アイガー北壁・気象遭難 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101122151

感想・レビュー・書評

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  • 私は絶対に味わうことがないと思う、登山のスリルを本で味わえるなんて、だから読書は素晴らしいですね。

  • 山岳小説短編集。いくつかの遭難話は実話だそうで。タイトルのアイガー北壁の話は実名で書かれていた。アイガーの目の前まで行ってきたから(だから読もうと思った)、実名で出てくる付近の地名で場所がよくわかった。

  • あー疲れた。
    という感想が出る本はなかなかない。
    遭難したり、道に迷ったり、仲間を失ったり、困らされたり、落ちたり、滑ったり、亡くなったり。
    そんな心臓に悪い山岳短編を十四編も読んだら、もう山に登りたくないというか、たっぷり登ってきたような気になれた。アルプスも行ったし。
    アイガー北壁を読みたくて借りたけれど、満足。
    新田次郎さんの他の作品も読んでいこう。

  • 「新田次郎」の山岳小説短篇集『アイガー北壁・気象遭難』を読みました。

    ここのところ、山岳関係の読書が続いていますが、「新田次郎」作品は一昨年の10月に読んだ『雪のチングルマ』以来なので久しぶりですね。

    -----story-------------
    取りつき点から頂上まで1800メートルの巨大な垂直の壁に挑んだ2人の日本人登山家の実名小説『アイガー北壁』。
    2人のパーティーが白馬岳主稜で吹雪にあい、岩稜から姿を消す『気象遭難』。
    冬期の富士山で、不吉な予測が事実に変って主人公の観測所員が滑落死する『殉職』。
    他にヨーロッパ・アルプスを舞台にした『オデットという女』『ホテル氷河にて』など、山岳短編の傑作全14編を収録する。
    -----------------------

    昭和33年(1958年)から昭和45年(1970年)に発表された山岳小説ばかりを集めた作品で、以下の14篇で構成されています。

     ■殉職
     ■山の鐘
     ■白い壁
     ■気象遭難
     ■ホテル氷河にて
     ■山雲の底が動く
     ■万太郎谷遭難
     ■仏壇の風
     ■氷雨
     ■アイガー北壁
     ■オデットという女
     ■魂の窓
     ■涸沢山荘にて
     ■凍った霧の夜に
     ■解説 近藤信行


    『殉職』は、40年以上も富士山の山案内人を努め、誰からも一目置かれた存在である「永島辰夫(59歳)」が、富士山測候所交替勤務のための登山中に感じた不吉な予想が現実となる物語、、、

    これまで7年~8年の周期で7合8勺の地点で所員が事故を起こし遭難するという不思議な因縁があり、今年はちょうど8年の周期にあたる昭和33年… 「永島」は、一緒に富士山頂へ向かう5名のうちのひとり「柿沼好之」の行動に過去の遭難者と似た兆候を見て不安を感じながら、最後尾に位置して富士山を登って行く。

    昭和33年(1958年)2月26日に富士山測候所の交代勤務のため登山中に富士山御殿場口7合目において遭難した「長田照雄」氏をモデルにして書かれた作品とのこと… いやぁ、意外な結末、、、

    まさか、不吉な予想をした本人が因縁の人物になるとは… 誰も想像しなかったでしょうね。


    『山の鐘』は、山岳会のリーダークラスの「土井徳郎」が同じ山岳会の女性「鶴島美津子」と「松永ユキ」の二人から冬山登山をせがまれて、三人で11月の北アルプスに行くことになるが、天候の急変により遭難しかけ山中を彷徨うことになる物語、、、

    生死の境を彷徨う中で、女性達は、もし死んだとしても美しくありたいと、化粧品や香水まで持ち歩いていた… 女性達の寝袋まで背負わされていた「土井」は怒りが爆発し、香水の瓶を割り、化粧袋を投げ捨てる。

    そして、二人を憎悪した「土井」は、一人で進んで行く… 結局、三人とも救出されるのですが、女の強かさを感じさせる作品でした、、、

    他の作品でも感じましたが、「新田次郎」って山ガール(女性登山家)のことを好ましく思っていなかったような… そんな印象を受ける作品でした。


    『白い壁』は、冬山を訪れていた大学山岳部の五人のうち、先輩の二人(チーフリーダー「菊池弥太郎」、副リーダー「栗原辰三」)がルート偵察に行っている間に残りの三人の大学一年生(「佐々木晴夫」、「杉浦龍作」、「若林俊平」)が雪崩に巻き込まれる物語、、、

    「若林俊平」は雪崩の中から奇跡的に脱出して単独で脱出… 「佐々木晴夫」は雪崩に押し流されず、先輩二人と合流することができ、山中を彷徨いながらも10日後に帰還するが、残る一人の「杉浦龍作」は行方知れずとなる。

    捜索活動をしていた山岳部の部長等は二重遭難を恐れて引き上げようとするが、助かった4名は「杉浦龍作」を探し出すまでは下山しないと主張する… ここで物語は終わるので、ちょっと中途半端な感じはしますが、『殉職』、『山の鐘』に続き、冬山の恐ろしさに警笛を鳴らす作品になっていると思います。


    『気象遭難』は、二人の男性が冬の白馬岳主稜を目指すが天候が急変し、猛吹雪の中で遭難してしまう物語、、、

    旧知の山岳会のメンバーが1日遅れで彼らのルートを追っていたが、山岳会内部でのトラブルによる感情の縺れから、二人は先を急いだため雪塊に押し流され滑落死してしまう… 天候を読み誤ったことと、仲間の力を借りることを避けたことが運命を決定づけてしまいましたね。


    『ホテル氷河にて』は、著者のアルプス旅行(フランス ドーフィネ山群中の雄峰ラ・メイジュの南壁を見るために訪れたラ・ベラルドという寒村のホテル・デ・グラシェに宿泊)の経験をもとに描かれた物語、、、

    アルプスでも観光地化していない寒村のホテル「氷河」に宿泊した「芳村公平」が、そこで出会ったユニークな人々(四人の宿泊客や従業員等)と過ごした夏の十日間が淡々と描かれています… 紀行エッセイっぽい作品でしたね。


    『山雲の底が動く』は、山岳会の山行に会員のひとりで新婚の「塩沢」が登山には全くの素人である新妻を同行することになったことから、会長「佐々村」が不安を募らせ、その不安が的中する物語、、、

    かつて「佐々村」は、山岳会の山行に新婚の「河原夫婦」が加わり失敗した経験があった… 妻は挫折して途中で下山したものの、夫は自分の荷物だけでなく、妻の荷物(下山後のためにハイヒールやハンドバックを含む)を背負い、さらに夫は妻に下山する時刻を約束していたために悪天候の中で行程を焦り転倒して頭を打ち、命を落としていた。

    「佐々村」の嫌な予感が当たる、、、

    妻との約束を果たすために「塩沢」は悪天候の中、登山の鉄則を破り夜間に無理な下山をして、あわや遭難という体験をする… 安全を優先するのか、妻との約束を優先するのか、キチンと判断できなくなることは、本当に危険ですね。


    『万太郎谷遭難』は、女性登山家の「羽村美津子」が単独で谷川岳に登るが、女性の単独登山を奇異の目で見られたくないという気持ちから、人の少ない尾根をコースに選んで進むが、道に迷ったうえに捻挫をして動けなくなってしまう物語、、、

    遭難死か… と思わせるような展開でしたが、目立つように木の枝にマフラーを結わえ、体力を消耗しないように、じっと救助を待ち続けて、偶然、通りかかったパーティーに助けられるという展開でした。

    軽率な単独行動でしたが、冷静に救助を待った判断や沈着な行動には学ぶものがありましたね… 「新田次郎」作品には珍しく、女性登山家の良い点が描かれた作品でした。


    『仏壇の風』は、息子「君雄」を山で失った母親が、山岳会のメンバー等、息子を山に誘った人たちに憎しみを抱くが、息子が山を目指した真の理由を知り、自分の過ちに気付く物語、、、

    初七日、四十九日と山岳会のメンバーは「君雄」の遺影の前に集まる… そのたびに母親の「まさ子」は憎しみを募らせて行く。

    百カ日の日にも、山岳会のメンバーが集まるが、山岳会のメンバーに電話連絡があり、彼らは慌ただしく行動を始める… 「まさ子」の次男「敬二」が富士山で遭難し、山岳会のメンバーは、その救助に向かったのだ、、、

    「まさ子」は次男「敬二」に対し、登山は固く禁じていたので、何が起こったのか直ぐに理解できなかった… 「敬二」は兄「君雄」と同じく、子どもの気持ちをわかってくれない親から逃れるために、自ら山に去って行こうとしていたのだった。

    その時、初めて「まさ子」は子ども達の気持ちに気付くのだった… うーん、この兄弟の気持ちもわかるような気がしますが、親の立場としては複雑だなぁ。


    『氷雨』は、山男の「阿木野」からプロポーズされた「美根子」が、「阿木野」が山男であるがゆえに躊躇する物語、、、

    「美根子」は「阿木野」に対し、山をやめることを条件に結婚を承諾… 「阿木野」は山をやめる前に穂高岳の滝谷には登りたいと言い、最後の山として滝谷に挑むが遭難して救助され、「美根子」は「阿木野」が、山に心を奪われる人物だということに気付いて結婚を諦める。

    山男にゃ惚れるなよ… を物語にした作品かな。


    『アイガー北壁』は、昭和40年(1965年)に実際に起こったアイガー北壁での遭難を描いたノンフィクション、、、

    アイガー北壁に挑んだ「渡辺恒明」と「高田光政」の行動を、アイガー北壁登攀の1週間前に「渡辺」とともにマッターホルン北壁の登攀に成功し、その際に右足を痛めたことからアイガー北壁登攀ではパートナーを「高田」に譲った「芳野満彦」の視点から描かれています。

    3回に亘るアクシデントにより、「高田」は肋骨を骨折、「渡辺」は墜落により重症… 「高田」は負傷を負いつつも、頂上に出て西壁を降りて救助を要請するが、ザイルで確保されていたはずの「渡辺」は頂上直下300メートルの地点で命を落としていた、、、

    真実はわからないままですが、終盤は「芳野」の無念さが伝わってくる展開でしたね。


    『オデットという女』は、著者がアルプス旅行で訪れたイタリアとオーストリアの国境にあるドライチンネ近郊を背景にして描かれた物語、、、

    「弓削信也」は、イタリアのドロミテで「オデット」という女性と出会う… 二人はザイルを組んで岩壁を登り、そこから第一次世界大戦中のドロミテ山岳戦線で戦闘の場となった岩窟に入っていく。

    「オデット」の祖父は、イタリー軍の山岳突撃兵として従軍し、この岩窟で戦死しており、壁に残したという遺書を探していたのだ… その遺書は「オデット」の母を娘として認める内容で、母の出生の疑念を晴らす証拠になるものであった、、、

    「弓削」と「オデット」は、無事に遺書を発見… その後、「弓削」は「オデット」と別れるが、地中海の空の色を見て「オデット」の眼の色を思い出すのであった。


    『魂の窓』は、著者がアルプス旅行で訪れたデュアン峠での経験をもとに描かれた物語、、、

    文明社会から隔絶され、中世的な雰囲気を漂わせた山村を舞台に、村で出会った「アネリー」と名乗る狂少女や、山小屋で出会った老人との交流、そして老人の死が描かれています… ちょっと神秘的な雰囲気を醸し出す作品でしたね。


    『涸沢山荘にて』は、五月の連休に穂高に向かった「根元春雄」が道中で出会った軽装でテニスラケットを持った軽薄なカップルが涸沢で巻き起こす騒動を描いた物語、、、

    涸沢(カラサワ)を軽井沢(カルイサワ)と思い込み、皇太子夫婦と同じようにテニスを楽しもうとお気楽に涸沢に向かう「ジョージ」と「チーコ」のカップルは、好天が幸いしたこともあり、無事に雪の残る涸沢山荘までたどり着く… 山荘では、携帯ラジオで音楽をかけてゴーゴーを踊ったり、「根元」が独りで泊まる予定だった部屋に入り込み、いちゃついたりと常識外れの行動を続ける。

    「根元」の心配(不吉な予感)をよそに、彼等の行動を周囲は面白がり、登山靴を貸して雪の上でテニスをさせて報道陣の振りをして有名人のような扱いをして二人を喜ばせる… 調子に乗った二人は北穂沢を登り始めるが、、、

    山を全く知らない二人は雪渓を横一文字に横断して、とんでもない事に… 二人が歩いた横一文字のルートが上下の雪のつながりを切断し、それが雪崩を誘因する。

    奇跡的に雪崩の中から救出された二人だったが、埋まっていた場所の目印になったのは皮肉にもテニスラケットだった… 幸い、他の被害者もなく、事なきを得るが、、、

    「根元」の不吉な予感が当たるという、『殉職』や『山の鐘』、『気象遭難』、『山雲の底が動く』と同じテーマ(虫の知らせ)を扱った作品でしたね。

    でも、予感があるってことは、何らかの経験に基づく予兆があるんですよね… そういう意味では、遭難は起こるべくして起こるということなんでしょうね。


    『凍った霧の夜に』は、無理をして知らないコースに入り込み、危うく遭難しそうになったスキーヤー「井村伸夫」が生還するまでを描いた物語、、、

    コースを知らず、対抗心だけで自然のコースを滑るのは危険ですよねぇ… 「井村」は、自らの軽率な行動により、深雪地帯で雪に埋もれ、遭難しかけますが、その後の生き残るための冷静な判断や行動、根性は、なかなかものでした。

    そして、凍てつく闇夜の中、辿り着いた小さな小屋は、なぜか床に穴があり… ここの描写ですぐに便所って、ことには気付きましたね、、、

    その後、外に出て肥溜めに落ちるのですが、そこが暖かかったことが幸いして命をとりとめます… まぁ、全てが凍る冬ですから、汚いことはなかったんでしょうね。



    「新田次郎」の山岳小説って、相変わらずですが、山岳遭難がテーマとなっている作品が多かったですね、、、

    それと、女性がトラブルの原因となる場合が多い感じがしますね… 30ページ程度の短篇ばかりで、読みやすい作品集でした。

  • 山を登る人々の短編集。

    時代を考えるとこういう感じだ、というのは分かりますが
    今読むとちょっと女の人が面白いです。
    山頂を目指す人々ばかりですが、硬派だったり
    そう見えているようだったり。
    似たような感じの登場人物ばかりのようで
    展開が違うのに読みつかれてきました。

  • 短編小説ということを分からず買ってしまった。
    のめり込むほど深く感情移入できないので、あっさり山岳小説が読みたい人は手頃な一冊だろう。
    アイガー北壁は、著者の別作品”栄光の岩壁”のその後といった感じの作品だ。今回の小説では、実名で記されている。

  • 中学の林間学校の前にいわば「山での失敗事例集」として読まされた本.特に深刻な状況を招いているものには直接の引き金となっている原因があるものの,そこに至る過程で他の要素が間接的に絡んでいるため,どこか一つの要素についてのみに注意の対象がとらわれていると,却ってそれが事故の危険性を増大させる,ということを痛感させられる.

  • 山と気象に関する物語

  • 遭難したらむやみに動き回ると死ぬんだなあ…と。

  • 登山にまつわる短編集。絶壁、孤独、極寒。山はなにかとドラマになる。色恋沙汰ですら崇高だ。読み応えがあるのはやはり遭難物で、冬山が多い。透いた空と白銀とドス黒い岩壁の美しいコントラストは、スキー場のゲレンデから眺めるに限るなぁと改めて。。。

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著者プロフィール

新田次郎
一九一二年、長野県上諏訪生まれ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。五六年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、七四年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。八〇年、死去。その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。

「2022年 『まぼろしの軍師 新田次郎歴史短篇選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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