八甲田山死の彷徨 (新潮文庫)

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  • / ISBN・EAN: 9784101122144

感想・レビュー・書評

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  • 今の会社に入って選抜研修に参加した時の課題図書でしたが、研修終了後も何度も読み返した一冊。

    研修ではリーダーとして神田大尉と徳島大尉を比較し、違いを理解しながら目指すべきリーダー像を討議していきました。

    著者の読み終えた作品の中ではぶっちぎりに好きな作品です。

    明治時代の悲しき史実。

    日露戦争を目前にし、真冬の八甲田山で行われた雪中行軍は199名もの死者を出してしまいます。

    真冬の八甲田山、死の足音を聞きながら軍隊という環境の中で行われる指揮命令はまさに隊員の命を左右します。

    息づかいや、風の音、人々が倒れる音、活字から音を感じた作品としては本書が初めてだった気がします。

    その位にリアルな描写はお見事としか言いようがありません。

    辛く、悲しい歴史と共に未読の方は是非!!

    レビューを書きながら、又、読みたい気持ちがフツフツと。

    年末年始休暇には2年振りの帰省をしようと思っているので、帰ったら探してみよう!!


    説明
    内容紹介
    明治35年、青森・八甲田山で起きた大規模遭難事件。
    陸軍によって隠蔽されていた、199名の死者が出た実際の悲劇を発掘、小説化した。
    高倉健、北大路欣也主演の映画原作としても知られる。北大路の台詞「天は我々を見放した」は流行語となった。

    日露戦争前夜、厳寒の八甲田山中で過酷な人体実験が強いられた。神田大尉が率いる青森5聯隊は雪中で進退を協議しているとき、大隊長が突然“前進”の命令を下し、指揮系統の混乱から、ついには199名の死者を出す。徳島大尉が率いる少数精鋭の弘前31聯隊は210余キロ、11日間にわたる全行程を完全に踏破する。2隊を対比して、組織とリーダーのあり方を問い、自然と人間の闘いを描いた名作。

    【目次】
    序章
    第一章 雪地獄
    第二章 彷徨
    第三章 奇蹟の生還
    終章
    解説:山本健吉

    【大ヒット映画原作】
    1977年、東宝。監督:森谷司郎、脚本:橋本忍。出演: 高倉健(徳島大尉)、北大路欣也(神田大尉)、丹波哲郎(児島大佐)、三國連太郎(山田少佐)、加山雄三(倉田大尉)、秋吉久美子(滝口さわ)ほか超豪華キャスト!

    本文より
    「救助隊だ!救助隊だ!」
    と叫ぶ声が続いた。
    「お母(が)さんに会えるぞ」
    と叫んだ兵隊がいた。一声誰かが母に会えると叫ぶと兵たちは、口々に母の名を連呼した。(略)兵たちは、救助隊を見て、すぐ母を思った。いま彼等の心には母しかなかった。母が居たら必ず助けてくれるだろうし、生きることは母に会えることであった。
    倉田大尉には救助隊は見えなかった。神田大尉にも見えなかった。二人は顔を見合せてから、兵たちが指さす方向に眼をやった。風の中に疎林の枝が揺れ動いていた。飛雪の幕が、横に動いて行くのを見ながら、ふと眼を飛雪に固定すると、今度は木が動くように見えることがあった。……(第二章「彷徨」)

    本書「解説」より
    八甲田山の事件の真相は、長く国民には知らされないままになっていた。日露の風雲が切迫していたということもあったろうし、その上に陸軍の秘密主義ということがあったろう。軍の責任に触れ、その恥部を国民に知らしめることを怖れたのだ。(略)
    徳島大尉始め、雪中行軍に加わった第三十一聯隊の士卒の半数は、二年あとの日露戦争には、黒溝台の激戦で戦死または戦傷している。成功者も失敗者も、死の訪れには二年の遅速があったに過ぎなかった。それは、日露の戦いの準備行動で死んだか、戦いそのもので死んだかの違いに過ぎなかった。
    ――山本健吉(文芸評論家)

    新田次郎(1912-1980)
    1912(明治45)年、長野県上諏訪生れ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。1956(昭和31)年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、1974年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。1980年、心筋梗塞で急逝。没後、その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。実際の出来事を下敷きに、我欲・偏執等人間の本質を深く掘り下げたドラマチックな作風で時代を超えて読み継がれている。


    メディア掲載レビューほか
    この世の地獄! 日本陸軍史に残る悲惨な事件を味わう

    日露戦争前夜の1902年、一つの壮大な人体実験が行われた。厳寒の積雪期において軍の移動が可能であるかを、八甲田山中において検証すべし。青森第五聯隊の神田大尉と弘前第三十一聯隊の徳島大尉は、それぞれ特命を受けて過酷な雪中行軍に挑むことになる。この世の地獄が前途に待ち受けているとも知らずに。

    新田次郎『八甲田山死の彷徨』は日本陸軍史に残る悲惨な事件を題材とした山岳小説である。気象学を修め、登山家でもあった新田の描く雪山の情景は、恐ろしいほどの現実感をもって読者の胸に迫る。雪地獄の中に呑み込まれていく兵士たちの姿は余りにも卑小であり、大自然の脅威を改めて認識させられる。

    2つの部隊は明暗がはっきりと分かれる。深雪の対策を行った三十一聯隊が1人の犠牲者も出さずに任務を完遂したのに対して、気象の苛烈さを侮り、精神論で行軍に挑んだ五聯隊は199名もの死者を出してしまうのだ。組織が自壊するプロセスを描いた小説でもある。雪の中で絶望した神田大尉は「天はわれ等を見放した」と呻くがそうではない。合理性よりも軍人としての面子を優先して行動を開始したその時、彼らにはすでに死の影が忍び寄っていたのだ。兵士たちを殺したのは軍が抱えていた病理そのものだったといえる。終章で語られる二挺の小銃を巡るエピソードに、その異常さが集約されている。

    新田の筆致は冷徹を極める。不可避の運命へと向けて行軍していく者たちの姿が眼前に浮かび上がるが、押し止めることは不可能なのである。読者は、一つ、また一つと命が失われていくさまを、ひたすら見つめ続けなければいけない。(恋)

    評者:徹夜本研究会

    (週刊文春 2017.3.16号掲載)

  • これまたトラウマ作品です。
    極限の寒さと疲労のため精神に異常をきたして、吹雪のなか着ている服を脱いで裸になってそのまま凍死する兵士。
    子供の頃、テレビで見たワンシーンが強烈でした。
    小説では雪山と、それに翻弄されながら生死を分ける二つの部隊の描写は、気象学者でもある新田次郎でなければ書けなかったと思います。
    組織の在り方とか、明治という時代の暗さとかいろいろ考えさせられる作品でした。
    映画もちゃんと観ないといけないな。

  • 日露戦争前に日本の陸軍が実施した冬季八甲田山縦走の悲劇を描いたドキュメンタリー的な小説。
    日露戦争と太平洋戦争との違いこそあれ、「失敗の本質」と共に日本組織の問題点を可視化した良著だと思う。

    『失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫 と 18-1)』 https://booklog.jp/item/1/4122018331

    • hibuさん
      こんにちは。
      私も読みました!
      日常生活においても教訓になる本だと思いました^_^
      こんにちは。
      私も読みました!
      日常生活においても教訓になる本だと思いました^_^
      2022/08/28
    • さんとさん
      おはようございます。
      確かに!
      職場でも上司の横槍や準備・調査不足、他部署との連携不足でのトラブルが多いですもんね ^_^;
      おはようございます。
      確かに!
      職場でも上司の横槍や準備・調査不足、他部署との連携不足でのトラブルが多いですもんね ^_^;
      2022/08/28
    • hibuさん
      ほとんど人間関係のトラブルですね笑
      気をつけます!
      ほとんど人間関係のトラブルですね笑
      気をつけます!
      2022/08/28
  • 何度目の再読だろうか。

    エンタメとしても一級品だが、やはりどうしても組織論、リーダーとはとか、第二次大戦前の日本という国のあり方の問題点等の視点で読んでしまう。色んな読み方が出来るのが本書のすごいところ。

    確か昨年遭難事故の真実を描いた作品が出てるはずなのでそちらも読んでみたい。

  • 史実を基にしたフィクション作品ですが、行軍の様子や雪山の厳しさ、備えの大切さ、リーダーの資質など様々なものがリアルに迫り、物語に引き込まれていきました。読後感はおおいに学びになった、そんな印象です。オススメ!

  • 事実を題材としているがあくまでもフィクションであることは、まず十分に念頭に置いて読もう…というスタンスで読んだ。だが、だがしかし…

    あはれ、神田大尉。憎むべきが山田小佐。
    この構図は頭から拭い去れなかった。

    無能な上司の虚栄心に運命を左右された若者たち…という一面は、おそらくこの本を読めば誰もが抱く感想であろうから、ここでは特には言わないでおく。

    許せないのが、救出後の山田少佐の自決。
    「全ての責任は自分の浅慮にある、遺族に詫びたい」と遺しての自決は潔し………………などとは、1mmも思わない。

    自分の無知・無謀を認めた点にこそせめてもの救いはあるけれど、、、、


    死ぬのは「逃げ」だよね、と。

    凍傷で手足を失った部下達も、
    同じく手足に後遺症を遺した案内人達も
    (しかも彼らは軍人でさえない)、
    息子や夫に先立たれた、部下たちの遺族も、
    もちろん自分の妻も、子らも、

    無謀な計画を立てたと何人にも思われたであろう神田大尉の名誉に関しても、
    捜索に駆り出された組織の仲間達も、
    後始末をやりくりした上司も、
    捜索に費やされた費用も、(つまり国民の税金)

    、、、一見して「潔し」と思われがちな「自決」などという行為によって、彼本人にとっては全てが「無」になってしまうのだから。


    卑怯極まりないな、と。


    彼は、生きるべきだった。自分の言動の非を認めるからこそ、それを悔いながら、また世間の責めを甘受しながら、そして当然自分にも残ったであろう後遺症と付き合いながら余生を生きるべきだった。



    現実世界で重大事件を引き起こした人間も
    ミステリやドラマ、映画などのフィクションの犯人も
    自決や自殺で自ら死を選んで楽な道へ行く輩を、心から許せないと思った。

    ★4つ、9ポイント半。
    2020.02.25.新。

    ※さて、思わずかなり熱~く感想を書き散らかしてしまったが、あくまでも本作はフィクションだということは、忘れないようにせねば。

    取材に基づいたノンフィクション等での情報も、ちゃんと得ておきたいとも思った。

  • こんな小説を読んだ後に、なんと感想を書いていいのかわからない。思ったことが上手く文章で表せる自信なく、もどかしい…でもレッツトライ↓

    八甲田はBCで数回訪れたことがあって、その土地を舞台にした小説に興味はありながら、私の中の楽しい思い出とは真逆の、「雪中行軍」(字面ですでに恐ろしい!)の厳しい印象、プラス、「八甲田山死の彷徨」という題名の厳しさに恐れ慄いて、なかなか手が出ず、こちらもまた長ーい積ん読状態の本を、先日の剱岳の点の記の波に乗って、読んでみた。今新田次郎きてます!

    八甲田山の雪中行軍ね、と事件についてなんとなく知ってる気でいたけど、読み終わって思うのは1%も知ってはなかった。日露戦争に向かう事件当時明治35年の気風や、日本陸軍の階級制度、指揮官の統率、各個人の性質、、とても複雑に事象が絡んでいて一口に誰々が悪いとか単純な話じゃない。色んな気持ちから読み解ける小説はやっぱり良書ですねぇ。

    決して明るい話ではないです、結論見えてるし。でも久しぶりに本の中に入ったし、読んでよかった。

    よく練られたであろうタイトルに、一口言うのはおこがましいけど、やっぱり「死の彷徨」なんて(しかも明朝体で!)ついてなかったら、もう少し早く手に取ってたかもなぁ。

    2021.6.1

  • リーダーの判断の責任と重さ、日本の軍隊の恐ろしさを感じる話だった。

    神田大尉がなんとか助かる道を見出しても、上層部の圧により、じわじわと死に近づいていく無念さが辛い。

    雪山の恐ろしさ。
    あまりにもの疲労と寒さと過酷な環境により、幻覚を見たり、正常な判断力ができくなっていく恐ろしさを感じた。

    2021年9月1日

  • 新田次郎作品は、どれも読み始めから没頭までに少し時間を要していたのだが、本作は最初から一気に没入してあっという間に読み終えた。
    登山経験があるだけに、夫々の登場人物の立場に立って自分ならどうしたかという視点でも読むことが出来、最後まで非常にドキドキさせられた。

    生還した第二十一聯隊のその後の人生も衝撃の一言。

  • 1902年の八甲田雪中行軍遭難事件をモチーフにしているが史実より新田氏の小説のほうが有名であろう。

    年間降雪量世界一の都市は青森市だが特に雪深い八甲田山へ満足な雪上装備もないままの雪中行軍はまさに無謀な人体実験といえる。日清戦争勝利の興奮冷めやらぬまま日露戦争を迎えんとする高揚感と不安感が渦巻く異様な狭間期に起こった事件である。そうした中でも徳島大尉は軍隊的規律と実証的判断を以って11日間の210キロ余の雪中踏破を成し遂げる。対照的に青森第五聯隊の指揮命令系統の混乱や調査不足が199名の死を招いた。では第五聯隊の指揮官が無能であったかというとそうではない。山田少佐しかり神田大尉しかり自責の念に堪えかね自決を遂げている。つまりは厳寒期の八甲田山行軍自体が多分に無謀な計画であり、軍部幹部らの認識の甘さか聯隊の悲劇を生みだしたのである。

    さらに単に教訓話や英雄話で終わらず本作を名作たらしめているのは第三章以降である。第五聯隊の捜索とともに、二挺の銃を巡る詳述や遺族補償は「軍」とは階級と規律を重んじる組織であることを思い起こさせ、明治特有の閉鎖的で暗鬱とした雰囲気を横たわらせる。津村中佐の独白のような雪中行軍の意義と日露戦争での各自の顛末は何ともやるせない。

    山岳小説家として著名な新田次郎氏であるが、自然に向き合ったときの人間についての深い洞察力を感じさせる。

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著者プロフィール

新田次郎
一九一二年、長野県上諏訪生まれ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。八〇年、死去。その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。

「2022年 『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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