(霊媒の話より) 題未定 安部公房初期短編集 (新潮文庫)

  • 新潮社 (2024年3月28日発売)
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本 ・本 (368ページ) / ISBN・EAN: 9784101121260

作品紹介・あらすじ

太平洋戦争末期、満州で激動の日日を過ごした青年は、その時何を思い、何を未来に残したのか――。漂泊民の少年が定住を切望する19歳の処女作「(霊媒の話より)題未定」、2012年新たに原稿が発見された、精神病棟から抜け出した男を描く「天使」、「壁―S・カルマ氏の犯罪」に繫がる「キンドル氏とねこ」。やがて世界に名を馳せる安部文学、その揺籃にふさわしい清新な思想を示す初期短編11編。

感想・レビュー・書評

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  • 幻の短編「天使」を含む、安部公房の初期作品をまとめた『(霊媒の話)題未定 安部公房初期短編集』が3月28日に発売。 | 株式会社新潮社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001352.000047877.html

    『題未定―安部公房初期短編集』(新潮社) - 著者:安部 公房 - 小野 正嗣による書評 | 好きな書評家、読ませる書評。ALL REVIEWS(朝日新聞 2013年2月24日)
    https://allreviews.jp/review/4809

    波 2013年2月号より 言葉を物として描くこと 三浦雅士
    安部公房 『(霊媒の話より)題未定―安部公房初期短編集―』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/300811/#b_review_item_155

    安部公房 『(霊媒の話より)題未定―安部公房初期短編集―』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/112126/

  • 高校生の時に現国の教師に安部公房の「壁」を教えてもって以来、夢中になって読み漁った。
    当時、発売されていた新潮文庫版は全て読んだと思う。
    好きだったな~。
    そして、今回の若い頃の初期短編集を初めて読む。
    感想は、僕には殆どと言うか、全くもって理解出来なかった。
    僕の知っている安部公房の作品の雰囲気がほのかに感じる事が出来たのは「キンドル氏とねこ」くらいだった。
    でも、残念な事に未完の作品。
    また、安部公房の作品が読みたくなった。
    こうして、読みたい本は限りなく増えていく。
    まるで、本の餓鬼だ。果てしない欲望に自分が吞み込まれていく。恐ろしい・

  • 読書会課題本でしたが、「天使」くらいまでしか読めてない時点で参加してしまい。
    今頃ようやく読み終わりました。

    後半の、「憎悪」「虚妄」「鴉沼」がじわじわくる好みのぐるぐるでした。
    安部公房作品、ピシャッとはまるものから、???のものまで色彩豊か…ではなくくすんだ色合いの砂とか水中都市に泳ぐ灰色の古代魚までさまざまな長編も短編もあって、読んでみなきゃわからないなぁとつくづく感じました。
    「闖入者」のあまりの怖さにトラウマを抱えているので、このような地雷をふまないようにして。
    「キンドル氏とねこ」は面白そうです。「壁」に続くのかしら…読みましょう。

  • 「題未定──霊媒の話より」
    霊媒師とは、要するにアドリブ俳優である
    霊魂に身体を貸したというテイで
    お芝居をやっている
    相手はそれを本当に先祖の霊魂と信じるのだけど
    それによって現世の鬱屈が
    いくらかでも癒やされるのなら
    単純に否定すべきものではないのである
    では、かの霊媒師はいかにして霊媒師になったか
    そういう話なんだけど
    これは、自分の話を他人事のように語っているのではなかろうか
    副題からそう臭わせることで
    自然主義文学へのひとつの問題提起ともなっている
    死者の意思が捏造されうる以上
    自らの経歴もまた捏造の可能性を免れない
    その事実を発見したことが
    反近代のはじまりなのかもしれない

    「老村長の死」
    販売者免許を持たず牛の乳を販売してはいけない
    その決まりを破った老村長が告発され
    議会に釈明を迫られる
    老村長としては、物資の不足する時代に
    むしろそうすることが正しいと信じて牛乳を売ったのだ
    しかしそこに私欲が介在せぬことを
    証明するのは難しかった

    「天使」
    精神病院の独房に閉じ込められてた人が
    そこを脱走した瞬間
    自分は天使になったと思い込む
    独房の外は未来…すなわちポストモダンであるなどと
    そんな信憑を抱いて街をさまよい歩く彼は
    しかしやはり他者とのふれあいに孤独を感じる
    やがて歌声が聞こえてきて
    彼は知らない家の窓にそっと近づいてゆく

    「第一の手紙〜第四の手紙」
    大体の場合において、社会への奉仕というものが
    当の社会に顧みられることはない
    男女間の愛情ですらも
    いつかはそこにあって当然という受けとめ方になるだろう
    それら無償の愛の背景に見えるのは
    おそらく神の顔である
    神様の存在は、普遍すぎてほとんど無視されている
    ならばそれを知らしめるために
    人が神を演じなければならないのだ…ってのが
    実は悪魔の教えなんだろうな

    「白い蛾」
    1000トンばかりの小さな船に
    迷い込んできた白い蛾との交流を通じて
    パワハラ船長の心が穏やかになる話
    「天使」の観念的続編と見るべきだろう
    作者にしてはロマンチックな仕上がりとなっている

    「悪魔ドゥベモオ」
    事故かなにかで右腕を失ったときから
    悪魔が見えるようになった
    悪魔曰く、神は右手を用いて人間を創造したという
    しかし右手は勝手な考えを起こし
    人間に名前を与えたり、知恵を授けたりしたので
    神はこれをみずから切り落としてしまった
    つまり、かつて神の右手だったものが
    今では悪魔と呼ばれているのだ
    これを聞いた男は、自分も神のようなものだと信じ
    仕事も家族も捨てて小説を書き始める
    しかし3年かけてもそれはまだ完成しておらず
    悪魔は元気を失ってきた

    「憎悪」
    メメントモリを意識しない者には
    生きているという実感も持ちえない
    そういう意味じゃ世の中は
    生きてるのか死んでるのかよくわかってない人たちだらけだ
    そんな哲学的ゾンビには
    あらゆる思想も意味をなさないだろう
    そして世の中の多数派とはそういうものであり
    自分だってそれに同調しなければまともに生活できないのだ
    自分のなかにふたつある心が互いを憎みあっている

    「タブー」
    捨てた我が子に自らの生きた証を受け継がせたい
    そんな夢想を抱きつつ
    木彫りの人形を次々に作っている老人
    タブーとはこの世に二つとないものである、などと言いながら
    タブーを託した人形はぞくぞく増えていく
    しかも彼はほとんど「構ってちゃん」状態にあって
    ボイスパーカッションみたいな音を出し
    隣の部屋の若い住人をイライラさせていた

    「虚妄」
    自己主張をせず、まじめな女で
    器量もよい
    たいへんな優良物件と思われたが
    これと向き合う男たちは
    なぜかたまらない気持ちになってしまう
    彼女の沈黙がなにか
    男たちのタブーを刺激するのかもしれない
    戦争が終わってからまだ3年も経ってない頃の話
    お前はなんで生き残ったんだ?という

    「鴉沼」
    1945年の9月
    満州の都市部において群衆の反乱がおきる
    その前日、戦争に引き裂かれた男女が再会するのだけど
    女は別の男と婚約していた
    安部公房にも敗戦によって失われたロマンがあったのだろう
    しかしわりと早い時期にそれらと決別したのか
    森鴎外の初期作品を少し思わせる

    「キンドル氏とねこ」
    キンドル氏が昇進すると同時に上役たちが不審な死をとげる
    未完成作品で、まだねこは出ない

  • 安部公房。
    半世紀も前に夢中になって読んだ作家で、未発表の短編集というので思わず手に取ったのですが、とんでもなく読むのに苦労した。読むのにパワーが必要な作家だったのだな、と妙な納得をしてしまった。

    「飛ぶ男」、どうしようかなぁ。

  • 「題未定」 なぜか読んでいてこれは菊池寛の作品ではないのかという錯覚に陥った。他にそれほど文学作品を読んでいるわけではないので比較の仕様もないのだが、この巧みな話の設定や文体など、どうも菊池寛を読んでいるときと同じなのだ。
    「老村長の死」 巡査の息子? 何だそれは。夢の中の話と思って読み流していたが。
    「天使」 なんだか一つもよく分からなかった。
    「第一の手紙~第四の手紙」 他人の顔の原型か
    「白い蛾」 船長の性格が変わるという話が、なんとなく良くわかった。
    「悪魔ドゥベモオ」 ドゥベモオとは何か。ググっても出てこない。本文にも出てこなかったと思うが。息子が出てくるということは珍しいのではないか。妻はでてこなかったが。
    「憎悪」 何かもう全然分からないのだけど、悪魔にしても憎悪にしても自分が自分に向かって喋っているように思える。
    「タブー」 小説の中身より、曖気(本当は口偏に愛)を調べていたらおくびと出てきて、ゲップのことだとは分かったが、口なのか日なのかどちらでもいいのか、さらにいま「あい」で文字を出そうとすると目があって口がなくて、何がなんだか分からなくなってきた。そんなたまたま隣の部屋にいるか? 毎晩タムタムうるさくてどうしようもなくなってというのは安部公房である。
    「虚妄」 砂の女の女だ。いや安部公房の女か。他人の顔の妻も結局実体がない。立ち現れない。いるようでいない。自分がない。何も無い。
    「鴉沼」 どこかで大切なものを読み逃してしまったか。火事?誰が燃やした?一緒に死のうとしたのか?夢の中の話かとも思ったがそうでもない。満州での出来事だろうか。うーん、女が実体を持っていた。
    「キンドル氏とねこ」 うーん、軽やかで読みやすい文章だと思ったら未完であった。カルマさんが登場している。

    安部公房は文庫本になっているものについてはたぶんすべて読んでいる。複数回読んでいるのは「第四間氷期」「砂の女」「他人の顔」「方舟さくら丸」といくつかの短編、戯曲。本書を読むと、後の作品につながるテーマがいくつも登場しているように思えた。と同時に若かりし頃の安部公房の、自分の書いた文章を世に出すことに対する葛藤のようなものも感じた。

  • ◾️収録作品◾️
    (霊媒の話より)題未定
    老村長の死(オカチ村物語(一))
    天使
    第一の手紙~第四の手紙
    白い蛾
    悪魔ドゥベモオ
    憎悪
    タブー
    虚妄
    鴉沼
    キンドル氏とねこ

    壁を読んだのが随分前だから、もっと記憶のある状態で読みたかった気持ちはある。
    ------
    (解説より)
    固い冷たい壁だと思っていたものが、実は無限そのものであり、恐ろしい不快な鉄格子だと思っていたものが、実は未来の形象そのものに他ならなかった訳なのだ。

  • 2024 12/05

  • 初期作品集。発表する予定なく未完のものも。題未定など筋がわかりやすいものから手紙のように観念的すぎて理解できないものまで、ある程度安部公房に触れていると作品のルーツを辿るように楽しめそう。虚妄などは印象的。

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著者プロフィール

安部公房
大正十三(一九二四)年、東京に生まれる。少年期を旧満州の奉天(現在の藩陽)で過ごす。昭和二十三(一九四八)年、東京大学医学部卒業。同二十六年『壁』で芥川賞受賞。『砂の女』で読売文学賞、戯曲『友達』で谷崎賞受賞。その他の主著に『燃えつきた地図』『内なる辺境』『箱男』『方舟さくら丸』など。平成五(一九九三)年没。

「2019年 『内なる辺境/都市への回路』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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