孤高の人 (下) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1973年3月1日発売)
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  • 本 ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101122045

感想・レビュー・書評

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  • 狂ったように冬山にのめり込んでいた加藤が、紆余曲折のあった結婚を機に、スッカリ人柄が変わったかのような生活を送る。ここの部分は純愛小説とも読める。

    また、社会人としての会社での生活はサラリーマン小説としての側面もある。単なる山岳小説ではなく色んな顔のある小説だが、かえって私にはそれが少々煩わしくも感じるところもある。ダイレクトに山岳小説に仕上げても良かったのではないか。しかしそれが物語に深みを与え、人間としての加藤の造形に深みを与えているのも確かだが。

    新田の作品には、山での気象の激変がとんでもない悲劇を招く作品がいくつかあるが、その部分の描写は、ある意味気象のプロとしての作者の顔が十分に活かされていて迫力がある。

    山に入るにあたっての心理的葛藤。山の中での宮村との確執。そして遭難に向かって突き進んでいく二人の行動。結末が分かっているだけに、この下巻は読み進むのが少々辛い。

  • やっと上巻に続き下巻を読み終えた。
    特に山に興味を持っていない私が読み終えるのはかなりきつかった。
    興味があったのは、上巻でも書いたが
    なぜ山に登るのか
    はじめは、ただ汗を流すため
    最終的には
    山そのものの中に自分を再発見する
    困難な立場に追いこまれれば追いこまれるほど
    人間的に成長していく。
    なんとなくわかるような気がします。

  • 私も山は好きだ。北アルプスにも行く。雪の山にも登る。

    結局は無謀だったのだ。

    孤高の人は孤高を捨てていた。
    家族を想い、山を想った。

    最後に自分の登山を貫くことができなかった加藤。
    読みながら宮村を疑い、加藤の甘さに怒りを覚えた。
    しかし、後味の悪さだけではない不思議な感情も残った。

    登山家とは常人には理解できない世界に生きているんだろう。儚くも輝かしい、孤高の世界に没した加藤文次郎に敬意を表する。

  • 山の本はノンフィクションに限ると思い込んできたので、名作の誉れ高い本書も未読だったのだけど、「本の雑誌」6月号山の本特集でどうも気になり、読むことにした。出だしはいかにも「小説」っぽい感じで、うーん、上下二巻読めるかしらんと思ったが、意外にもその後すぐにひきこまれて、結局ほとんど一気に読んでしまった。

    何と言っても孤高の登山家加藤文太郎の人物像がいい。自分の思う道を一心に突き進むまっすぐな人柄だが、口が重く人付き合いが苦手で、敵を作りやすく誤解されやすい。それでも、彼の個性を愛し、支えてくれる人もまた少なからずいる。どういうわけか、上巻の途中から、加藤文太郎の脳内イメージがピース又吉(「火花」の人ね)の姿になって、最後まで頭から離れなかった。孤独を好みながら、時に孤独を耐えがたいことと思い、そういう自らの心理を突き詰めて考えていくところが、似ているように感じたのかもしれない。

    また意外に思ったのは、当時(戦前)の社会情勢がかなり描き込まれていたことだ。山行の話中心の山岳小説だと思っていたが、これはかなり違う。全篇に、ひたひたと戦争に向かう社会の重い空気が漂っている。加藤文太郎の決して明るいとは言えない個性と、こうした背景が相まって、独特の作品世界を作っていると思った。

    加藤文太郎は、限られたエリートのものであった登山を、一般の社会人にも拓かれたものとする先駆けとなった人とされるそうだ。登山をめぐる状況も、社会の変化につれて大きく変わったのだなあとあらためて思う。また、作中に描かれる女性や家庭のありようも、いたって当然のことながら、きわめて古い。そうしたなかで、ただ一つあんまり変わってないんじゃ?と思ったのが、会社と、そこでのしがらみだ。なんだか苦笑してしまう。

    終盤の槍ヶ岳行は、さすがの迫力で、最初からその悲劇的結末が示されているのに、息詰まる描写が続く。加藤文太郎その人がまさにこうして最期を迎えたのだろうと思わせる、真に迫ったものがある。英雄として美化しすぎず、それでも心を寄せずにはいられない人物像が描き出されていて、胸を打たれた。

  • 単独登山の信念が結婚と幸せな家庭で揺れ動く様が読んでいて何とも言えない。
    読み終わって何とも言えない寂しさに包まれた。

  • 孤高の人、読み終わった。実在した主人公の加藤文太郎は素晴らしい人だ。結婚するまで変人と言われながらも、本当に山を愛し山に死んだ山男である。自分の信念を貫き通す事が出来ず、他人のペースに巻き込まれて最後となった結末はとても残念だ。
    信念を貫き通す事の大事さを痛感した。
    結末結果は知っていたが、なんとか頑張ってほしいと力が入り、最後は涙をこらえながら読了した。素晴らしい小説です。

  • ストーリーはわかっていたが、最後はどんどんと雪山に自分が引き込まれていく感覚に。そして幻聴と幻覚に惑う加藤文太郎に完全に感情移入してあっという間に読了。
    山について深く追求しているのだが、結局は人間とは何か、という問いを受けていることに気づく。色んな欲に苛まれる人達に、自分に厳しい加藤が最後は引き摺り込まれて、大事なものを見失うという人間の哀しい性。

    長崎の遠藤周作記念館で涙が溢れた言葉を思い出す:
    人間はかくも悲しいのに自然はかくもやさしい。

  • 加藤文太郎は感受性が高すぎて、
    自他に壁を作っているようだった。

    孤高とされるも、その内面は人間臭い。
    不器用ゆえに、ひとりになってしまう。

    理性は下山を勧める。
    しかし、頂に魅了され、登る。

    合理性を超えた魅力を、山に感じてしまった男の物語。

  • 孤高の人読了
    加藤文太郎の人間関係での不器用さ、数少ない友人を失って行くことの辛さ、わがままな後輩の好きなようにさせてやろうと自分の意見をを抑制するダメな優しさ。家族が新しくできたことで振る舞いがガラッと変わるところは幸せが伝わって来てニヤつきが収まらなかった。「花子さん、今帰ったよ」
    加藤文太郎が死ぬことが分かっていながら本のページを次へとめくるのは、心が焼き付けられるように痛かった。
    技師として優秀で、登山家として自分のオリジナル登山を身を以て体験し研究を重ねて行くのは、本当に素晴らしい人間だと感動した。
    嫌な人間が色々でできたけど、ヤキモキしてどんどん夢中になった。

    最後の北鎌尾根のシーンは、涙をこらえながら息をするのをがまんし鼻を膨らませながら読んだ。加藤文太郎を心配しながら待つ花子の気持ちは測りきれない程辛く、鼻の方に酸っぱいものがのぼってくる感覚がした。

    時間はかかったけど上下巻読めて読書の自信がついた。

  • 一人の登山家の人生をありありと追体験できました。私の望む方向へ物語が進むことを願いながらも、なかなかそうは行きませんでした。ただその時は重大で絶望的だと思ったことが、結果的にそうでもなかったりと、事実と解釈についても深く考えることができました。
     
    加藤文太郎は社会人登山家の先駆者であるばかりか、年次休暇全消化の先駆者でもありますね。そんな意味でも私の先輩と呼べるかも...。そして新田次郎は加藤文太郎と会ったことがあるんですね。社会を取り巻く様子は異なれど、人間心理はあまり変わってないなと、昭和初期に思いを馳せながら読了することができました。ありがとうございます。

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著者プロフィール

新田 次郎(にった・じろう):1912-80年。長野県上諏訪生まれ。旧制諏訪中学校、無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、1932年、中央気象台(現気象庁)に入庁。1935年、電機学校卒業。富士山気象レーダー(1965年運用開始)の建設責任者を務めたことで知られる。1956年『強力伝』で、第34回直木賞受賞。1974年、『武田信玄』ならびに一連の山岳小説に対して吉川英治文学賞受賞。

「2024年 『火の島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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