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本 ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784101122168
感想・レビュー・書評
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スイスに3ヶ月いて確信したことは「スイス人が美しい自然というものは極めて人工的で、スイスというのはなんだか巨大なテーマパークみたいだ」ということである。僅かな谷間や穏やかな丘は美しい放牧地と伝統的な家屋が広がっていてそれは絵になる景色である。どんな山にもケーブルカーやロープウェイが敷かれ、ハイキングルートがどこまでも血管のように張り巡らされている。麓から森林限界を超えた山の頂まであたり一面、緑の牧草地帯が広がり、家畜小屋があり、乳製品を作るための様々な品種の牛や山羊が草を食んでいる。一方、本来このような土地に生息していた大型の野生動物の多くが絶滅もしくは絶滅危惧種で、夏のハイシーズンには、彼らの代わりにハイキング客と牛で山が埋め尽くされているのである。スイス人の言う「自然」とはこういう世界である。なんとそれと同じことを、すなわち「スイスの美しさとは作られた美しさだ」と言った作家がいた。それが1961年に初めてスイスを訪れた新田次郎である。登山家である新田次郎は、チューリヒからスイスに入り、ユングフラウからアルプスに迫る。その後、フランス領アルプスに入ったり、イタリア側からコモ湖を通り、今度はスイス東側のエンガディン地方など、スイス中をくまなく巡った。その記述は、50年以上経った今でも違和感を全く色褪せていないのがスイスの不思議である。当時ですら、スイスは世界的な避暑地・観光地であり外国人であふれていたのは変わりが無いが、唯一、奥地での地元の人々の外国人に対する反応だけが少しだけ現代とは違うように思えるくらいだ。新田は、最初はアルプスの圧倒的な迫力の前に大興奮するものの、こうした旅を通じて、最後に新田はスイスの美しさが自然ではなく人々の手によって丁寧に作り上げられてきたものだということに気づくのである。だからといって、スイスの魅力が失せるということではない。神々しく魅力的な山々だけならば、カナダにもパタゴニアにもあるかもしれないが、人の手を介して築かれてきた山を取り巻く社会の美しさに、著者は魅了されたに違いないのだ。著者の切り取った世界を半世紀後の読者が共有できたことは、スイス人のこの努力と意志がスイスの美しさに対する魅力を維持してきたことの証明になるだろう。
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『チューリッヒを出発した汽車は牧草地をぬけるとアルプスの山塊を登っていく。いきなり車窓に飛びこんできた巨大な岩壁のアイガー、朝日に全容を示した坐せる孤峰のマッターホルンをはじめ、人なつこい宿の主人シュトイリ氏、チナールの谷で逢った愛らしいベルギーの少女たちなど、憧れの土地で接した自然の風物と人情の機微を清々しい筆で捉えた紀行文。佐貫亦男氏の写真多数収録。』(カバー裏表紙より)
昔話になりますが、スイスから日本へ一時帰国するとき、日本のツアーの一行と機内で近くの席になったことがありました。その方々は空港でも目立っていたが、まるで今アルピグレンあたりを歩いて下りて来たというような出で立ちで、靴は山靴かトレッキングシューズ、ニッカーとヤッケ姿の方もいた。皆いい顔色に焼けて楽しそうにおしゃべりしています。高齢の婦人が多く、女性同士のグループが多いようでした。
若く「もの」を知らない私は、”何だこの人達は。普通の服に着替えないのか。せめて靴くらい履き替えてほしいな。日本人はTPOを知らないと思われるんじゃないか。”と思いましたが、すぐにハッと思った。”そうだった、エコノミークラスの荷物は20キロまでしか許されない。山靴やストックやリュックや防寒着や色々と持ってくる必要があるんだろうから、行きも帰りも余計な荷物は入れる余地がないのじゃないだろうか・・・。” 私の荷物はほとんどが家族へのお土産だけで、着替えさえ持つ必要のない身だったため、彼らの(おそらくスーツケースから溢れたのだろう)手荷物になっているお土産らしき大量の袋を見てそう気づいたのでした。
飛行機が安定飛行に移って食事が終わると、私の斜め前の席の女性(年の頃は三十台後半か四十台か)がずっと話しこんでいた隣の席の老婦人(母親だったのだろうか)が寝入ったのを確認してから、おもむろに大切そうにデイパックから取り出して読み始めた一冊の文庫本。その妙に派手なオレンジの背表紙の本には『アルプスの谷 アルプスの村』という文字が見えました。きっとその女性は、たった今まで自分がその目で見てきたスイスアルプスの美しい光景を新田次郎も遠い昔に見ていたことを再確認しようと機中で取り出したのでしょう。あるいはこの本を読んだのがスイスアルプスの魅力にひかれた端緒だったのかもしれません。とうとうひとつのゴールに到達した達成感いっぱいで再読したのだと思います。
私は帰国してからすぐにその本を買いました。新田次郎の碑がクライネシャイデックにあるということは知っていましたが、それまで自分には興味がなかったため彼の本をまともには読んだことさえなかったのです。そして『アルプスの谷 アルプスの村』が日本の山を愛する人々の一部にいまだに熱狂的な人気を得ていることを知りました。
この作品は作者が昭和36年夏に三ヶ月をかけてアルプス地方を周遊した時の紀行であり、スイス、フランス、イタリアにまたがる西部欧州アルプスを満喫した旅となっています。この手の紀行文はすぐに陳腐化してしまい、増刷などされるものも珍しいのでしょうが、さすがにこの本ばかりは別格なのでしょう。この本を読んでアルプスに憧れた人も多いだろうと思います。 -
多数の山岳小説を上梓している新田次郎氏が、昭和36年に初めてヨーロッパアルプスを旅した紀行文。
初めての感動は何物にも代えがたい。
アイガー、マッターホルン、ユングフラウ。
山々も、特別に美しい姿を披露してくれたようだ。
スイスアルプスと牧歌的な風景の美しさに感激し、ややはしゃぎ気味から、フランスに入ると同じアルプスでも暗い色彩と貧しい村、とても客を乗せるものとも思えないバスとその運転手に驚く。
登山家たちの遺品を見たり、墓を訪れたり。
やがて、しきりと故郷の長野の地名が出てくるようになる。
上高地に似ている、志賀高原を思い出す、と。
旅に疲れ、里心がついてきたのだろう。
アルプスの旅の終わり。
もう、やたらシャッターを切ったり、やたらと歩きまわることをせず、静かに山と向き合う。
他国にまたがっているアルプスの山々をめぐるこの旅で、作者が一番実感したことは『スイスの美しさは、そこに住まう人たちの、たゆまぬ努力によって生み出されたものである』ということだった。
新田氏をこの旅に誘い、同行してガイド役も務めた佐貫亦男氏の写真を多数収録。
佐貫氏は、新田氏のエッセイを読んで、自分の予想した反応と違う部分も発見し、新鮮だったり意外だったり、もっといい時に見せてあげたかったと思ったりしたらしい。
同じものを見ても人の感じ方は様々だ。 -
昭和37年頃に訪ねたスイスの
山 美しい神々しい山々を
新田次郎の目を通して
描いている
スイスの美しさは人の手によるという
作者の意見にはうなずかされた
これも長野出身で
山村の生活が分かるからだろう
行きずりの人に対する感じ方や
表現が著者の人柄を偲ばせる
アルプスはフランスからスイスへ
入ったが素晴らしかった
私ももう一度行ってみたい
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「新田次郎」が昭和36年(1961年)に訪れたアルプスの3ヵ月の旅を描いた紀行『アルプスの谷 アルプスの村』を読みました。
『アイガー北壁・気象遭難』、『強力伝・孤島』、『孤高の人』、『劒岳 〈点の記〉』に続き「新田次郎」作品です。
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チューリッヒを出発した汽車は、いよいよ憧れのアイガー、マッターホルンへ……ヨーロッパの自然の美しさを爽やかに綴る紀行文。
チューリッヒを出発した汽車は牧草地をぬけるとアルプスの山塊を登っていく。
いきなり車窓に飛びこんできた巨大な岩壁のアイガー、朝日に全容を示した坐せる孤峰のマッターホルンをはじめ、人なつこい宿の主人「シュトイリ」氏、チナールの谷で逢った愛らしいベルギーの少女たちなど、憧れの土地で接した自然の風物と人情の機微を清々しい筆で捉えた紀行文。
「佐貫亦男」氏の写真多数収録。
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山岳雑誌『山と渓谷』に20回にわたり連載された作品、、、
スイス、フランス、イタリアの3か国からアルプスを訪ねた感想が率直に描かれており、愉しく読めましたね。
■1.白銀の峰々
■2.老ガイドの宿
■3.ユングフラウヨッホに立つ
■4.樅の森に雨が降る
■5.滑らかな草原ツェルマットへ
■6.山岳博物館と遭難者墓地
■7.石の巨人―マッターホルン
■8.郵便バスに乗って
■9.プティムンテの小屋
■10.白銀のガウン
■11.メールドグラースの大氷河
■12.山岳兵のいる街
■13.窓に花のない村
■14.死んだ山
■15.エタンソンの谷
■16.アラレの降る国境
■17.一点の光明
■18.真夏の雪
■19.谷間で会った少年
■20.さよならアルプス
■あとがき
■もう一度行きたい 新田次郎
■旅程と写真 佐貫亦男
先日読んだ、短篇集『アイガー北壁・気象遭難』に収録されていた、『ホテル氷河にて』、『オデットという女』、『魂の窓』は、この旅で得た経験から着想された作品だったことが、よくわかりましたね、、、
アルプスの雄大な景色、そして、キレイで明るいだけではない暗い部分、醜い部分や、風土や気候、地形と密接に結びついた風習や習慣、生活等、現地に行ってみないとわからない雰囲気が伝わってきました… でも、読んで感じたことって、現地で感じたことの、ほんの数パーセントに過ぎないんでしょうね。
実際に訪れて、バスや電車に乗り、現地の人々や登山者たちと触れ合い、同じ空気を吸って、同じ料理を食べ、同じワインを飲まないと、わからないことが多いんだと思います… 行ってみたいなぁ、、、
55年も前のことなので、現在は変わってしまった部分も多いんでしょうけどね… 現地へ行って、その雰囲気を肌で感じてみたいです。
本格派山好きの方からすると邪道かもしれませんが… ケーブルカーやロープウェイ等で山頂まで行ける山が多いのも魅力ですね、、、
雄大な景色を、この眼で見てみたいなぁ… 実現するまでは、山の本を読んでガマンです。 -
このような旅をしてみたいと思うが、この本はつまらなかった。星3つはかなりおまけ。
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この本を読んでアルプスにある新田次郎先生のお墓をお参りしました。
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最近の旅行記とは若干異なる雰囲気あり、これは時代のなせる業かもしれません。当方山好きでも山嫌いでも何でもない存在なので、山を語られても今ひとつピンと来ないけれども、山がスイス文化の産物でもあること、そしてシュトイリさんが魅力的な人物である等人との出会いの言い尽せない価値は十二分に伝わってくるエッセイでありました。
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新田次郎の文章は安心して読める。シンプルだけどあたたかみがあって、着眼点もすき。地名がたくさんでてきて勉強にもなった。
いつかスイスへ行こうと決意。 -
すごく古い本だけど、今読んでも新鮮。スイスに行くならぜひ。
著者プロフィール
新田次郎の作品





