海と毒薬 (新潮文庫)

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レビュー : 792
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123028

感想・レビュー・書評

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  • 久々に、物凄い小説に出会いました。
    「限りなく透明に近いブルー」を読んだ時に似た感覚。
    凄まじい力を秘めていて、圧倒される。攻撃力高い。
    ホラーとは別の、本能的に背筋が凍る怖さ。
    読んで暫くは放心状態になりました。

    お話は、戦時中実際にあった、九州帝国大学医学部での捕虜の生体解剖をベースに、創作されている。
    生体解剖に関わった医者、看護婦のバックグラウンド、実験の様子なんかは完全に創作だろうけど、凄まじいリアリティ。
    完全なノンフィクションではないけれど、事実はあったということが尚更ゾッとする。
    完全な事実であっても可笑しくないんだな、って。

    ・生体解剖の是非
    戦争中の殺人は罪には問われない。ならば、どうして戦争中の人体実験は罪になるのか?
    しかも、人体実験は今後の医療に役立てられる=多くの人を救える。
    闇雲に殺すよりは、遥かに生産的。
    でも、何か、心の奥底で引っ掛かる。それは違う。では何が違う?答えられない。でも、やっぱり心が拒絶する。それは何故?
    外を見れば空襲で何万人という人々が死んで行く。
    貴重な薬を使って、助からない命を延命させることに意味はあるのだろうか?
    この患者が死んだところで、次々と新しい患者が運ばれてくる。
    それでも、目の前の命を救おうとする医者の意義って何だろうか?
    そんな絶望感の中で、生体解剖にNoと言えない、でも、手を下せない。
    勝呂医師の心とシンクロしてしまった。
    全部読んだけど、生体解剖の是非は、私には分からなかった。

    ・宗教
    この作品のテーマは、「宗教を持たない日本人故の残酷さ」というのもあるらしい。
    確かに、宗教は行動の指針となって、私達の軸となってくれる部分があるのだろう。
    だから、宗教を信じる人は軸がブレない、と。
    それは確かに一理あるけど、結局戦争に参加して、皆と同じように殺戮を行っていたという事実は変わらない。
    ただ、カッコイイ尤もらしい理由を都合良く後付けできるだけ。
    無宗教だから残虐になれるのか?それはいささか疑問。
    でも、納得する部分はある。
    自分の中に絶対的な物がある人は、そこからブレることはないから。
    逆に、そういうのがない人は、何処へでも流れやすい。
    じゃあ、何が人を動かすのだろう?
    ・・・
    と、私の頭の中は色々と考えで溢れている訳ですよ。
    とても、考えさせられる本でした。文句なしの☆5つ。
    初・遠藤周作だったけど、他のも読んでみたい。
    何か、続編があるらしいと聞いたぞよ。
    元演劇部としては、ちょっと芝居に起こしてみたい作品。

  • とある大学病院で戦時中に捕虜の人体実験が行われた話。
    人体実験が良いことか悪いことかの前に、良心とは何か?を投げかけている。

  • するするするすると読めてしまった。食わず嫌いしてた。
    登場人物を類型化しすぎなきらいがなくもないけど、この小説で探りたいことはこうじゃなきゃ見えてこないんだろう。

  • 祖母はこの本を「こんなもの、読まなくたっていい」と苦い顔で放った。そうした読後になってしまう人がいるのも致し方ない。この本はそれだけ真摯に、目を背けてしまいがちな人間の内側に向き合っている。初めて手にした高校生の頃から何度も読み返しているが、この先も読み返し続けて、考え続けることと思う。こちらを読んだら、悲しみの歌もぜひ。

  • 戦争という希望のない環境下、人間がいかに堕ちていくか?
    所詮、人間の中にあるのは絶対的な正義や聖人のような良心ではなく、社会や環境によって変動する同調や連帯であるのかもしれないと絶望感を感じさせる作。

  • 平凡な暮らしを、出来たら人よりちょっと良い暮らしを望む、ごく普通の医学生が、戦争末期の海にのまれて、米軍捕虜の生体解剖に参加する。

    良心とは。
    罪とは。
    罰とは。

    生体解剖は、戦争という「異常」な状態だったから起きたのか?
    参加者は「異常者」だったのか?
    きっとそうではないんでしょう。

    異常と正常の境目は常に曖昧で、日常の延長線上にそれはあって、
    誰もがどこかで踏み越える可能性を抱えている。
    そのラインを前に、私たちを踏み止まらせるのが良心であり、神なのかなと思った。

  • 暗いけれど、さすが名作。読みごたえ抜群。これを読んでいたらえらい暗い話読んでるねとつっこまれた。

  • 久しぶりに読んでみた。
    生体解剖。
    異常な状況の異常な事件。
    命令ならやってしまう。
    戦争。

  • 「海と毒薬」1957年発表。遠藤周作さん。

    「いつかは読もうと何十年も思っていて読んでなかった本」シリーズ。

    #

    戦後わずか12年目の発表です。

    不勉強で良く知りませんが、実際に戦中末期に、九州の医大で「米軍の捕虜を生体実験解剖をして、殺した」という事件があったそうなんです。

    その事件を素にして書かれた小説だそう。

    #

    1945年です。戦争末期です。

    主人公は九州の医大に勤務する青年医師の「勝呂」。同じく青年医師の「戸田」。そしてその病院で看護婦をしている「上田」。

    今と変わらぬ「白い巨塔」。医大の人間模様がまず描かれる。勢力争い。政治。そのためのオペ。

    「白い巨塔」に精神的に疲弊している、純粋な勝呂医師。
    ニヒルで虚無的でしたたかに見える戸田医師。
    黙々と働いている上田看護婦。

    軍部から降って湧いた「米軍捕虜の生体解剖実験」。それに下っ端として参加することになる勝呂と戸田。そして上田。

    それぞれに、気が重く、罪悪感がありながら、当日の現場を迎える。

    戸田は気持ちがダウンしてしまって、見ているだけになる。

    そして、無事に解剖実験は終わる。

    #

    それだけの話なんです。「何が起こるか」で言うと。

    章ごとに、「勝呂⇒上田⇒戸田」と視点を変えながら、ひとりひとりがどういう育ちをした人で、どういう過去を背負っていて、どういう気持ちで参加したのか、ということをとてもグリグリと描いています。そこンところが実に面白い。
    事件そのものではなくて、そこに巻き込まれた「ひと」と「心理」を描きます。実に小説らしい小説です。
    (熊井啓監督、渡辺謙、奥田瑛二主演で映画化されました。遠い昔に観た記憶がありますが、今回読んでみて、「原作の方が圧倒的に面白かった」という感想。)

    気が弱く、良心の咎めを受けながらも、流されて行く勝呂医師。

    結婚に失敗し、子供と死別して、虚無的に、自暴自棄に、そして僻みに生きる中で参加する上田看護婦。

    子供の頃から優等で特別扱いで、大人の要求を満たして自己実現するズルイ男、戸田。

    この中で、印象に残ったのは、家族も子供も失って、淋しい極北に孤独に生きる上田看護婦。
    ゆきずりに癒しを求めてくる上司に体を許してしまう。もはや、守るべきものがないのだ。

    そして、自分の中にモラルが無いことを自覚している戸田医師。
    どこまで、自分はずるいことをして、ひどいことをして、許されてしまうのか?

    このふたりの有りようを見つめていくことで、「心の中に、何かしらかの神を持っていない人間の、きしみ、というか。辛さというか。寂しさというか」

    そういう風景が実に鮮やかに広がって行きます。

    何も断罪することもなく、弁護も非難もせずに。実に小説らしい小説。名作だと思いました。

    #

    ちなみに。
    「海と毒薬」が1957年発表だそうで。
    そして、山崎豊子さんの「白い巨塔」が1965年だそう。

    大学病院の、権威、競争、組織、みたいな力学については、遠藤周作さんが一歩早く、小説化していたんですね。

    (ふと思ったのですが、「白い巨塔」も未読でした。
    唐沢寿明さん主演のテレビドラマで見ただけで。
    あれはテレビドラマとして大変に傑作だったのですが、原作もこれを機会に読んでみようかなと思いました)

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著者プロフィール

遠藤 周作(えんどう しゅうさく)
1923年3月27日 - 1996年9月29日
東京生まれ。父親の仕事で、幼少時代を満洲で過ごす。帰国後にカトリックの洗礼を受けた。1941年上智大学予科に入学したが、中退。慶應義塾大学文学部仏文科入学・卒業後、カトリック文学を学ぶためにフランスへの留学。帰国後の1954年『アデンまで』を発表し小説デビュー。1955年『白い人』で芥川賞を受賞し「第三の新人」として脚光を浴びた。
1958年『海と毒薬』で第5回新潮社文学賞及び第12回毎日出版文化賞、1966年『沈黙』で第2回谷崎潤一郎賞、1979年『キリストの誕生』で第30回読売文学賞評論・伝記賞、1980年『侍』で第33回野間文芸賞などそれぞれ受賞。1995年に文化勲章を受章している。
上記受賞作のほか、1993年刊行『深い河』もキリスト教と日本人をテーマにした代表作と見なされており、映画化された。60年代以降「狐狸庵山人」(こりあんさんじん)を名乗り、様々なエッセイを記した。数々の作品が欧米で翻訳され高い評価を受けており、存命中ノーベル文学賞候補だったこともよく知られている。

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