沈黙 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
3.98
  • (1298)
  • (1027)
  • (1198)
  • (68)
  • (15)
本棚登録 : 9345
レビュー : 1075
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123158

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 舞台は島原の乱後の五島列島におけるキリスト教の布教活動と先に日本に渡った恩師の安否確認のためにローマ教会からくる司祭の物語。最終的には棄教という選択を選ぶことになるが、それまでの葛藤の心理が臨場感溢れている。当時の日本がいかにして異教を排除していたかが分かる。踏み絵のことは授業で習っていたが、本当の意味でこの本を読むことで理解できる。穴吊りという拷問は本当に恐ろしい。

  •  人に絶対勧めたい本を★5つにすることにしている。
     この本、本当にありとあらゆる力のこもった凄まじい本だったから、印象的には★5つなんだけど、でも、絶対勧めるかというと、うーんまぁ勧めたいけどけっこう読んでてしんどかったから、微妙なところ。
     そういう意味での★4つ。

     どんなに辛い状況になっても、当然のように何もしてくれないし、何も語りかけてくれない神。じゃあ本当にいるの?もしかしていないの?神なんか本当はいませんでしたってなったら、神を信じて全てを捧げてきた自分という存在はいったいなんなの?そういう絶望が、一般人じゃなくて宣教師という立場から描かれているという点で余計に深刻度を増していて、辛かった。
     神様の存在をいちばんに考えて生きてきて、それが何よりの自分のアイデンティティになっている。それを放棄することがどれだけ大変で苦しいことなのか。そこまで強く持つ信念ってなんなんだろうって考えた。今のわたしにそんなものないし、死ぬような思いをしたり拷問されたりしてまで守りたいものって全然ない。やばそうになったらたぶん全体的に平気で捨てるんだろうと思う。
     だからこういう人たちの思考回路は全く未知の領域で、ただただ目から鱗っていうか、そういう世界もあったんだな、って想像するのが精一杯だった。

     大学のとき、哲学概論かなんかの試験で「哲学と宗教の違いは何だと思うか」っていう問題が出て、「宗教は盲目的だけど哲学はそうじゃない」みたいなこと書いてそれだけ丸をもらえたのを今でも覚えている。あの先生の名前なんだったっけ。「先生は哲学なんかを長い間ずっとやっていて、もしかして実は物凄いお金持ちで何もする必要がない人なんですか」って聞いたら笑ってた、ハイデガーの第一人者みたいな感じの教授。田中なんとかさん。
     結局、それが神様であっても何か目に見えるものとか存在であっても、わたしは何かに盲目的に自分の全てを捧げる人生は嫌だなって思う。少しでも疑いを持ってしまったり、失ってしまったりした瞬間、自分のそれまでの人生が選択権なく否定されることになるし、自分の芯みたいなものが一瞬で全部ポキって折れてなくなるし。全面的に何かにもたれかかってれば楽だけど。でもそのもたれかかれるものがなくなっても、結局生きていかなきゃいけないし。
     って書いてて思ったけど生きることへの執着がすごい。とりあえず生きていきたいんだなわたしは。
     それはそうと。
     元気なくなったときにちょっと勇気づけてくれるもの的な感じで頼るのはありかなって思うけど、宗教への関わり方として果たしてそんなんでいいのかって気もするし。だからたぶんこれから先も宗教とは関わりのない生き方をするんだろうな。

  • キリストの話か、と敬遠していたが読んでみたら凄かった。
    キリシタン弾圧化の江戸期日本に布教ためにやってきたポルトガル司祭ロドリゴ。
    彼が布教に挫折し棄教する過程が物語の大筋だが、テーマとなるものが2つ。


    1)神は存在するのか?


    2)信仰とは何だ?



    1)神は存在するのか?捕らえられたロドリゴは棄教を迫られる。信徒である農民に加えられる壮絶な拷問。信者の呻き声と叫び声を聞かされる。取り締まる井上筑後守はいう。
    <転べ=棄教しろ。すればあの農民たちは助けてやる。>


    ここでの司祭の祈りと葛藤。そして井上筑後守との対決が非常にドラマチック。引き込まれるし巧い構成です。
    で、ロドリゴは思う。信徒が苦しんでも主はなにも言わない。救わない。奇蹟が起きない。なぜ沈黙しているのか。こうやってロドリゴは内面で神の沈黙という出来事からその存在そのものを問う。

    さらに神の沈黙を際立たせるのが情景描写。信徒が拷問によって死ぬ。殉教が行なわれた。なのに外の世界は変わらない。単調な波の音。中庭の静かさ。蝉の声。蠅の羽音。殉教者と無関係に世界が同じ営みを続いていることにロドリゴはショックを受ける。神の沈黙を情景描写で際立たせる。巧い表現です。




    2)信仰とは何だ?葛藤と苦しみのすえ司祭は踏み絵を踏んで棄教する。が、それは神への裏切りではなくキリストは足で踏まれ棄教者ですらそれを赦しているというラストの描写は、そもそも信仰とはなんだろうか?という重くて深遠な問いを突きつける。



    神の存在と信仰のテーマを物語に落とし込み、ドラマチックな作品に仕立て上げた遠藤周作の力。畏れ入りました。

  • 確かに、恐ろしい拷問の話と読むことも出来るのか、と頭を殴られたような気分になる出来事があって久しぶりに思い返しています。
    知人が「本当に怖かった」というので、何か違う「沈黙」の話をしているのだろうかと最初は思い、「ああそうか」に至るまで結構な時間を要しました。文学系の授業の一環で人生における挫折や黄昏時、アイデンティティ喪失の問題などについて考えながら読んだ作品だったこともあってか、描写の悍ましい部分については特段注目しなかったというべきか、とかく「そういう時代だったのだ」と、強いて言うならば憐みの目で見ていたのかもしれません。それから、遠藤周作同様幼児洗礼を受けたクリスチャンとして、今の時代に生まれてよかった、と思いはしました。でも、ある種の感情を遮断した状態で読んでいたのかもしれない、あるいは鈍っているのかもしれない、と今現在茫然としているところがあります。

    さて最近は、何がきっかけか自分でも分かりませんが、戦争映画を観ても大河ドラマを観ても、何が人を残酷にさせるのか、凶暴にさせるのか、ということをしょっちゅう考えるようになったような気がします。そういう意味では、キリシタンの弾圧も、あくまで今の常識的な価値観からするともちろん異様です。でも自分と同じ人間が、同じ日本人が、同じ日本人に対して、ときには外国人に対して、行ったことだとされています。同じ人間なのですから今の私たちもやろうと思ったらやれる行為であり、それでも私たちは自らを倫理や法律などの名の下縛り付けています。そういう自制のための装置を作ろうとしない状況とはどんな状況なのでしょう。(語弊の多そうな表現ですが)あるいは、死刑を認める日本は根本的なところでは変わっていないともいえるのでしょうか。

    話はそこそこ飛びますが、日本の思想にはある意味で「救い」「赦し」が無いのだ、とふと思いました。容赦ないのです。遠慮深い人は多いと思っています。でも、「そうしましょう」と律するものは実は無いのではないか、ということです。そういうことを体現した神様が多分いないから。そこに端を発している物事は色々ありそうだな、と思いつつ、その先について考えるのは別の機会に、とします。随分遠くまで行ってしまったので一旦閉じます。

  • 「日本人は人間とは全く隔絶した神を考える能力を持っていない。日本人は人間を超えた存在を考える力も持っていない」
    「基督教と教会とはすべての国と土地とをこえて真実です。でなければ我々の布教に何の意味があったろう」
    「日本人は人間を美化したり拡張したものを神と呼ぶ。人間と同じ存在をもつものを神と呼ぶ。だがそれは教会の神ではない」
    「あなたが20年間、この国でつかんだものはそれだけですか」
    「それだけだ」フェレイラは寂しそうにうなづいた。(236p)

    映画を観たので原作を紐解いた。どうしても確かめたかった点があったからである。それは後述するが、フェレイラとドロリゴの対決場面や井上筑前守との対決場面は、基本は映画と同じで流石に詳しく描かれていた。

    この会話は、加藤周一の「日本文化史序説」を読んでいる私には頷く所の多いものだ。日本の「土壌(文化)」には、確かにそれがある。しかし、それと日本人一人ひとりにその能力が有るか無いかとはまた別問題であるし(実際に「ホントの神」を信じた宗教家は何人かいる)、ましてやそういう文化的土壌があるからといって、人間の思想を権力が強制・弾圧するのは言語道断ではある。と、370年後の私が言っても仕方ないのだが。スコセッシ監督は、台詞をかなり選んではいるが、原作にかなり忠実であったことを確認した。問題のキチジローの描き方も、彼の存在そのものの解釈は様々に出てくるかもしれないが、基本的原作に忠実であった。

    「主よ。あなたがいつも沈黙しておられるのを恨んでいました」
    「私は沈黙していたのではない。一緒に苦しんでいたのに」
    「しかし、あなたはユダに去れとおっしゃった。去って、なすことをなせと言われた。ユダはどうなるのですか」
    「私はそう言わなかった。今、お前に踏絵を踏むがいいと言っているようにユダにもなすがいいと言ったのだ。お前の足が痛むようにユダの心も痛んだのだから」(294p)

    私の解釈は、キチジローはやはりロドリゴの揺れる心の分身であったのだ。

    映画ではロドリゴの日本人妻が彼の葬式時に密かに聖像を含ませた。紐解いて確かめたかったのは、これは原作にもあるのか、ということだった。「あれは妻を教化するほど、信仰を捨てなかったことだろう。あの場面の意味をどう考えるか、でこの作品内容は大きく変わる」という映画仲間もいたほどだ。結論からいえば、あれは映画のオリジナルだった。しかし、

    聖職者たちはこの冒瀆の行為を烈しく責めるだろうが、自分は彼らを裏切ってもあの人を決して裏切ってはいない。今までとはもっと違った形であの人を愛している。私がその愛を知るためには、今日(こんにち)までのすべてが必要だったのだ。私はこの国で今でも最後の切支丹司祭なのだ。そしてあの人は沈黙していたのではなかった。たとえあの人は沈黙していたとしても、私の今日までの人生があの人について語っていた。(295p)

    このラストのロドリゴのモノローグを映画的映像に「直した」のが、あの場面であったことがわかるのである。

    無神論者の私が映画の時に感じた「一般的な思想弾圧」に対する感慨は、原作の時には微塵も感じることができなかった。純粋にキリスト教について、私は様々な感慨を持った。そしてそれこそが、おそらく小説と映画との違いなのだろう。

    2017年4月13日読了

  • ポルトガルから日本に行くだけでも想像を絶する苦難にも関わらず、さらにキリスト教が禁止されている日本において、命がけで布教をするという動機は何なのかと考えながら読みました。また、農民の中にも命がけで信仰する者が多く登場し、「転ぶ」ことを選ばず、殉教を選択する者も少なくありません。農民は取締を行う武士に対しては「沈黙」することしかできません。そして、その信仰する農民に対して、神もまた「沈黙」します。この後者の「沈黙」はあまりに残酷です。みすぼらしく哀れな殉教が描かれています。神の無力さを証明するかのようです。この様な経験を通して、主人公の神父が逡巡します。なぜ神はいつまでも沈黙しているのか、現世に救いはないのかと。やがて、神父の信仰に懐疑の芽が生じ、育っていく様子が描写されます。人の思想とか宗教とかの硬質さについて考えさせられました。

  • 佐渡島庸平さんの本を読んだ際に、お勧めの本の一つに掲載されていたため購読。
    初め文章が難解で読みづらいと感じたが、読み進めていくうちにどんどん引き込れ読了。
    キリスト司教の倫理観や葛藤、背徳の心理的描写が生々しく文章で表現されている。

  • 「沈黙」を読んで以降、僕は遠藤周作の作品に惹かれた。禁教の時代、日本で基督の布教を試みたイエズス会司祭のセバスチャン・ロドリゴの葛藤や苦悩の日々を記録的に記している。
    遠藤周作はほかに「海と毒薬」や「白い人」などがあるがどちらも僕の大好きな作品だ。キリシタンの糾弾やアメリカ人兵隊捕虜の生体解剖、思想犯の取り締まりなど、かつての日本で行われていた出来事を、頁を捲る手を躊躇わせてしまうほど残酷で生々しい描写で書いている。
    思想や国籍の異なりを確執、暴力、迫害によって否定することを良しとする時代の渦中で、「人間の倫理観」の崩壊のさまが克明となっている。

  • 「盲目の勇気にとりつかれて、日本国に迷惑かけることを忘れるものが多い」
    「正は普遍」
    「日本は沼」

    100%綺麗に分かれる善や悪、白と黒は、ない。何かと何かとがぶつかって、混じって行くことこそ、普遍的なことのようにも思える。

  • なぜ苦しい状況のなか祈っても神は沈黙しているのか。本当に神は存在するのか。信仰の根源的な問題に迫った作品。
    キリスト教についてあまり知らない人でもその信仰を続けることの苦しみが伝わってくるはず。
    最後に司祭がたどり着いた結論も1つの信仰の形だと思った。

全1075件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

一九二三年東京生まれ。慶応大学仏文科卒業。リヨン大学に留学。一九五五年『白い人』で第三十三回芥川賞を受賞。一九六六年『沈黙』で第二回谷崎潤一郎賞受賞他、数多くの文学賞を受賞。主な著書に『沈黙』『海と毒薬』『恋愛とは何か』『ぐうたら生活入門』『宿敵』等多数。

「2019年 『恋愛とは何か 初めて人を愛する日のために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠藤周作の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
村上 春樹
三島由紀夫
ヘルマン ヘッセ
ヘミングウェイ
有効な右矢印 無効な右矢印

沈黙 (新潮文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする
×