砂の女 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.75
  • (1175)
  • (1344)
  • (1849)
  • (162)
  • (45)
本棚登録 : 10827
レビュー : 1292
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121154

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  • ぶっちぎりで面白かった。
    今年は没後20年に当たるそうで、そのせいか書店で見かけた帯には「ノーベル賞受賞目前だった」というようなことが書かれていて、思わず苦笑してしまったけど・・・さもありなん。

    僕が読書を始めた理由は、自分よりも多く本を読んでいるはずの友人(女性)が「太宰(=昔の純文学、という意味で)とかよく読めるな・・・」と言っていたことへのささやかな反撥心からでした。
    いや、それまで全然読んだことなかったのだけど。
    そもそも純文学と大衆文学、ミステリ、ラノベにそこまでの差があるんかいな?と疑わしかったので。そこに線を引いて先入観を持ちたくない。
    だから反撥したくなる。

    この『砂の女』はまさにそんな作品でした。
    質の高いミステリ、スリラーでもある。
    映画で言うと、一頃流行った『ソウ』なんかの
    ソリッドシチュエーションスリラー、脱出もの。

    だけどそれだけじゃないよね。
    「それだけじゃない部分」がほんとに良い。
    現代人の「生きる意味とは?」という問いを、
    喉元まで鋭く突きつけてくる。
    この作品が発表された頃は、まだ戦後の焼野原の記憶が皆にあって
    今や「あたりまえ」になってることが「あたりまえじゃない」、
    半々ぐらいの時期。

    そう考えると、この作品を読んで「あたりまえのことしか書いてないじゃん」と
    もし今の我々が思ってしまうとしたなら、
    それは完全に「砂」に飲み込まれているのかもしれない。
    怖い。

    主人公の職業も、科学的思考も全部ツボ。
    趣味が昆虫採集で、新種を見つけて歴史に名を刻みたがってるんだけど、
    これって現代で言うところのオタクだよなあ。
    行動も思考も完全に。

    昭和初期の文学と比べると、これは'60年代の作品なので非常に読み易かった。
    安部さんの文章の巧みさもあって、すらすら読めました。


    余談その1
    映画版は岸田今日子だそうで、あまりにハマり過ぎてる。
    その昔、岸田さんが主演の『この子の七つのお祝いに』という映画がありまして・・・
    これも幼い頃のトラウマ映画のひとつ。

    余談その2
    これ、『沈黙』『フラニーとゾーイー』と同時にブックオフで
    新品同様を一冊100円でDigしたんだけども、
    昔の表紙は安部公房の奥さんの真知さんが描いたもの。
    現在は本人の撮った写真のやつに変えられてますが、
    これは昔のやつの方が絶対に良いのになあ・・・。
    晩年は不仲だったそうで、そのせいかもしれないですが
    新潮といいハヤカワといい、どうしてこうも昔の良い表紙を
    改悪してしまうんだろうか・・・。
    購買意欲が削がれるよ、ほんと。

  • この本を読んでいる間ずっと息がつまるような閉塞感を感じていた。砂の大穴という、人間が生活するにはおよそ適さない場所に男は奇妙にも招かれる。そこに期限も分からず閉じ込められるなんてなんて恐ろしいことか。だが男は脱出を何度も試みた最後そんな生活にも些かの満足を得るようになる。思い返せば、虫と砂を求めてこんな辺境にやってきたのも、教師をしていた生活に煩わしさを感じていたからではなかったか。義務からの逃避と自由への渇望を繰り返す男の姿は人間の根源的な何かを映していた。

  • 月に30冊くらい本を読みます。
    趣味が読書だというと、「面白かった本は?」「おすすめは?」と聞かれる機会が多い。
    直近でどんなに面白い本を読んでいても、
    いちばんに思い浮かぶ「面白かった本」は、中学生の時に読んだこの本です。
    多感な時の感動は、いつまでも鮮度を保つものですね。

    砂の流れる音が聞こえてくるような緻密な描写、
    スリリングで精緻なストーリー、
    何度読んでも新しい思考のきっかけをくれる、
    わたしにとっては永遠の「一番面白い本」。

  • 絶望と、その中にある微かな希望。それこそが人生とも言える。

    自分の知っている安部公房の中で最も読みやすく、テーマに迫れるような気がする。

  • 高校時代にはまった。
    登場人物は男と女だけ(だったと思う)で、ずっと砂のなかで物語が進行するのだが、濃密な世界観に惹き込まれ繰り返し読んだのを覚えている。

  • 最初にネタバレされるという斬新な作品。あっ、なるほど結局抜け出せないのね。
    この作品の妙は、最終的に男が自ら穴の生活を受け入れたところにあると思う。男の心情は、脱出の克己心でもなく、絶対に逃げられないという学習性無力感でもなく、「逃げられたのに逃げなかった」。

    安部公房の最高傑作との評判は伊達ではない。読んでるときはすんごい喉乾くしシャワー浴びたくなる。

  • 男がどうすれば穴から脱出できるか、にあくまで拘るように、観念的であり芸術的でもあるこの本を理解したいと思ってしまった。
    解説では、この小説は観念小説ではなく芸術小説であると書かれているが、私は哲学的要素が含まれていると感じた。
    男は研究者である。
    砂に囲まれた生活に仕合わせを見出す女に対して、初めはまったく共感できなかったが、納得する部分もあるよな、と徐々に侵食(?)されている自分がいた。
    面白かった

  • ざらざらとした砂の嫌な感じがいつまでも残る。
    閉じ込められて生きる女。変えることを望まず、ひたすら砂を掻き生きる女。小さな喜びに幸せを感じ自分の人生を生きる女。監視する村人。そして囚われた主人公。ざらざらとした砂と戦いながらも順応してゆく男。生き甲斐。幸せの意味とは?巧みな文体と比喩表現で、知らず知らずにこの気持ち悪い日常にのめり込んでゆく。主人公の選んだ結末も秀逸。

  • 閉鎖された空間が恐ろしい。
    「砂の女」の表情が目に浮かぶよう。ラストの主人公の選択へのストーリーの運びがさすが。

  • 冒険・ファンタジー・不条理・サスペンス・ラブ・お伽話・神話・サイコドラマ等など、あらゆる要素が盛り込まれた傑作( ´ ▽ ` )ノ。
    キーンさんが言ってるように、とにかく比喩・心理描写があまりにも巧み( ´ ▽ ` )ノ。
    人と接していてよく感じる、何か「モヤッとしたもの」、あれを寸分違わず明快に文章描写されてて、ドッキリ(゚д゚)!……まるでコーボーに自分の心を覗かれたみたい( ´ ▽ ` )ノ。
    話自体も、「砂」を時間と捉えるか世の煩いと見るか、「女」を広い意味での女性原理とするか無意識の象徴となすか、視座を変えるたびに様々な読み方が出来る( ´ ▽ ` )ノ。こういうところが名作と言われる所以だね( ´ ▽ ` )ノ。
    人生蟻地獄だ( ´ ▽ ` )ノ。

    真実とも似非ともつかぬ科学トリビアが散りばめられているところなど、スタニスワフ・レムの諸作をときおり髣髴( ´ ▽ ` )ノ。
    本作を原語で堪能できるのは、日本人として生まれた特権だね( ´ ▽ ` )ノ。

    しかし、ブクログのレビュー数(゚д゚)!。
    1000を超えてる(゚д゚)!。
    こんな昔の作家なのに、宮部みゆきや伊坂幸太郎にも遜色なしというのが驚異的だね( ´ ▽ ` )ノ。
    まあ、その理由も読めば分かるってもんだ( ´ ▽ ` )ノ。

    2016/04/19

著者プロフィール

安部公房(あべ こうぼう)
1924年3月7日 - 1993年1月22日
東京府北豊島郡滝野川町生まれ、満洲で少年期を過ごした。
1948年『終りし道の標べに』(「粘土塀」)により単行本デビュー。1951年「壁 - S・カルマ氏の犯罪」で芥川賞を受賞。その後は劇作も手がけた。1958年「幽霊はここにいる」で岸田演劇賞、1963年『砂の女』で読売文学賞、1967年『友達』で谷崎潤一郎賞、1975年「緑色のストッキング」で読売文学賞をそれぞれ受賞。他、受賞作多数。国内外に大きな影響を及ぼしており、ノーベル文学賞の候補者としても名前が挙がっていた。
主な代表作として『壁』『砂の女』『他人の顔』『箱男』など。

砂の女 (新潮文庫)のその他の作品

砂の女 単行本 砂の女 安部公房

安部公房の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
フランツ・カフカ
安部 公房
谷崎 潤一郎
宮部 みゆき
有効な右矢印 無効な右矢印
ツイートする