砂の城 (新潮文庫 え-1-12 新潮文庫)

  • 新潮社 (1979年12月27日発売)
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本 ・本 (336ページ) / ISBN・EAN: 9784101123127

感想・レビュー・書評

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  • 『万葉と沙羅』という作品に登場した本作。
    気になって手に取りました。
    文章が柔らかく綺麗で読みやすかったです。

    高校から短大へ、
    青春時代を過ごす泰子を主人公に、
    周囲の変化や人間関係を描いています。

    個人的に印象に残っているのは、
    冒頭の泰子が16最になった際に届いた亡き母からの手紙です。
    戦争を経験し、自分の愛しい我が子に思いを伝える文面がとても。

    そこから泰子はブレずに成長していくのも個人的には読んでいて安心しました。
    恋をしたり思想をもったり、それぞれが変わっていく中、泰子の自分を見失わない姿が協調され、泰子を羨ましく思いました。
    (私自身はブレブレの人生のため。苦笑)

    そして、物語の途中で登場する星野さんのくず具合にイライラさせられますが笑、いつの時代でもあるあるなのか、このダメな感じは!と思いました。苦笑

    それだけではなく、泰子の母が慕っていた恩智と泰子が偶然出会い、話をする場面はとても印象的でした。
    美しいもの、善いものをいつまでも信じられるようにしたい、と。

    本作は初版が昭和54年ですが、
    まったくそれを感じさせず読みやすく
    テーマも青春でこの時代にもつながっていると思える作品です。

  • うっかり裏表紙を読んでしまって結末を知りながらの読書となったのが悔やまれる。何も知らずに衝撃を味わいたかったなぁと。
    同時代を過ごした若者たちがそれぞれの信念の赴くままに歩む人生。破滅であったり、道を踏み外すことも美しく善きものをものを求めて本人たちが選びとったものなのだろう。母の想いを辿りながらの旅はドラマチックで美しい描写で魅了された。古いお話なのだけどとても引き込まれた。

  • ◯青春小説、と帯にはあり、解説にも軽小説・青春小説とあるが、個人的な感想としては、別段軽小説でも青春小説とも感じなかった。(解説の文芸評論家は片手間で書いたのだろうか、それともこれが世間的な評価なのだろうか。)
    ◯「善なるもの、美しいもの」(自分が信じるなすべきことなのか、)を追い求めるも、時代や環境の波に飲まれ、脆くも崩れ去る砂の城としての人間の「エゴ」が描かれており、そういった重厚なテーマを、掲載雑誌テーマと、その読者層に伝わるように書いていると思う。
    ◯もしも軽小説・青春小説と読めるのであれば、表面的な感想であるが、むしろ著者の技術の賜物である。
    ◯ただし、その根底に流れるテーマは、「軽」でも「青春」でもない。著者の他の小説にも引けを取らない、私の好きな遠藤周作そのものであった。

  • 理想像として描かれる母の青春、醜く歪んだトシの青春、そして疑問や不安を抱えながらも、清く正しくあろうとする泰子の青春。
    青春という浜辺で作るそれぞれの砂の城は波に攫われ消えてしまうけど、たしかにそこにあった。泰子の清らかさに眩しくなりながらも、私もそうありたい、と願う瞬間も幾度となく。

    美しい言葉が多くある本だなという印象だった。

    「夢みたものは ひとつの幸福 ねがったものは ひとつの愛」「負けちゃだめだよ うつくしいものは必ず消えないんだから」「美しいものと、けだかいものへの憧れは失わないでほしいの。」「人間がつくりだす善きことと、美しきことの結集」

  • 2022.1.15 再読
    前回どう読んだのか全然覚えていない。
    が、今回はかなり心に刺さった。
    それぞれの青春の痛みが。
    動き始めたら止まらない。転げ落ちていく様が。
    中でも水谷トシの行動は愚かで醜い。けれどそれを否定できない。だってそれが正しい事だと信じているから。
    泰子が本当の意味でそういった事に巻き込まれないのは、賢いからだけなのだろうか。

  • 新潮文庫の解説で遠藤周作の中のいわゆる軽小説と書かれてるけど、この言葉が気に入らない。別に軽くないし。どうせなら青春小説と書いてほしかった。
    さらに言えば新潮文庫の裏表紙のあらすじは結末をドーンと書き過ぎじゃないかしら。

    まず物語が亡くなった母の手紙から始まるというところが好きです。
    冒頭の泰子とトシの高校時代が無邪気で楽しそうで明るい未来が待っているという感じ。砂の城を築き上げている途中といったところですね。初めて読んだのが高校の時だったから2人の楽しそうな姿が目に浮かびました。
    それなのに泰子とトシは全く真逆の道に進んでいくことになるわけで。
    トシの気持ちは分かる気がするんです。泰子って完璧すぎる。こんな人が隣にいたら劣等感の塊になりそうなのに、トシはそればっかじゃなくて、ちゃんと泰子のことを親友だと思っている。
    でもやっぱり泰子より…って思うのは当然だと思うんです。その方向性が世間や泰子の思うような“美しいもの、善いもの”ではなかっただけ。
    泰子の言ってることは正論なんだと分っていながらも引きずられていくトシのことを、泰子は理解できないだろうなぁ。
    西に関しても、容赦なく泰子さえも殺すと言ったとき、あれは泰子じゃなくてあたしもショックでした。砂の城が崩れたのはトシと西よりむしろ泰子だったのかもしれません。

  • 初めての遠藤周作さんの作品。
    昭和の時代を生きた若い女と男の話。
    同じ時間を共有してもいづれはそれぞれの道を歩んでいく。昭和の時代背景を書きながらも自身もどう生きていくのかを考えさせられる作品でした。

  • 理由は説明できないけど好きな小説ベスト3には入る。「負けちゃダメだよ。美しいものは消えないんだから」っていうセリフが大好き。
    女の友情の難しさも書かれてるのが好きだし、友達以上恋人未満の男の子との何とも言えないあの感じが書かれてるのも好き。学生時代のように純粋に仲良くはいられない女友達、ちょっと気になってた人と再会したらもう昔の彼じゃなかった、という、なんとも諸行無常、、えもい。

  • 遠藤周作の本って大体こういうオチだよな、という予想通りのラストだったけど、良かったです。賢い生き方も、かわいそうな人生も、本人が幸せならいい。全て美しいと感じさせてくれます。

  • 「その地点をバスが通過した時、スチュワーデスたちは窓をあけて、一本、また一本と次々に花を投げた。花は血の染みのように滑走路に赤い点をつけていった」

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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