チンネの裁き (新潮文庫)

  • 新潮社 (2015年7月29日発売)
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本 ・本 (290ページ) / ISBN・EAN: 9784101122304

作品紹介・あらすじ

北アルプス剣岳付近の雪渓で落石事故が起きた。木塚はパーティーを離れ、確認したところ、著名な登山家の蛭川の遺体があった。事故死の処理に釈然とせぬ木塚は独り調査を進め、やがて木塚のパーティー・蛭川のパーティーとも参加者全員に動機があることが分かった……。雪山という密室で連続して起こる惨劇は、事故なのか、殺人なのか。次々と予想が覆される山岳ミステリの金字塔。

感想・レビュー・書評

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  • 新田次郎氏の山岳小説だが、冒険モノではない。山岳ミステリーである。北アルプス剣岳付近で落石事故が起こり、一人の山男が死亡した。その事故は故意に起こされたのでは?その後も山男が一人また一人として死んでいく。犯人は?登山家に悪人はいないのか?

  • 「新田次郎」の山岳ミステリ小説『チンネの裁き』を読みました。

    『芙蓉の人』、『富士山頂』、『縦走路』に続き「新田次郎」作品です。

    -----story-------------
    剣岳の雪渓という密室で起きた惨劇は、事故なのか、殺人なのか。
    山岳ミステリの金字塔。

    北アルプス剣岳付近の雪渓で落石事故が起きた。
    「木塚」はパーティーを離れ、確認したところ、著名な登山家の「蛭川」の遺体があった。
    事故死の処理に釈然とせぬ「木塚」は独り調査を進め、やがて「木塚」のパーティー「蛭川」のパーティーとも参加者全員に動機があることが分かった……。
    雪山という密室で連続して起こる惨劇は、事故なのか、殺人なのか。
    次々と予想が覆される山岳ミステリの金字塔。
    -----------------------

    昭和33年(1958年)から昭和34年(1959年)にかけて『オール讀物』、『講談倶楽部』、『日本』という小説誌に掲載された山岳連作小説… それぞれが独立した短篇でありながら、通して読むと、山の連続遭難事故の背景に蠢く、人間の悪意が炙り出される重層的な構成となっている作品です。

     ■第一章 落石
     ■第二章 雪崩
     ■第三章 暗い谷間
     ■解説 木村行信

    『第一章 落石』は、北アルプスの劔岳に聳える尖塔状の岩峰(山言葉で"チンネ")において落石が起こり、ヒマラヤ遠征隊のリーダと目されていた若手クライマー「蛭川繁夫」が命を落とす… この現場に居合わせていたのが、製薬会社勤務の「京松弘」、丸の内の官庁に勤める「木塚健」、大学の研究室で放射能を研究する「寺林百平」、会社員の「鈴島保太郎」、工業・薬品問屋の「陣馬辰次」の5人の若き社会人登山家だった、、、

    落石事故に不信を抱いた「木塚」は、「繁夫」の兄「蛭川一郎」と協力して、事故(事件)の真相を探り始める… その「木塚」の前に、美貌と澄んだ眼をもつ女性登山家「夏原千賀子」が現われ、亡くなった「繁夫」と婚約していたこと、「京松」や「陣馬」からも想いを寄せられていたことを告白する。

    「繁夫」の死の真相を掴むため、「木塚」と「一郎」は、関係者を再びチンネに集め、彼らの心底を暴く… 自分が犯人だと証言した(思い込んだ?)ある人物が、山で自ら命を絶つのですが、「繁夫」の死にはアイゼンのひもが切れたことや、(意図的な)落石があったこと等、複数の要因が絡んでいたし、他にも動機を持った人物がいたので、真相は藪の中という結末でしたね。


    『第二章 雪崩』では、「千賀子」と「鈴島」が交際しており、二人は結婚を決意… しかし、東大谷の駒草ルンゼ冬季初登攀に挑んだ「鈴島」は、その途中、雪崩に巻き込まれて遭難死してしまい、この登攀に同行していたのが「木塚」、「寺林」、「陣馬」の3人であった、、、

    「木塚」は、雪崩の跡から携帯燃料の缶が2種類出てきたことに疑問を抱き、「鈴島」の身辺を調べたところ、「鈴島」が戦時中に満州の日本人捕虜収容所内の病院で残酷な行いをしていたことが明らかになる… 「木塚」は、今回の雪崩は「鈴島」の過去にまつわる人為的なものではなかったのかと推理する。

    「木塚」は、「鈴島」の遺体回収に容疑者等を立ち会わせ、彼らの心底を暴く… 本作も、自分が犯人だと証言した(思い込んだ?)ある人物が、山で自ら命を絶つのですが、複数の人物に動機があり、青酸カリの使用や人為的な雪崩、人為的な雪洞崩落等、それぞれの人物に、それぞれ殺害機会・方法があったことから、真相は藪の中という結末でしたね。


    『第三章 暗い谷間』では、「千賀子」は「陣馬」と関係を持ち、結婚の約束を交わす… その「陣馬」は、最後の登山と心に期して「木塚」、「寺林」等とともに駒草ルンゼ登攀に挑む、、、

    かろうじて山頂に辿りついた「陣馬」が、携帯用無線電話機を使って岩小屋で待っている「寺林」に到着を伝えていたところ、「木塚」の目の前で、「陣馬」は突然倒れ込み、谷底に転落してしまう… 「木塚」は、自分の指先が「陣馬」の背に触れた直後に彼が落下したことから、自責の念で心を病む。

    山岳会の会長を務めていた「一郎」は、独自に事故の調査を進め、携帯用無線電話機に特殊な加工が施されていたことを突き止める… また、生前「陣馬」が後輩の登山家たちを虐待していたことも発覚、、、

    「一郎」は、「木塚」と「寺林」に、「陣馬」の遺体捜索の際には、無線機の部品を回収するように依頼する… 無線機に仕掛けをして殺害に至るのは、ややムリのある犯罪トリックだと感じましたが、極限の状況にあれば、もしかして有効なのかもしれませんね。


    「鈴島」や「陣馬」の過去の行い、そして「千賀子」の存在が、全ての動機につながっていましたんですね、、、

    本件の真相が判明することにより、『第一章 落石』、『第二章 雪崩』で藪の中となっていた真相が全て判明する展開となっており、『第三章 暗い谷間』を読み終えてスッキリすることができました。

  • 山岳小説でありながら、ミステリ小説でもある珍しい興味深い作品。「山男に悪者はいない」という常識を破る殺人事件との科白が何度も繰り返されることは少々しつこいが…。落石、ザイル切れ、雪崩による事故に見せかけた殺人事件という説明はいかにも著者らしい。そして、美人登山家・夏原千賀子という存在が非常に魅惑的な存在感であった。主人公らしき木塚と主要登場人物たちの会話などから想像する人間像に少し統一性が無いように感じる点は残念。そして、ここまで悪人が多いと爽やかな山岳小説にはほど遠く、この小説の存在意義は?と思ってしまう。

  • 会話といい、行動といい、令和視点では合点がいかないのだが、新田次郎の作風を決定づけた作品らしい。
    陰鬱な雰囲気は戦後まもない時代を反映したものとか。

  • 登山家に悪者はいないと繰り返しながら実は悪者だらけな小説。けど、犯人だと指摘された登山家たちは潔く自害を選ぶところは登山家たる特徴なのかな?作者はどこに主眼を置いているのだろうかと考えてしまう。
    ヒロイン、千賀子との色恋沙汰に概ねは帰依するのだけど、実は様々な理由で憎みあっていた登場人物たちが立て続けに死去、それが同時に違う理由で殺傷に臨むという強引な展開に少し引き気味になりました。
    また、せっかく思いめぐらせながら読んでいるのに謎解きの時点で新事実を初めて明かしたりするのはがっかり。
    作者にはサスペンスよりは極限状態において自然と向き合う強い人間を描いてほしいです。

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著者プロフィール

新田 次郎(にった・じろう):1912-80年。長野県上諏訪生まれ。旧制諏訪中学校、無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、1932年、中央気象台(現気象庁)に入庁。1935年、電機学校卒業。富士山気象レーダー(1965年運用開始)の建設責任者を務めたことで知られる。1956年『強力伝』で、第34回直木賞受賞。1974年、『武田信玄』ならびに一連の山岳小説に対して吉川英治文学賞受賞。

「2024年 『火の島』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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