白い人・黄色い人 (新潮文庫)

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レビュー : 111
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123011

感想・レビュー・書評

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  • 遠藤周作の小説を理解するためには、やはりある程度のキリスト教的風土、知識の面ではなくキリスト教のあの雰囲気あの考え方の中に投入されたという経験が不可欠だと感じた。キリスト教にとって神はどういった存在なのかということを肌で感じたあの期間が確実に私の中で生きている感覚を、この人の本を読むと何度でも味わわされる。
    白い人では本当に、キリスト教徒にとって神がどういう存在なのか、ということを。ファシズムの陰が落ちるフランス、言うならば計画的国家的殺人の淵に立たされた極限の状態においてこそ際立つ、書きがいのある、キリスト教信仰のあり方について。逆説的な主人公を置くことでより鮮烈に信仰が際立つ。黄色い人では、汎神論的風土における神の存在を。決して無神論的風土でないのが重要だと思った。なんまいだ、と唱えると汚れた人間の罪ごと救ってくれる神が治めてきた土地で、原罪や孤独などのキリスト教的価値観が真に根付く可能性の限界。この人はどうして、こんなにも否定しながらキリスト教を追及していったのか。その追及の過程に寄り添うことがわたしにとっても非常に意義深いことです。

  • 再読です。ちゃんと感想を記して​(2006年9月27日)​いるのにすっかり忘れています。感想を読み直してみるとわたしは主題(神の存在)を意識して読んでいません。同じ作家の『イエスの生涯』を読む前と後では理解度が違ってくるということだということです。

    「遠藤氏のごく初期の作品であり、・・・」(文庫解説山本健吉)確かに新鮮さと勢いがあります。解説最後に「作者は小説の中で、神の存在を証明するためには、いっそう氏のこと抱懐する主題を掘り下げなければならない、・・・」(昭和35年1960年)と鼓舞するようにお書きになっています。遠藤氏の友人ならではで、ないでしょうか。

    処女作『白い人』で芥川賞を受賞したのが昭和30年(1955年)それから18年後に『イエスの生涯』(昭和48年1973年)を書かれています。つまり作家は年数をかけて主題を掘り下げていって成功しているのです。作家はそういうことができれば幸せでしょうに!

    そんなことを確認した再読になりました。

  • 「白い人」。神学を学んだ身でありながら、ナチス占領下のフランスでゲシュタポに協力し、抗独運動家の旧友を裏切って裁きと拷問する主人公。加虐の喜びと悪への陶酔に彩られた主人公の姿が執拗に描きこまれている。これはおのずと対比される信仰のうちに生きる旧友の姿を明確に浮き彫りにする小説的な効果だけでなく、なぜこの世に善と悪が存在するのか、と、キリスト教徒にまるで喉元に匕首を突き付けるように挑発し答えを迫るかのようだった。
    悪の問題は悩ましい。全知全能の神がなぜ悪を許すのか。よくある答えが、世に悪があることで神が人間に善と悪を選ばせ意思を持たせているというもの。でも、自分の意思で悪を選び取った人間が地獄で罰せられるのを神が予め知っているのなら、そもそも神はなぜ人を創り出したのか。よく分からない。大昔から神学者たちはこうした疑問に答えるため本を書き議論してきた。答えがなんであれ、一神教信者が悪の問題に悩んできたことは確かだが、やはり遠藤周作も悩んだのか。


    「黄色い人」。戦時下の日本。日本人女性との女犯の罪で神父の地位を追われた背教者デュラン。追われ者のデュランは長く助けてくれたブロウ神父を裏切り官憲に売り渡す。そのブロウ神父が官憲に連行されることを予め知っていながら、面倒に巻き込まれたくないと、ブロウ神父に知らせなかった日本人クリスチャンの千葉。彼は洗礼を受けても神も罪も知らぬ無感動で曖昧糢糊の日本人として、デュランは背教者となっても神の存在を拒めなかった象徴として描かれる。黙過と背教の罪とともに、キリスト教を通して日本人とは何か?を突き詰めた小説と読める。これは遠藤周作の代表作「沈黙」ならび彼の諸作品から汲み取れるテーマだと思う。僕はつねづね遠藤周作の小説は、日本人にわかりやすいキリスト教を紹介するためのものではなく、キリスト教を通して日本とは何か?日本人とは何か?と問いを発し続けた。そんなことを考え続けた作家だと思っているんだけれども違うかな・・。

    余談ですが、今年(2016年)はマーティン・スコセッシが「沈黙」を映画化した。日本でも順次公開されるが、これを機に日本で遠藤周作がもっと読まれればいいと個人的に願う。

  • 再読。20歳で読んでいるはずがまるで覚えていない。
    神様がパン粉をこねて白い人、黒い人、黄色い人を作る部分は克明に覚えているのだけど。

    「ユダ」は誰で何なのかを問いながら、「人」とは何かの追求だと思う。

    白い人はカソリックの神を信じるものと信じない、あるいは冒涜するものとの対立を描き、最後はカソリックの神に対しての禁忌を犯しながらも、自らを犠牲にした者を描きだし、黄色い人は白人と日本人の「神」の捉え方とまた棄教したものの心の痛みを描いている。

    ひとりで行う信仰ならば、神をひたすら信じ、自分を律すればよいが、人の世の中は一人ではいられない。
    その人との「縁」というとあまりにも日本的だが「縁」のために苦しみ、迷い、信仰からは落ちこぼれることになる。

    神を信じない者の痛みもあるはずで、基督を通して感じる杓子定規な痛みではなく、自然の発露を行間に感じられる。
    キリストが生まれながらに植え付けられた者の倫理観は本当に天然自然からのものには思えない。そこが作家のポイントでもあるように思うのだけどどうだろう?

    • minikokoさん
      クロネコぷうさんのレビューを読んで、この本を読んでみたくなりました。読んだら、難しさや精神性に苦しみそうだけどーーー。
      クロネコぷうさんのレビューを読んで、この本を読んでみたくなりました。読んだら、難しさや精神性に苦しみそうだけどーーー。
      2015/08/23
    • くろねこ・ぷぅさん
      読んでも自分の価値観を見失うような混乱は生まれないと思います。信仰とか愛とか難しいことよりも、自分の弱さをも丸ごと許すような優しさに満ちてく...
      読んでも自分の価値観を見失うような混乱は生まれないと思います。信仰とか愛とか難しいことよりも、自分の弱さをも丸ごと許すような優しさに満ちてくると思います。遠藤さんの言いたいことっていうのは。
      2015/08/26
  • 「白い人」は、1955年上半期芥川賞受賞作。リヨン留学、ジャンセニスム、サド文学―これらが見事に結実して誕生したのがこの作品。遠藤文学の原点がここにある。それは、後年まで彼が求め続けた、神への悲痛なまでの問いかけだ。物語の語り手でもある主人公は斜視として描かれるが、そのことが彼と世界との間に違和をもたらしていた。こうした違和のあり方は、三島の『金閣寺』にも大江の『飼育』にも見られ、作品個々の違いを超えた共通項が浮かび上がってくる。また、この作品の遠藤周作は『天国と地獄』の山崎努を見るようで、実に瑞々しい。

  • いつもどおり、神の不在がテーマです。神がいるのかは私にわかることじゃないけど、いるとすれば、きっともう人間に興味がないんだと思う。

    2010年06月13日 19:49

  • 白い人の舞台は第二次大戦中のフランス。
    生まれつきの容姿に対するコンプレックスを持った主人公は敬虔なプロテスタントである母に清くあることを強いられるが、それに反する精神が芽生えていく。
    黄色い人のテーマは信仰心を持たないが故の幸せ。
    女性と関係を持ってしまい破門となった神父は神を裏切ってしまったことに悩むが、それに対し日本人はキリスト教徒ではないが故にそのような悩みを持つことがない。それを肯定も否定もしないが、それに気づいたという話。

  • 絶望を知る「白い人」に対し、「黄色い人」はただ疲労するだけなど、日本人はキリスト教を理解し得ないのではないか、という信仰に基づく懐疑を、感情から掘り下げている。解説の通り、初期作品であり後に遠藤文学で大きく展開されていくテーマが既にはっきり現れている。

  • 暗く重い。後の作品につながるテーマがいくつも出てくる。深すぎて消化できなかった感じだけど、山本健吉のあとがきでちょっとすっきり。

  • 芥川賞

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著者プロフィール

遠藤 周作(えんどう しゅうさく)
1923年3月27日 - 1996年9月29日
東京生まれ。父親の仕事で、幼少時代を満洲で過ごす。帰国後にカトリックの洗礼を受けた。1941年上智大学予科に入学したが、中退。慶應義塾大学文学部仏文科入学・卒業後、カトリック文学を学ぶためにフランスへの留学。帰国後の1954年『アデンまで』を発表し小説デビュー。1955年『白い人』で芥川賞を受賞し「第三の新人」として脚光を浴びた。
1958年『海と毒薬』で第5回新潮社文学賞及び第12回毎日出版文化賞、1966年『沈黙』で第2回谷崎潤一郎賞、1979年『キリストの誕生』で第30回読売文学賞評論・伝記賞、1980年『侍』で第33回野間文芸賞などそれぞれ受賞。1995年に文化勲章を受章している。
上記受賞作のほか、1993年刊行『深い河』もキリスト教と日本人をテーマにした代表作と見なされており、映画化された。60年代以降「狐狸庵山人」(こりあんさんじん)を名乗り、様々なエッセイを記した。数々の作品が欧米で翻訳され高い評価を受けており、存命中ノーベル文学賞候補だったこともよく知られている。

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