R62号の発明・鉛の卵 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121093

感想・レビュー・書評

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  • 安部公房らしい短編集
    よかった

  • 安部公房の短編集は読むのにすごくエネルギーがいる。長編小説であれば最初から最後までトップスピードというわけにはいかないので「遊び」がある。遊びとは、安部公房の世界から我々の住む、あるいは理解し得る世界へ戻って来れる瞬間のことである。しかし短編小説では向こうの世界に入ったっきり、物語が終わるまで帰ってくることができない。読者が通訳だとして、通訳の話す時間を与えるために適宜話すのを止めてくれるスピーカーが長編小説、自分の言いたいことを最初から最後まで一気に自分の言語で話してしまうスピーカーが短編小説といったところである。後者の場合、通訳である読者である我々はとにかくスピーカーが話すことを全神経を集中して頭にしみ込ませていかなければならない。しかも日本語に直している時間はないので記号として脳内に蓄積していくのだ。そして最後の最後に通訳を開始するときには記号であるところの文脈の欠落から断片的にしか思い出せない、日本語に直した後ストーリーが再構成できない、、、と呆然としてしまうのだ。額に汗だけかきながら。

    ピカソや岡本太郎の芸術作品は前衛的と言われる。国語辞典を引くと前衛的とは「時代に先駆けているさま」とある。しかし、「芸術」に対する社会通念を持ち合わせていない自分にとって、前衛的とは「わけが分からない」と同義だ。何が「わけが分からない」のか、ピカソや岡本太郎の絵を例に改めて考えてみると、生み出されたものから自分にとって有意な情報としてのメッセージを得ることができない、あるいはなぜそうでなければならなかったのかという背景なり作者の心情なりが理解できないということになると思う。しかし、前衛的なものがわけが分からないからといってまったくつまらないかというとそうでもない。前衛的な作品には前衛的ならしめる一歩進んだ何かがある。同じモチーフを使って絵画にしたとき、一般の作品であればおおよそ「芸術」と認識される範囲の中で作者の心情なりメッセージが付け加えられるところを、前衛的作品には「芸術」と認識される範囲を逸脱するという点においての「くずし」が入ってくる。この「くずし」の先にある作者の心情やメッセージが読み取れなくても、「モチーフをこんな風にくずすのか」という一点においても十分に感銘を受けることができる。同じく前衛的と評される安部公房の作品を楽しむ1つのヒントのようなものを本書で掴んだような気がする。

    安部公房の小説で言えばモチーフとは小説の場の設定であり、最初の設定を出発点としてそこから世界がどんどん歪んで来る。あるいは歪んだ世界が最初から存在していて、その中にいる登場人物たちが歪んだ思考、発言、行動をする。この歪みが「くずし」の領域に達してしまっている。この場の設定と歪みの関係にバランスとセンスを感じたのが「鉛の卵」と「人肉食用反対陳情団と三人の紳士たち」だ。

  • R62号の発明

    安部公房の作品に全て共通するが、まるで未来を見ているかのような、あるいは人類が常に共通して持つ特性のようなものを感じる。

    まるで昭和28年とはおもえないな

  • 時代もあって読みにくいところ難しくわからない部分もしばしば
    どの話にも怖さがある短編集

    ↓印象に残った作品メモ

    ■R62号の発明
    今でこそありそうな話だけどこれが昭和28年の小説だなんて
    所長の「何をつくるつもりだったんだ!」の叫びが悲痛

    ■パニック
    怖い話だけどほんとだよなぁと納得させられる
    犯罪者が発展に貢献する、たしかに
    戦争もそうだものなと

    ■盲腸
    映像にしても怖そう
    ラストの一文こわー

    ■耳の値段
    この作品集の中では唯一ほっこり?
    耳たぶを傷つけるためのふたりのがんばりが馬鹿らしくてかわいい(?)

  • 昭和30年前後の短編集。難解でシュールなものもあればSFものもあり、実験色のやや強い作品群で構成されている。

  • 「R62号の発明」「鉛の卵」「変形の記録」は特に、心に残る素晴らしいSF。思慮と冒険に満ちた作品の数々。

  • 大学4年生だったかな。まぁ、十何年も前のこと。ちょっとお手伝いしてたバイトのマスターが、好きな本なのだと、いくつか本を下さって、そこに安部公房の砂の女があった。それまでは、高校の教科書で赤い繭が載ってて、奇妙で怖い感じの話を書く人くらいの印象だったのだけど、

    そこからどハマりして、いくつか呼んだ記憶がある。
    でもこの初期の短編は、読んだことがなかった。

    久しぶりなのもあるし、初期なのもあると思うけど、初めはちょっと入り込みにくかった。

    後ろの方の、耳の値段や、鏡と呼子、鉄の卵辺りで、あぁこれこれ、そうだ、この感じ、となった。
    少し長いお話の方が、私には合ってたのかも。特に鉄の卵が良かった。突飛な状況と、見方が変わることによって全然世界が違く見えてくる感じ。

    今から70年とか前の話で、時代を感じるものもあれば、全然色褪せないものもある。鉄の卵のシチュエーションとか、進撃の巨人?とかDr.stones?とか思っちゃったりして。

    また、読み返してみようと、思った。

  • 途中入り込みにくい篇もあったが、最後の鉛の卵にて、やはりこれ、という結末。「スカッとしない展開」という意味でスカッとする転換劇。気づくと安部公房の論理のすり鉢状の砂に飲み込まれている。


  • 『変形の記憶』は名作。
    他はアイデア先行のゴチャっとした前衛的要素多く、初期の迸りの様な勢いを感じる短編集。

  • 変形の記憶、鍵、鉛の卵は面白い。この3つは記憶に残る作品だと思った。

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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