カンガルー・ノート (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101121246

作品紹介・あらすじ

ある朝突然、“かいわれ大根”が脛に自生していた男。訪れた医院で、麻酔を打たれ意識を失くした彼は、目覚めるとベッドに括り付けられていた。硫黄温泉行きを医者から宣告された彼を載せ、生命維持装置付きのベッドは、滑らかに動き出した…。坑道から運河へ、賽の河原から共同病室へ-果てなき冥府巡りの末に彼が辿り着いた先とは。急逝が惜しまれる国際的作家の最後の長編。

感想・レビュー・書評

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  • ある日突然足に「かいわれ大根」が生えた。
    病院へ行くと、医師から「温泉療法」を勧められ、彼を乗せたベットは目的地に向けて走り出した。

    ‥‥

    起承転結とか秩序とか辻褄なんてものはなく、なんといえばいいのか。
    ところどころ死に関連してる雰囲気が出ていて、この人どうなるんだろう?っていう疑問でずっと読み進めていた。
    最後の結末を見ても、「そういうことか」とはならなかった。

    2024年2月23日

  • 書影は文庫版だが単行本で読んだ。
    あえて前情報は入れずに読んだ。どうもこれが安部公房の遺作と言われているらしい。

    今回はどんな奇妙な出来事が起きるのだろうとわくわくしていたら、冒頭で語り手の脛に"かいわれ大根"が生えた。

    一方、タイトルの「カンガルー・ノート」というのは、会社員である語り手が提案した新製品の名前だ。なんとなく思いついた名前だったものの、オセアニアに隔離されることで生き延びた有袋類という脆弱な存在がかすかな悲哀を帯びて語り手の境遇を暗示するようだ。

    脛にかいわれ大根が生えた語り手は病院に行く。これまで読んだ安部公房の小説では、ここから、SF的な厳密な設定のもと、ナンセンスな物語が展開していく。はずだったが、本作はもう暴走しっぱなし。

    じっさい、語り手を乗せたベットはなぜか自走しはじめ、この世とあの世を隔てる賽の河原までいく。その後突如として「安楽死」のモチーフが浮上したりと気まぐれに物語は展開していく。

    もっとも、帯には「闇莫の私小説」と書かれていて、きっとこれは療養中の安部公房の境遇を反映している作品なのだろう。だから安易に死と本作を結びつけることはできるのだろう。でもそれではつまらなさそう。

    ともかく本作は肩の力が抜けている。そして闇莫どころかむしろ明るいのだ。安部公房作品のあの棘のある皮肉は鳴りをひそめ、むしろ滑稽さが際立つ印象。そして"やせ我慢”してる感じがない。語り手が自分を哀れむよりむしろ嗤ってるところがいい。
    彼が好きだったピンク・フロイドについて唐突に言及されたりして、油断さえしてる感じが演出されている。ばかばかしすぎて笑える箇所がいくつもあった。

    例えば死んだはずの語り手の母親が登場し、親不孝者!と語り手をなじるのだけれど、これやってみたかったもう一度言わせてくれと息子にねだるところ笑えた。でも解釈のしようによってはここ、泣けるところなのかもしれないひょっとして。

    読後、なんども繰り返し呪文のように繰り返される文句が頭から離れない。佐々木マキの絵本みたいな一節。

    ハナコンダ アラゴンダ アナゲンタ
    唐芥子ノ油ヲ塗ッテ バナナノ皮デクルミマス

    このふざけたばかばかしさ全開の行き当たりばったり小説、安部公房作品のベスト3に入れたいくらいに好き。

  • 病床に伏した安部公房が、見た夢を記録したような断片的で脈絡のない文章。しかし、一貫して死について描かれているのは、やはり自身の死期を悟ってのことでしょうか。
    個体としての死に向う中で、安部の高潔な精神と研ぎ澄まされた感性を垣間見ることができる作品。

  • 読んでいくうちに、主人公にとっては何処までが現実で、どこからが現実ではないのか、分からなくなってきた。
    でも、所々シュールな場面もあるし、色々なパワーワード的なものも出てくるので、全編を通して楽しく読むことが出来たし、何よりもユーモラスで読みやすかった。
    とは言っても、安部公房作品は、砂の女とこのカンガルー・ノートしか読んだことはないが…

    最後に現実世界で発見されて……と言う結末なのだが、この物語の中で起こっていることは、一体主人公にとっては何だったのだろう。どの時点からこうなっていて、どの時点で死んだのだろう。
    何だかとても不思議な気持ちになった。
    本当は脛からかいわれ大根なんて、生えて無かったんじゃないのか?でも、そうだとしたら最後の新聞記事は一体…何らかの理由で、廃駅の構内へ迷い込んでしまったのでは?全て(勤め先から何まで)主人公の妄想ではないのか?等々、考えてしまってこのままでは眠れなくなってしまう。笑
    そもそも、かいわれ大根が脛から生えるって、とんでもなくシュールだなとか訳わからんと思うけど、読みやすさの陰には、実は「死」と言うものがテーマとしてあるらしく、そう考えると下水道以後は死後の世界?トンボ眼鏡の看護婦は何かのメタファーなのか?

    もう一度読みたい。

    1日あれば読めると思うし、気楽に手に取って読める本なので、是非読んで不思議世界を味わって欲しいですね。

  • 再読。コレ本当に安部公房?あ、安部公房か。うわこれ、安部公房だわ・・・。

  • 最初の出だしはかいわれ大根?!となりましたが、すぐこれは死の物語なのか…と話の中身は分かり易く、時々ふっと笑ってしまうタイミングが合って、読みやすかった。澁澤龍彦の『高岡親王航海記』、安部公房版ですね。

    安部公房の半生全然知りませんが、これが自身の闘病生活を綴っているのだとすると(そのようにしか見えませんでしたが)、かいわれ大根とか言いつつ…とか、やはり排泄にまつわる辛さや、変わる視点・意識など、最後はこうなるのかとひしひしと思いました。ところどころで描写や文言がささって、ふっと笑うんだけど、笑った瞬間悲しくなってました。オタスケ オタスケ オタスケヨ オネガイダカラ タスケテヨの歌が本当に悲しくて…また読めないかもしれない、弱弱しさ・痛々しさが胸を打ったので。

    ピンク・フロイドの曲を聞きながら

  • ところどころ意味はわからないものの、読みにくいということはなかった。結果的には著者の遺作になったものだが、テーマが「死」っぽいのは途中からなんとなく感じていたし、最後に何かもうそろそろ終わりそうだという雰囲気を感じることができた。

  • ぞわぞわする。
    記憶と現実と夢と、どこにいるかわからなくなる。

  • 脛から、かいわれ大根が生えてくる。

    自走するベッドに乗って死へと向かう話。
    人想いに殺されず、惨めな気持ちにながら、だらだらと。
    ガン特有の死の遂げ方。

  • 自分の中で不条理といえばカフカと安部公房が二大巨頭なんですが、本作ももれなく不条理。なんと主人公の脚にスネ毛の代わりにカイワレ大根が生えてきちゃったという(笑)。

    たとえば足の指がペ○スになったり、お○○こに人面瘡が棲みついてしまっりするよりはマシなような気はしますが(そう思うと女性作家の発想のほうがえぐいですね)、奇病といえば奇病だし、何より主人公も恐れるように、脚だけでなく全身カイワレ大根に寄生されてカイワレ人間になってしまったらもはやまともな人生は送れない。まずは病院へ駆け込むところまでは当然の行動、しかしそこから点滴と尿道カテーテルでベッドに繋がれたままの主人公の彷徨が始まります。

    このベッドがとりあえずスゴイ。なんていうか、ベッドって家具じゃなくて乗り物だったんですね(笑)しかも水陸両用で、思念波で自走も可能。まるで愛馬のごとく常に主人公と共にあり、ときに自家用車同然に街中を疾走、あるときはトロッコのようにレールを滑走、さらにサーフボードのように荒波も乗り越え、もちろんどんなシチュエーションでも眠る場所には困らない。

    病院から謎の坑道、賽の河原からまた怪しい病院へ、採血上手な垂れ目の看護婦さんに翻弄されながら主人公のたどる黄泉と現実の境目の旅路は、しかしついにベッドが破壊されたときに当然終わります。

    安部公房は自身が戯曲を書いたり演劇にも関わっていたせいか、どこかしら舞台演劇っぽい印象を作品から受けることがあるんですが、理不尽な場面転換の仕方なんかが、舞台上の場面転換に通じるものがあるせいかもしれません。賽の河原も、なんだか書割のようなものが頭に浮かびました。野田秀樹あたりの演出で舞台化したら面白いかも。

    最晩年(平成になってから)の作品なので、三島と同世代の大正生まれの作家、という意識でいると、ピンク・フロイド(お好きだったらしい)の曲名が何度か出てきたりしてビックリします。電子レンジが出てきたときにもちょっとだけ驚きました(笑)

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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