- 本 ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101122298
感想・レビュー・書評
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作家デビューに至るまでの経験を総括しているのではないかと思います。
二足の草鞋を履く・・・本名:藤原寛人さんは、気象庁の技術者でありながら、小説を書き続けました。富士山頂の測候所に携わっています。中でも、以下の文言が印象的です。
この小説は、昭和52年1月に発行(今は絶版になっています)されており実に戦後30年以上を経てから発表となります。何故、この体験を書かなかったのか?については不明ですが、「小説に書けなかった自伝」には、こう記されています。
※以下引用
『「望郷」のでき不出来よりも私はこれを書くことによって憑きものを落としたかった。
私にとっての終戦後の一か年間は十年にも値するほど長かった。引き揚げてきてもなにかの折にその当時の夢を見てうなされた。(中略)「望郷」を書いている最中には毎夜のように当時の夢を見た。しかしこれを書き終えてしまえば夢は見ないだろうと思った。その期待は見事に裏切られた。憑きものは落ちないどころかむしろ忘れかけていた苦しい思い出がよみがえって、夢見はいっそう悪くなった。』
※引用終わり -
正直な人、正義感溢れる人。彼の問題意識は、素敵。
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新田作品は、雑誌で映画の紹介をしていたのを見て「劒岳〜点の記」を手に取ったのが初めてです。それから数冊読んで、この本に至りました。
新田氏の文学の歴史が詰まったような作品であって、氏の人柄が垣間見えるものだと感じます。
処女作からまた作品を読み返してみたら、最初に読んだ時と違う情景が浮かぶかもしれません。
特に退職前後の話が印象に残りました。 -
新田次郎の作品は読んだことがないのだが、正社員として働きながら、やりたいことを成功させるためにはどうしたら良いか、何かヒントを得たくてこの本を読んだ。
感想としては、新田次郎の誠実性と体力に感服するばかりだった。
正社員としてのハードな勤務の後での小説家としての二足の草鞋をここまで完璧にこなす人はいないんじゃないかと思ってしまう。
自分もこんな風にできるかといったらきっとそうはいかないだろう。
それでもやってやろうというパワーはかなり湧いてきた。
新田次郎のようにそれを成し遂げたひとがいるのだ、それも40にもなるといった年齢で。
年齢を重ねるごとに体力的にも世間的にも諦めなければならないことが増えていくといった風潮の中で、新田次郎の姿は英雄であり希望だ。
単にがむしゃらに小説を書いていたわけではない、徹底した取材や、投稿作家時代などには他の作品からの勉強をする姿勢など、その誠実性には本当に年齢を感じさせないし頭が下がる思いだった。
今度新田次郎の作品を読んでみようと思う。 -
作家、新田次郎の誕生物語。昭和五十一年執筆。「流れる星は生きている」、「ヒコベエ」と時代的に繋がっている。
著者のの作品では、学生の時に「孤高の人」を読んでえらく感動した記憶があるが、それっきりだった。著者こだわりの富士山ものを読んでみたくなった。 -
新田次郎の小説は昔よく読んだが、小説家としてこのような苦悩や葛藤を背負っていたとは思わなかった。
新田次郎と言えば一連の山岳小説が有名だが、小説を書くきっかけになったのは、「給料が少なかったので金を稼ぐため」で、本業である気象庁の仕事と小説執筆を両立させながらも、時に同僚から陰口を叩かれ傷ついていたこと。小説家一本に絞るために54歳で気象庁に辞職願を出したとき、本当は仕事を続けたいという気持ちから、不眠症になったということ。
「孤高の人」で、登山家と船の設計技師という2つを両立させていた加藤文太郎の描写に妙にリアリティがあったのは、作者のこうした背景があったからかもしれないと感じた。 -
烏兎の庭 第四部 書評 9.8.12
http://www5e.biglobe.ne.jp/~utouto/uto04/bunsho/siro.html -
「強力伝」で直木賞を受賞し、代表作は「孤高の人」。山に関する多くの小説を残してきた著者の自伝。小説家と編集者との関係を赤裸々に書いているのがおもしろい。
著者は直木賞受賞後も、役所勤めと小説家の2足の草鞋を20年間はき続ける。17時に退社し、帰宅して19時から書斎にこもる生活。小説家になるには、技術や才能もさることながら、本人の作品に向かう集中力と職場や家族の理解が何よりも重要だ。
小説家としては、全集を発表するほどの作品を残し、気象庁職員としては、富士山気象台に巨大レーダー建設の実績を残す。そして、父としては、ベストセラー「国家の品格」の著者である数学者の藤原正彦を子孫に残す。この自伝からは自身を誇る感情を表してはいないが、実直に自分の役割を果たす古き良き時代の日本男子の精神を感じる。
著者プロフィール
新田次郎の作品





