    シュールレアリズム的な面白さ。最高に知的。最高に最高。

  • 全章を通して、非科学的・あべこべでとにかく不気味。なのに妙に冷静で論理的という、類を見ない異色の世界観を持っている。高度に哲学的な童話といった感じ。

    原因と結果、外と内、生と死、陰と陽、科学と非科学、空想と現実、
    本来は絶対的な壁で遮られているありとあらゆる二極的な現象が統合され、一点に集まった世界を描こうとしているように思える。

    文体は読みやすく、概念的だけど理解しやすい。
    まったく新しい思考回路を追体験できる、貴重な一冊。

  • こんな奇妙で面白い文章を書く人がいたのかと今頃驚いた。
    春樹と似てるか、と思ったりもするけど、春樹よりまだ読み応えは柔らかく軽い、
    奇怪だけど、ブラックまで落ち込むわけでもなく
    皮肉も含むけどそれを見つけるころには物語は次のステージにするっと移行していく

    そして科学的思考をもった登場人物はきっと作者の脳内のそのままの投影なんだろうな、と読んでいて感じる。
    科学と活字、文と理、空想と具象はどこかでにじむようにつながっていくのかという感触。

    私の好きなタイプの文章だった。
    こういうものを現代文学のなかでも海外小説に見つけたりするけれど
    逆をいうと日本文学にはもうないのかもな、と思ってしまった。

  • 自己とはなにか?名前とは何か?世界とは何か?神とは何か?

  • 凄いラストでした...。
    安部公房がディズニー作品が好きと解説で知り、不思議の国のアリスのような展開でワクワクした後に、不穏な空気が。
    それは、生きている人間が常に影のように付く"道徳"の話。
    思えば始めから人道的な道徳についての内容に思います。
    人間が無くなれば、主人公のぼくが無くした影のように殆ど"道徳"が無くなる。
    我々生きている者には常に"影"があり"道徳"があり、やがて生きていく上での「壁」となる。

    奪う側が正義だ

    この言葉が、この本の本質のように思えました。

  • 冒頭部分を読んだ際、率直なところ、サルトル『嘔吐』の二番煎じではないかと思った。よく指摘されるカフカっぽさももちろん。しかし、主人公のあとを追ううちに、これは様子がちがうぞということに気づいた。サルトルっぽさ、カフカっぽさはある。けれど、『壁』には『嘔吐』のようなどうしようもない悲壮感がない。たしかに、『変身』や『城』のような倒錯したユーモアともいうべき不可思議な感触がないわけでもない。しかし、カフカのそれとはまた違った世界観が『壁』にはある。楽観的でもないし、心地よくもない。だからといって不快でもない。読むわたしのまえにはただ、壁のような砂漠、あるいは砂漠のような壁があるだけで、その先に歩みを進めようと思っても終わりがなく、終わりがあると思っても進めない。それまで歪んでみえた世界がまっすぐになり、まっすぐにみえた世界が歪みはじめる。ー不条理、彼はまさにそれそのものを表現しているのだろうか。カフカの作品に符号する箇所は多いが、安部公房の描く光景は砂漠なのであって、人を飲み込む大地とその渇きこそが魅力なのである。

     巻末の解説にて、佐々木基一氏はこう分析する。曰く、「安倍公房のばあい、この砂漠は、同時にまた、壁と云い直すことができる。砂漠と壁、(中略)目路をかぎるものといっては、地平線のほかに何ひとつない広漠たる砂漠は、同時に、われわれのつい目の前にあって、われわれの目をさえぎっている壁と同じものであり、(中略)云いかえれば、壁によって仕切られた内部の空間と、壁外にひろがる外部の空間とは、まったく同質の素材からなる同質の空間ということになる。この、内部と外部の同質性の発見、同質であるがゆえに両者のたえまない相互滲透と自由自在な変換の可能性の発見ーそれこそ、ほかならぬ安倍公房の独創性がある」。

     不条理を壊すことは、無限を消すごとく困難である。不条理などは知らぬが仏、でなければ本書の主人公のように、「習慣に塗り固められた現実での存在権」(本書のあらすじより)を失うだろう。しかし、壁は頑としてある。意識しようとしまいと、それはあるのである。安倍公房はそのことを、よいかわるいかという次元に捨ててしまわない。より高次なものに昇華する。暗く重く、美しい。読了後、わたしはそのように考えた。

  • 毎回毎回「レビュー」を書かなならんわけですけど(義務じゃないけどw)、reviewって評論のことなんですよねえ・・・。で、「評論」と聞くとどうしても堅苦しい文章とか難しい文章が連想されるわけですけど、紹介する本を読んでもらうことが目的だとすると、ものすごくわかり易いことを書いた方が良いのかな?と思うんです。

    「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」
    (マーシーじゃなくて井上ひさし、の仏教説法訳)

    他の方のレビューも読ませて貰いました。
    わかってる人は一発でわかるし、難解だと思う人は難解かもですが、
    みんなが知ってる作品と関連づけるとものすごくわかり易いし、
    とっても面白い作品です。

    以下、自分が感じた関連作品について。
    ぱっと感じるとこでは、「あーシュールリアリズムを文章にするとこんな感じなんだなー」でした。と書くと一瞬で終わるんですけど、「じゃあシュルレアリスムって何よ!?」って話になっちゃう。
    だから映像で挙げると、僕の頭の中ではテリー・ギリアムの世界観でした。

    絵画で言うとダリが有名ですけど、シュルレアリスムってもうファンタジーって言って差しさわりないと思うんです。だって時計って現実ではぐにゃってならないですもん(笑)。『ラピュタ』だって現実で城が空に浮かびませんもん。

    あと『不思議の国のアリス』。
    アリスは色んな人が元ネタにしてますけど、シュルレアリスムの元にもなってます。
    先述のテリー・ギリアム、デヴィッド・リンチ『ブルーベルベット』
    ヤン・シュヴァンクマイエル、『マトリックス』、『となりのトトロ』
    最近で言うとギレルモ・デル・トロ『パンズ・ラビリンス』。
    だからみんなが知ってる世界観で、映像を頭に浮かべて読むと楽しいと思います。

    読み進めて行くと、まんまブルトンが出てきて笑いました。
    ブルトンって、ウルトラマンの怪獣・・・っていうか
    ホヤの塊みたいなやつなんだけど、出てきますね。
    有名だけどウルトラマンにはダダも出ます。
    ウルトラマンは前衛芸術の塊ですよ、ヌーヴェルヴァーグとかさー。

    そして、一番近いと思ったのはエヴァンゲリオンでした。
    特に後半、2本目の短編『バベルの塔の狸』以降。
    この作品は『2001年宇宙の旅』にも似てて、
    解説には『オデュッセイア』のことが書かれてました。
    (※『ラピュタ』→『ふしぎの海のナディア』→『エヴァ』ね)

    だから、今の作品のそこらへんの要素が全部詰まってます。
    俗っぽい言い方だけど、1951年のエヴァンゲリオンです。
    壁はATフィールドだし、液体になるのは人類補完計画でしょw
    セカンドインパクト(サードか?)も、アダムとイヴも出てくるし。
    (エヴァと安部公房の関連性を書いたような文章読みたいんですけど、
    Web上にあんまり無いような・・・)

    そして、これ僕がバカなだけなんだけど、
    諸星大二郎の『壁男』と、安部公房の『壁』『箱男』がいつもごっちゃになってた。
    これも結局エヴァなんですよ、諸星先生って。


    次に、テーマ的なものについて。
    『砂の女』を以前読んで、面白かったので『壁』を読んだんですが、
    http://booklog.jp/users/gmint/archives/1/410112115X
    共通するものは、人間の社会性の死みたいなもんかなと。
    人間って動物だし、生物的な生き死にがありますよね。
    動物と一緒の部分・・・メシ食ってクソして寝て、セックスして子ども産んで。
    そして死ぬ。
    人間と他の動物の違いは社会性なわけだけども、
    『砂の女』と『壁』の短編に共通するのは、社会性の喪失とか
    社会的に死ぬことなんです。
    フィジカルな面もあるんだけど、大概ソーシャルな面で。
    社会と隔絶されたり、名前を失ったり・・・

    安部公房は実存主義って言われてますけど、
    これまた「実存主義」とかそんなこと言うと難しい。
    今日、たまたま他の映画についての町山解説を聴いてたら、
    みんな知ってる『ショーシャンクの空に』の話が出てきたので書きますが、
    あの映画って、壁で囲まれた刑務所から穴掘って脱出して
    生きる意味=希望や、心の幸福=楽園を目指すって話じゃなかったですか?

    この『壁』も、そんなような話なんですよ。
    ショーシャンクで穴掘ってますけど、『壁』も自分の心を掘り下げる話です。
    空想の世界、心の楽園=エデン等々を目指すって話で。
    結末は違うんですけど、精神の話。

    それに関連して、資本主義や物質文明に対する警鐘。
    最後に収められてる『事業』とかまさにそうなんです。
    この作品は、金=宗教、金=神 みたいな話。
    そしてこれはSFです。今の方が実感持って読めるかもしれない。

    というわけで、短編集『壁』は、シュルレアリスムであり、
    ファンタジーであり、SFだという・・・一粒で二度も三度もおいしい作品。


    新潮文庫のカバー、『壁』だけは安部真知の旧版で、
    書店にもずっと残ってたんですけど、重刷されて変わりましたねー。
    新しいのも安部公房本人の写真で、それはそれで良いんだけど、
    古い方に味わいを感じてました。因みに挿絵は元のままです。

    で、新カバーにはどどーんと『The Wall』と。
    『The Wall』と言えばピンクフロイドですけど、
    安部さんも大ファンだったそうです。
    ピンクフロイドと言えばヒプノシスのジャケットでもありますね。
    (『The Wall』は違うけど)

    僕らには教育なんかいらないよ
    僕らには思想誘導なんかいらないよ
    ヘイ、先公ども!子どもたちを放っておけ!!
    結局、お前らもみんな、壁のたった一つのレンガでしかないんだ

    と、いう曲。
    今だったらもうちょっとちゃんと意味がわかると思うんで、
    また『The Wall』の映画も観たいんですけどねー。
    個人的にはこの時期のピンクフロイドはあんまり聴いてません。
    若い頃は音が嫌いで・・・シド関連のやつ、サイケ時代のは
    『シー・エミリー・プレイ』とかもCDで持ってるんですけど・・・。

  • さすがである。星5つ。

  • 名前がイニシャルだなんて、おかしい人に決まっている。

  • 何度も買いなおして読み直します。覚めない夢のなかで さまよっている時の感覚。何故か懐かしい孤独感。文章は簡単な言葉なのに 何故惹かれるのか。

著者プロフィール

安部公房(あべ こうぼう)
1924年3月7日 - 1993年1月22日
東京府北豊島郡滝野川町生まれ、満洲で少年期を過ごした。
1948年『終りし道の標べに』(「粘土塀」)により単行本デビュー。1951年「壁 - S・カルマ氏の犯罪」で芥川賞を受賞。その後は劇作も手がけた。1958年「幽霊はここにいる」で岸田演劇賞、1963年『砂の女』で読売文学賞、1967年『友達』で谷崎潤一郎賞、1975年「緑色のストッキング」で読売文学賞をそれぞれ受賞。他、受賞作多数。国内外に大きな影響を及ぼしており、ノーベル文学賞の候補者としても名前が挙がっていた。
主な代表作として『壁』『砂の女』『他人の顔』『箱男』など。

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