海と毒薬 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 6800
レビュー : 792
  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123028

感想・レビュー・書評

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  • びみょ

  • 医者が絶対的な権力をかざし、患者を実験材料にしたり、技量向上のための練習材料にしてはならないと思います。また、医療行為が「商売の一分野」で、患者がお客さんというのもおかしいと思います。遠藤周作 著「海と毒薬」1958.4発行、1960.7文庫化です。戦争末期、大学病院での米軍捕虜の生体解剖事件を小説化したものです。海と毒薬、裁かれる人々、夜のあけるまで、の3つの章で構成されています。

  • 第二次世界大戦末期、九州の付属大学病院で起こった米軍捕虜の生体解剖事件を小説化した話(いわゆる“九州大学生体解剖事件”)。

    本作はフィクションで、その善悪や事件の責任を社会に問うものではない。

    作品の冒頭は、何気ない戦後間もない、とある夫婦の日常から始まるが、何気なく暮らしている住民も、ほんの少し前までは、戦場で非人道的なことをしていたことを口にする。

    その対比。

    そして、本作の中心となっていく、九州の付属病院での話に移っていく。

    ほぼ良心の呵責を感じない戸田医学生や橋本教授などの医師達。
    一報で、良心の呵責に苦しみ、傍観者となる勝呂医学生。
    その対極にあるそれぞれの人物の姿を描き、社会的な罰と罪の意識、良心の呵責に対して考えさせられる内容。

    先の“生体解剖事件”だけでなく、田部婦人の手術を失敗したことを隠蔽しようとする保身、その背景にある医学部のおける権力欲や嫉妬心に駆られた人たちのエピソードもある。

    それらを積み重ねつつ、人間の罪の意識や残虐性について筆者である遠藤氏は、人間の内面を描いている。


    以下、余談。
    出版当時は、ひどい批判もあったそうで、その後の遠藤氏の執筆にも影響を与えたとか。


    しかし、その後『留学』『沈黙』と見事な作品を世に出していく。


    自分は、『留学』は未読なので、是非読みたいと思った。

  • 同じ立場に立った時に、その人と違わない行動をとるならそれは同じ罪を抱えることになるのか
    戸田の心理に深く共感した。

    何かに自分が導かれることがどれだけ心強いことか、神がいない、国が導く世の中だった頃から、この頃の国家の衰退、不信感が今のこの国の不透明さを表しているのではないかなと思った。

    登場人物で唯一の外人の行動がとても美しくみえた、反対に登場する日本人がとても醜かった。無宗教であるこの国の弱さをみた気がする。


    決して読みやすい本とは思いませんでしたが、物語に入り込んで読むことができて楽しかったです。
    初めて著者の作品を読みましたがファンになりそうです!

  •  B29に搭乗していた米軍兵士の捕虜生体解剖殺人事件を素材に、戦争時の人間としての感覚の麻痺を醒めた筆致で解剖していく。

     姦通。あるいは私生児を生ませる等「他人の目や社会からの罰しか恐れを感じなくなっていた」青年医師戸田。彼は、戦争末期、米軍による空襲の下の人々の怨嗟、呪詛、悲嘆の声にすら無感情なままになっていた。
     一方、同じ大学に勤務する青年医師勝呂はそこまで悪達観はできない。

     タイプの違う二人は、米軍捕虜の生体解剖事件に等しく関わってしまうが、二人が術後に漏らした述懐は対照的だ。

     そもそも、戸田に生まれた奇怪な感情は、戦争に由来するのか。医師という職業体験に由来するのか?。
     それとも戸田個人の性格に依拠?。
     もし最後のそれだとすれば、生体解剖事件を主導した教授らの決断や行動、そしてそれらを生んだ心境と、戸田の感情との間で違いはあるのか。違いあるなら教授らをいかに解釈すべきか。

     他方、生体解剖事件に対する感情は明らかに違う勝呂は、その問題を十分把握していたにも拘らず、生体解剖に関わってしまう。
     心の奥底の模様については勝呂と戸田は対照的なのに、その戸田と外形的な行動においては何らの違いはないのだ。
     勝呂を、主観と異なる行動に走らせた原因は何なのか?。


     解読できない人間の不可思議、行動と認識の乖離に震える。人間性と感情の深奥に触れることのできる、そんな作品かな。
     少なくとも、米軍捕虜生体解剖事件の社会的告発の書でないことだけは明らかか。

  • P196
    新潮社 文学賞 受賞作品

  • 人間の道徳心に訴えかける作品でした。

    なにが善でなにが悪なのか。

    改めて現代に生きる私達が考えるべきことの1つだなと思いました。

  • 小説にしては劇的な場面がないように思い、すこしつまらないと感じてしまった。しかし、解説を読んで、それこそが作者の狙いであったと知った。歴史的な罪である人体実験、そういったことも、自分たちの日常と切り離されたところにあるのではなく、ふとした瞬間に起きることだということ。異常な人間がやったことではなく、自分と似たような人間がやったことであるということ。とても恐ろしいことだと思った。

  • 戦時中に実際にあった人体実験事件をもとにした作品。集団での罪は、集団の中にいるとかえって自覚しないんだなと考えさせられる。ハンナアーレントの「悪の凡庸さ」に通じるものがあります。

  • 3.5
    戦中末期の九州の付属大学病院で起こった米軍捕虜の生体解剖事件を小説化した話。フィクションだが、実験内容や目的、肝臓の人肉食事件(自白捏造かも)等は実際に近い。戦中背景として中国等で酷い仕打ちをしてきた人が普通に暮らしている状況が描写。ほぼ良心の呵責を感じない戸田医学生や橋本教授などの医師達や良心の呵責で傍観者の勝呂医学生から、社会的な罰と罪の意識、良心の呵責に対して考えさせられる内容。敵国は人にあらずという状況と戦中の人道的ルールの考え方も重要だが、基本的には後者でありたいところ。なかなか面白い。

  • 世間の罰では、罰にならない。
    倫理を内面化するとはいかなることか。

  • 神の視点ではなく、第一人称で、勝呂の視点で切り取ってほしかった世界観。いや、戸田の世界観でも面白そう。罪と罰を二者の視点から読めたなら、どんなに興味深いか。看護師の視点は本当にいらないと思った。非人間の代表のような助教授、助手の世界にも興味がある。グレーの二人の世界観を中心に描いたところに、遠藤周作っぽさを感じた。でも覗きたいのは振り切られた、異常なまでの欲望。薄味では満足できなくなった、バカ舌の味覚と同じだな。

  • 人生の師に勧められて5年ほど前に出会った作品。
    何年たっても色褪せないかんじ。
    トップ3入りレベルで好き。

  • 再読。

  • 学生の時以来、久しぶりに読みました。

  • テーマがテーマだけに、読もうか読まずにいようかずっと迷っていた本。

    実際に読んでみたわけですが、何が恐ろしいかって、戸田という、罪の意識が著しく欠如した医師。
    人体実験への参加に際して、はっきりnoと言えずにぐだぐだ巻き込まれていく勝呂医師はまだわかる。けれど戸田の心理はただただ恐ろしい。

  • 凄くグロテスクでリアルな話、気に入った。
    人間同士のドラマはあんまり好きじゃなかったけど、実験のテーマがすごく好き。

  • 違う時代、違う環境。それなのに、共通した罰の意識と良心の不足を己の中に感じさせてしまうあたり、普遍だな〜とおもう。

  • 中学3年の夏休み、塾のテキストに載っていたこの小説の一部が頭から離れず、すぐ本屋でこの本を買って帰って読んだ、という思い出の本。想像以上に重たく、深い物語で中学生のワタシには衝撃的だった。でも忘れられない小説。

  • 自身の倫理観を考えさせられた。私は戸田の言葉に共感をしてしまうことが多かった。

  • 西松原の「私」が語るあいだ、ぞわぞわと落ち着かない恐怖に身を凍らせていた。勝呂と戸田の会話を読みすすめるうち、戸田の気取った態度におかしみを感じた。一度目の手術の段階ではもう、この先の展開を予想して当たる当たらぬの賭けに興じていた。そして戸田は問う、戸田に問われる、良心の呵責とは何ぞやと。
    淡々と筆は進められていくので、読んでいる間はどうということもないのだ。読了えたあと、どうということもなく読み進めていた己を振り返らなければ。

  • 良心 のない日本人(キリスト教といった一神教の不在)

    戸田の回想が一番心に残っている。彼が、先生らにウケの良い作文を書くところ。自分にとって不利なことをわざわざ書く。(本当はそれを人にあげるのを惜しいと思っていた) それを先生は良心的だと褒める。

    普段の生活で、良心という言葉を使うのは、これ良心的な価格だよね、くらい。良心の呵責という日本語が、ここで書かれている 良心 という単語のニュアンスに近いのだと思う。

    私が良心の呵責を感じた経験としては、学校の先生に嘘をついて、それが先生にはばれずに、そればかりか、先生が、私に尋ねた(を疑った)ことを心から謝ってきたこと。

    ばれなかったからいい、世間様に糾弾されなかったらいい、と思わずに、自分の中で、自分の罪を感じている時、良心の呵責を感じる。純粋な感情といった感じ。

    キリスト教といった、自分の外からの良心を持てという範的なものが日本人にはない。

  •  題名も、その主題も作者も表紙の様子も、前から気になって仕方がない作品でした、古本屋で手にいれ、自宅の未読古本置き場に置こうとすると、そこにはもうすでに同じ本が入っていました。あらら~近頃こういうことが少なくありません。ただ、表紙の様子は少し違うものでした。
     人の心の中にデンと存在する「悪さ」をこれでもか!と描き続ける稀有な作家です。面白いかそうでないかと問われたら、たぶんこの作品は面白くないほうでしょう。でもこういうタイプの作品、私には絶対必要です。

  • 初めて読んだのは高校生のときだった気がする…。
    なんとも言えないどんよりした印象だった。
    生体解剖事件について多少なりとも知り、改めて読んだ。
    日常の延長で起こりえる出来事というのがとても怖ろしい。
    何度も断る機会はあったのに、結局、身を投じてしまう。

  • 「沈黙」が面白かったので、本作も読んでみました。
    実際にあった事件がモデルになっていますが、登場人物の造形などは全く作者の想像の産物だそうです。
    非常に重苦るしく暗い作品ではありますが、ぐいぐい読ませてくれます。ずぶずぶと泥沼にはまっていく登場人物たちの心理を丁寧に描いていて、読み手もずぶずぶとはまっていく感じです。
    読ませる筆力、リアルな登場人物、巧みな構成と、遠藤周作ってすごい作家だなあ、と思いました。エンタメでもあり、読んだあと色々と考えさせてくれる作品です。

  • 良心とは何なのか。罪悪感とは何なのか。信念とは何なのか。どうせ死んでしまうならばどんな死に方をしてもいいのか。動物、ヒト以外の霊長類の実験はいいのに、ヒトに実験してはいけないのか。ヒトだけが特別なのか。生物学を専攻する私はそんな疑問が湧いては消えて、消えては湧いていました。私なら勝呂のように良心の呵責に苦しみ、腰が抜けるでしょう。しかしながら、戸田の「醜悪だと思うことと苦しむことは別の問題だ」という一文も印象的でした。戦争が本当の意味で人を殺すのは、このようにして心が破滅することとだと思いました。

  • 初周作。勝呂、戸田両医師、看護婦上田らは戦時中と言う特殊な状況下だからこそ、敵国アメリカの捕虜の生体解剖と言う極めて残忍な行為に傾倒してしまったのだと思った。最後は唐突に終わっており、勝呂医師"のみ"その後については第一章にて先に描かれている。それ以外の関係者は想像するしかない...が自分が思うに、勝呂医師よりかはまともな生活をしているだろう。何故なら、解剖に立ち会った、本当にただ観ていた"だけ"の勝呂医師はこの時まさに良心の呵責に苛まれており、今現在もその真っ只中にいる様子が窺えるからだ。

  • 戦争末期、日本の大学病院で行われたアメリカ人捕虜の生体解剖。その解剖に関わった医師や看護師、医学生の葛藤が描かれる。

    医療従事者となって読み返すと、手術の場面がより生々しく伝わってくる。おそらくこの作品の本筋とは違うだろうが、田部夫人の手術失敗の場面が印象深い。
    また、自分自身に良心の呵責がどれ程あるのかは分からないと思えた。現代ならもちろん倫理的な理由で拒否するだろう。では戦時中なら?医学の進歩のためと言われたら?今となっては分からないことであるが、過去のものとなってしまった事件をその時代背景無しで裁くことはできないだろうと思う。

    本来、この様な答えの出ないラストは苦手なのだが、この作品に関しては逆に決め付けていなくて良いと感じた。解説にあった宗教観だが、私は日本の多神教が好きである。

    *2008.7 *2016.1

  • 日本人にとっての罪と罰は何を意味するのか?民衆の戦争責任を違う側面から描いたものとしても読む事が出来ると思う。

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著者プロフィール

遠藤 周作(えんどう しゅうさく)
1923年3月27日 - 1996年9月29日
東京生まれ。父親の仕事で、幼少時代を満洲で過ごす。帰国後にカトリックの洗礼を受けた。1941年上智大学予科に入学したが、中退。慶應義塾大学文学部仏文科入学・卒業後、カトリック文学を学ぶためにフランスへの留学。帰国後の1954年『アデンまで』を発表し小説デビュー。1955年『白い人』で芥川賞を受賞し「第三の新人」として脚光を浴びた。
1958年『海と毒薬』で第5回新潮社文学賞及び第12回毎日出版文化賞、1966年『沈黙』で第2回谷崎潤一郎賞、1979年『キリストの誕生』で第30回読売文学賞評論・伝記賞、1980年『侍』で第33回野間文芸賞などそれぞれ受賞。1995年に文化勲章を受章している。
上記受賞作のほか、1993年刊行『深い河』もキリスト教と日本人をテーマにした代表作と見なされており、映画化された。60年代以降「狐狸庵山人」(こりあんさんじん)を名乗り、様々なエッセイを記した。数々の作品が欧米で翻訳され高い評価を受けており、存命中ノーベル文学賞候補だったこともよく知られている。

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