悲しみの歌 (新潮文庫)

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レビュー : 94
  • Amazon.co.jp ・本 (432ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123141

感想・レビュー・書評

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  • 昭和32年に発表された海と毒薬からほぼ20年後に書かれた後日談。読んだのは、昭和56年発行の7刷。
    読後、涙が。悲しすぎる。おバカさんで読んだガストンがキリストの再来かのような立ち位置で描かれている。勝呂医師の悲しみが若い新聞記者の折戸にはわからない。わかるはずもない。大学教授の矢野の表裏の顔。人間はひとつの偶然に、のればあるいは置かれた状況しだいでどんな悪をもやれる存在だ。それは水が低きにつくようなものでいかんともしがたい。そんなやんわりとした意図が悲哀とともに書かれてる。つらい。

  • 2018/10/19

  • 号泣した。

  • 本書『悲しみの歌』は、『海と毒薬』の続編となる…、と、あるのは、みなさんのレビューの通り。

    『海と毒薬』は、太平洋戦争末期、九州大学医学部で行われたアメリカ兵捕虜の生体解剖実験を元にした物語で、戦時中の話。

    そして、本書『悲しみの歌』は、戦後の話で、復興を果たした20年後の話になるだろうか。

    主人公の勝呂医師は、新宿で開業医をしているが、その新宿を中心にさまざまな人物が登場し、描かれる。

    似非文化人の大学教授やその娘、反権力を訴える(やがて、スーツを着て企業に勤めていく)大学生。

    勝呂医師の“過去’”を曝く正義感に溢れた折戸記者と同僚の記者野口。

    そして、末期癌患者のおじいさんとその面倒をみていたガストン。

    他にも、多くの、かつ、魅力的で重要な人物が出てくる。


    刊行されたのは、かなり前になるので、出てくる言葉も時代を感じさせる

    戦時中の倫理観の狂いから起きた事件が、戦後の人々を苦しめ続ける。

    深い事情や彼の心理を知らない者たちは、その事件の表面だけを見て彼を糾弾する。若い新聞記者である折戸を始め、さらにその表面だけを「知る」顔のない世間の一般人も。

    折戸(や世間といった)勝呂を糾弾しようとする正義感は、きっとその時代の倫理観からすると正しいのだろうけれど、善と悪は、それほどすっぱり簡単に二つに割り切れるものではない、と。


    ただ、自分も(たぶんこの本を読んだ人も)、簡単に、“勝呂医師”や“折戸記者”のような人物に絶対にならないと断言できないという、恐ろしさもある。

    本当に「正義」って何だろう?と考えさせられた。

    本書の最後に触れられていたが、安楽死の問題も、重要な描写。


    少しネタバレになるが、最後の場面で、別の記者でなく、折戸記者が、目撃者になっていたら、どうなっていただろうか。


    ガストンは、やはり、イエスのメタファーなのかな。

    どこまでも、優しく包み込む。

  • 2016/04/09

  • 暗い小説です。

    太平洋戦争末期に九州医大で行われた捕虜の生体解剖実験を元にした『海と毒薬』の実質的な続編である本作。
    その前作も暗い小説でしたが、その「暗さ」のイメージが異なるように感じます。
    例えるならば、『海と毒薬』は夕闇のような限りなく闇に近い暗さ、『悲しみの歌』はどんよりとした曇り空でその上霧雨の降るような薄暗さ、という感じでしょうか。
    その「暗さ」の違いは、それぞれの作品で遠藤周作が書きたかったもののオマージュとなっています。
    『海と毒薬』では戦争末期の絶望的な状況の中で起きた非人道的な実験への倫理的な問いかけ、そして『悲しみの歌』では勝呂の抱える罪の意識と悲しみ。
    この違いが、私が両者の「暗さ」の違いとして感じた正体であるように思います。

    …とかなんとか書いてるうちにだんだん何言ってるか自分でもよく分からなくなってきました。
    とにかく暗いですが面白い小説だったことは間違いありません。乱文終わり。

  • この世は「悲しみ」でできている。本書を読み終えてまず思った感想は、こうだ。本書は複数の文学賞を受賞し、映画化もされた著名な『海と毒薬』の続篇にあたり、同作に登場した勝呂医師がふたたび登場する。『海と毒薬』の内容をもう1度おさらいしておくと、第2次世界大戦の末期、九州帝國大學において、捕虜になった米兵が、生きたまま解剖された史実をもとにした小説で、戦時中とはいえもちろんそんな行為は立派な犯罪である。ひるがえって本作の勝呂も、刑期を終えたことが物語中に描かれており、生体解剖がちゃんと断罪されたことがわかる。しかし、ほんとうに勝呂医師だけが悪かったのだろうか。あるいは、ほんとうに断罪されるべきであったのだろうか。むろん、行為じたいが褒められるべきではなく、むしろ責められるべき性質をもつことはわかる。しかし、いちいちネタバレをするほどのことでもないので詳述は避けるが、勝呂医師の「最期」をみるに、この断罪によってはたして救われた人はいるだろうか。言いようのない「悲しみ」を増幅させただけではないか。勝呂医師は現在は新宿で開業医をしていて、やがて新聞記者に過去のことを嗅ぎつけられ、断罪される。しかしその新聞記者もまた、真実を追求するいっぽうで、互いに惹かれあってたはずの恋人からは別れを切り出されてしまう。正義とはなにか。これもまた、悲しみの一種なのではないか。べつの記者である野口のセリフの端端には、こういった無力感のようなものも垣間見える。そして、勝呂医師のまわりに集まる患者や、その見舞客たち。それぞれがさまざまな事情を抱えていて、とても幸福そうには見えない。生きることの本質は、悲しみではないであろうか。末期癌の患者は、やがて勝呂医師に「安楽死」させられる。しかし、それこそがほんとうの救いなのではないか。生きるとは。死ぬとは。幸福とは。悲しみとは。この行為ひとつとってみても、世の中がそう単純には割り切れないことだらけであると知る。著者はキリスト教の熱心な信者であることで有名で、本作の作中にも聖書の一節が引用されている。しかし、著者はそのキリスト教の救済に対してさえも、なにか本質的な疑問を感じているように思える。救済とはいったいなんなのか。あまりにも重すぎるテーマばかりで考え込んでしまうが、それだけに読む価値はじゅうぶんすぎるほどある。

  • 登場人物が、あちこちで関係を持つのがフィクションならではだが、勝呂医師には共感できる。勝呂を糾弾する記者折戸に対する同僚野口の言葉。「絶対的な正義なんてこの社会にないということさ。戦争と戦後のおかげで、ぼくたちは、どんな正しい考えも、限界を超えると悪になることを、たっぷり知らされたじゃないか。君があの記事を書く。それは君にとって正しいかもしれない。しかし、君はそのためにあの医者がこの新宿の人々からどんな眼で今後、見られるか考えたかい」折戸や常に世間体を気にする矢野教授のような人は、悲しいかな、この社会には多い。2015.5.6

  • なんとも沈鬱な物語。予備知識なく読み始めて「海と毒薬」の続編であることが分かりとても興味深く読め進めるが、物語は悪い方向にどんどん進み、とてもやるせない。「沈黙」のテイストに近いですね。
    大学教授は結局のところどうなっていくのかが気になるが、一番救われない気がする。
    作者が持つテーマである、神の無慈悲、沈黙が綴られるが、救いは基督の使徒のようなガストンの存在か。
    ともあれ人生は深く、辛く、また罪深い。

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著者プロフィール

遠藤 周作(えんどう しゅうさく)
1923年3月27日 - 1996年9月29日
東京生まれ。父親の仕事で、幼少時代を満洲で過ごす。帰国後にカトリックの洗礼を受けた。1941年上智大学予科に入学したが、中退。慶應義塾大学文学部仏文科入学・卒業後、カトリック文学を学ぶためにフランスへの留学。帰国後の1954年『アデンまで』を発表し小説デビュー。1955年『白い人』で芥川賞を受賞し「第三の新人」として脚光を浴びた。
1958年『海と毒薬』で第5回新潮社文学賞及び第12回毎日出版文化賞、1966年『沈黙』で第2回谷崎潤一郎賞、1979年『キリストの誕生』で第30回読売文学賞評論・伝記賞、1980年『侍』で第33回野間文芸賞などそれぞれ受賞。1995年に文化勲章を受章している。
上記受賞作のほか、1993年刊行『深い河』もキリスト教と日本人をテーマにした代表作と見なされており、映画化された。60年代以降「狐狸庵山人」(こりあんさんじん)を名乗り、様々なエッセイを記した。数々の作品が欧米で翻訳され高い評価を受けており、存命中ノーベル文学賞候補だったこともよく知られている。

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