孤高の人(下) (新潮文庫)

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本棚登録 : 1993
感想 : 196
  • Amazon.co.jp ・本 (496ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101122045

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  • 私も山は好きだ。北アルプスにも行く。雪の山にも登る。

    結局は無謀だったのだ。

    孤高の人は孤高を捨てていた。
    家族を想い、山を想った。

    最後に自分の登山を貫くことができなかった加藤。
    読みながら宮村を疑い、加藤の甘さに怒りを覚えた。
    しかし、後味の悪さだけではない不思議な感情も残った。

    登山家とは常人には理解できない世界に生きているんだろう。儚くも輝かしい、孤高の世界に没した加藤文次郎に敬意を表する。

  • 山の本はノンフィクションに限ると思い込んできたので、名作の誉れ高い本書も未読だったのだけど、「本の雑誌」6月号山の本特集でどうも気になり、読むことにした。出だしはいかにも「小説」っぽい感じで、うーん、上下二巻読めるかしらんと思ったが、意外にもその後すぐにひきこまれて、結局ほとんど一気に読んでしまった。

    何と言っても孤高の登山家加藤文太郎の人物像がいい。自分の思う道を一心に突き進むまっすぐな人柄だが、口が重く人付き合いが苦手で、敵を作りやすく誤解されやすい。それでも、彼の個性を愛し、支えてくれる人もまた少なからずいる。どういうわけか、上巻の途中から、加藤文太郎の脳内イメージがピース又吉(「火花」の人ね)の姿になって、最後まで頭から離れなかった。孤独を好みながら、時に孤独を耐えがたいことと思い、そういう自らの心理を突き詰めて考えていくところが、似ているように感じたのかもしれない。

    また意外に思ったのは、当時(戦前)の社会情勢がかなり描き込まれていたことだ。山行の話中心の山岳小説だと思っていたが、これはかなり違う。全篇に、ひたひたと戦争に向かう社会の重い空気が漂っている。加藤文太郎の決して明るいとは言えない個性と、こうした背景が相まって、独特の作品世界を作っていると思った。

    加藤文太郎は、限られたエリートのものであった登山を、一般の社会人にも拓かれたものとする先駆けとなった人とされるそうだ。登山をめぐる状況も、社会の変化につれて大きく変わったのだなあとあらためて思う。また、作中に描かれる女性や家庭のありようも、いたって当然のことながら、きわめて古い。そうしたなかで、ただ一つあんまり変わってないんじゃ?と思ったのが、会社と、そこでのしがらみだ。なんだか苦笑してしまう。

    終盤の槍ヶ岳行は、さすがの迫力で、最初からその悲劇的結末が示されているのに、息詰まる描写が続く。加藤文太郎その人がまさにこうして最期を迎えたのだろうと思わせる、真に迫ったものがある。英雄として美化しすぎず、それでも心を寄せずにはいられない人物像が描き出されていて、胸を打たれた。

  • 単独登山の信念が結婚と幸せな家庭で揺れ動く様が読んでいて何とも言えない。
    読み終わって何とも言えない寂しさに包まれた。

  • 孤高の人、読み終わった。実在した主人公の加藤文太郎は素晴らしい人だ。結婚するまで変人と言われながらも、本当に山を愛し山に死んだ山男である。自分の信念を貫き通す事が出来ず、他人のペースに巻き込まれて最後となった結末はとても残念だ。
    信念を貫き通す事の大事さを痛感した。
    結末結果は知っていたが、なんとか頑張ってほしいと力が入り、最後は涙をこらえながら読了した。素晴らしい小説です。

  • 加藤文太郎は感受性が高すぎて、
    自他に壁を作っているようだった。

    孤高とされるも、その内面は人間臭い。
    不器用ゆえに、ひとりになってしまう。

    理性は下山を勧める。
    しかし、頂に魅了され、登る。

    合理性を超えた魅力を、山に感じてしまった男の物語。

  • 孤高の人読了
    加藤文太郎の人間関係での不器用さ、数少ない友人を失って行くことの辛さ、わがままな後輩の好きなようにさせてやろうと自分の意見をを抑制するダメな優しさ。家族が新しくできたことで振る舞いがガラッと変わるところは幸せが伝わって来てニヤつきが収まらなかった。「花子さん、今帰ったよ」
    加藤文太郎が死ぬことが分かっていながら本のページを次へとめくるのは、心が焼き付けられるように痛かった。
    技師として優秀で、登山家として自分のオリジナル登山を身を以て体験し研究を重ねて行くのは、本当に素晴らしい人間だと感動した。
    嫌な人間が色々でできたけど、ヤキモキしてどんどん夢中になった。

    最後の北鎌尾根のシーンは、涙をこらえながら息をするのをがまんし鼻を膨らませながら読んだ。加藤文太郎を心配しながら待つ花子の気持ちは測りきれない程辛く、鼻の方に酸っぱいものがのぼってくる感覚がした。

    時間はかかったけど上下巻読めて読書の自信がついた。

  • 一人の登山家の人生をありありと追体験できました。私の望む方向へ物語が進むことを願いながらも、なかなかそうは行きませんでした。ただその時は重大で絶望的だと思ったことが、結果的にそうでもなかったりと、事実と解釈についても深く考えることができました。
     
    加藤文太郎は社会人登山家の先駆者であるばかりか、年次休暇全消化の先駆者でもありますね。そんな意味でも私の先輩と呼べるかも...。そして新田次郎は加藤文太郎と会ったことがあるんですね。社会を取り巻く様子は異なれど、人間心理はあまり変わってないなと、昭和初期に思いを馳せながら読了することができました。ありがとうございます。

  • 昭和初期に、単独行で名を馳せた、加藤文太郎の人生を追った小説。本当は優しいのに人づきあいが下手な加藤が、山にのめりこんでいき、やがて数々の冬山の単独行で有名になる。そんな彼も結婚し、子供をもうけて、山を控えるようになるが。。
    新田次郎の乾いた、しかし鋭い筆で描かれる山行のシーンに引き込まれます。実在の人物をもとに描かれたと思われる登場人物たちも、個性豊かで映画のよう。
    加藤と同じ生き方はできないけれど、彼の人生や仕事、そして山に対する真摯な姿勢には大きな感銘を受けました。

  • ひたすらに山に登る人付き合いの苦手な社会人登山家の話。
    仕事もしっかりやり、だれに迷惑をかけるわけでもなく、無欲に登山をするだけなのに、周囲の人の欲に引きずり込まれ最終的には命までもなくしてしまう。
    幸せだったのか、そうじゃなかったのか、人によって感じ方は違うと思うが、なんだか幸せとかそういうものとは階層の違うところの人生に思えた。

  • 加藤文太郎の出身地の町報でこの本が紹介されていたのが読み始めたきっかけです。この本は町民全員に読んでもらいたい。上巻と下巻では加藤文太郎に対する印象が随分変わってくるので、必ずセットで読むように。

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著者プロフィール

新田次郎
一九一二年、長野県上諏訪生まれ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。八〇年、死去。その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。

「2022年 『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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