真昼の悪魔 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 77
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123202

作品紹介・あらすじ

患者の謎の失踪、寝たきり老人への劇薬入り点滴…大学生・難波が入院した関東女子医大附属病院では、奇怪な事件が続発した。背後には、無邪気な微笑の裏で陰湿な悪を求める女医の黒い影があった。めだたぬ埃のように忍び込んだ"悪魔"に憑かれ、どんな罪を犯しても痛みを覚えぬ虚ろな心を持ち、背徳的な恋愛に身を委ねる美貌の女-現代人の内面の深い闇を描く医療ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 「心あたたかな病院」キャンペーンに携わっていた遠藤周作が、医者と患者との心の通い合いが乏しい、現代の医療現場への憂慮から筆をとった小説らしい。サラリと読める。しかしテーマは重い。そして恐ろしい。わたなべまさこの『聖ロザリンド』という漫画を思い出した。

    簡潔で、いうなればあっけらかんとした文体で、様々な観念について考えさせる遠藤周作の作品。今回は善と悪について思いをめぐらした。善/悪は、きっかり二分できるものではないということだけはいえるよなぁ。だからこそ行いには「神がそういっているからだ」という審判が必要なんだよなぁ……って。

  • 面白かった。割と序盤の方から夢中になれて、一気に読破してしまった。

    夢中になれた理由はまず、女医の正体がぼかされている点だ。そのミステリ的な要素が読者の感心を鷲掴みにする。
    そして、極度までデフォルメされた悪意。世の中には悪意を持った人間がいて、その程度の差は様々。だけど、この女医ほどの人間にはお目にかかったことはない。自分のそれなりに恵まれた人間関係に感謝せざるを得ない…。
    そんな純度の高い悪意を、宗教的な悪魔になぞらえるのはまさしく遠藤周作らしさなのかな。そして対極の存在として登場する牧師の頼もしさよ…。
    結局悪意は解決されることは無いのだけど、それが強烈な余韻を残す。
    冒頭と終盤で牧師の口から語られる悪魔観が、より一層味わい深さを演出している。

    非常に分かりやすく読みやすいストーリーが、キリスト教的世界観で下支えされた名作だった。

  • 遠藤周作は久しぶりだ。一年ぶりといった期間ではなく、十数年ぶりではないだろうか。本作を手にしたのは、紹介文に「医療ミステリー」という言葉があったからである。遠藤周作がミステリーを? そこに興味を惹かれた。

    ミステリー小説と称されるだけに、文体は軽く読みやすい。一気に読める。「彼女」という代名詞で巧妙に隠匿された女医。女医は四人登場するが、「彼女」とは? というミステリー要素が、物語を牽引する。同時に、「彼女」なる女医は美しい美貌のうちに、およそ一般市民の想像の次元を超越する「悪意」を秘めている。この「悪意」を語る過程で、遠藤周作はキリスト教における悪魔観を巧みに織り込む。そして、(キリスト教における)悪魔とは何かを神父に語らせることで、女医の抱える悪意をも明らかにしようと試みているように思われる。この展開は、カトリック作家たる遠藤周作の面目躍如といえるだろう。

    一方、「ミステリー小説」とは書かれているけれども、物語の中では「お約束」ともいえる殺人は起こらない。「彼女」という代名詞によって、たしかに犯人は隠蔽されて物語は進行するが、さりとて謎解き要素があるのかといえば、その点への期待は過大に持たない方がいい。あえていえば、「ミステリー風のエンターテインメント作品」ということになろう。自分にとっては、「ミステリー」なる言葉は、本作品を手にする契機となる惹句であり、結果としてはそれで十分だったといえる。想像の斜め上を行くほどの「悪意」。その悪意を抱いた人物が女医、つまり医療に携わる者であること。悪意の正体を、つまりは悪魔とは何かを説いてみせる神父。これらが織りなす物語は、エンターテインメントとして極上だったからである。

    解説に、遠藤周作が医療現場の改善のために活動していたという記述があった。これを踏まえると、本作品で描かれる悪意は、それも「理由なき罪を犯す」ことによって「悪による心の痛みを感じてみたい」と切望する女医という凄惨ともいえる設定は、現代の医療現場に対して遠藤周作が抱えた葛藤の具現化のようにも思える。医療の場では、患者は医者に対して、神の前の羊の如くなすすべもない。「神」の次元に立つ者が悪意の塊であったら、という想像は背筋も凍るほど恐ろしい。その恐怖をエンターテインメントの領域に昇華させたのは、カトリックをバックグラウンドとして物語を描くことのできる遠藤周作の力量そのものであろう。

    プロローグとエピローグとして語られる神父の言葉は、この悪意というテーマに彩られた作品の癒しであり、遠藤氏によるキリスト教に基づく世界観であり、本作品のタイトルである『真昼の悪魔』の真意でもある。

  • 2019年2月16日、読み始め。

    ウィキペディアによると、

    『週刊新潮』に1980年2月から7月まで24回にわたって連載され、1980年12月に新潮社から単行本が刊行された。1984年12月24日には新潮文庫版が刊行された。
    2017年2月、フジテレビ系でテレビドラマ化された。

    とのこと。

    著者は1923年生まれなので、著者が57歳位の時に書かれた作品である。


    73頁まで読んで、図書館に返却。

  • 後味悪かった…。
    すごく現代的な話だなーと思ったけれど昭和に書かれたものだった。


    後味が悪い。
    けれど、彼女と同じような空虚感のようなものは味わったことがあるかもしれない。
    ふと、なんのために生きているんだろう、と、何にも感動できないといった瞬間がある。

    この本を手に取ったのは、何かしらの警告のような気もする。

  • 作家の想像力は時代を先読みする。とはいえこの様な事象は普遍的なことがらでもあるのだろう。

    *****

    ある大病院で次々と起こる事件、患者の失踪、医療ミス、障害のある子供のいたずら。ひとりの大学生患者が経験する怖い思い。その背景には一人の美しい女医が見え隠れする。道徳を信じず、心は乾き、「障害者、老人、不治の病の人々を生きていても仕方がない」と抹殺しようとする心理。彼女は真昼の悪魔かもしれない。

    *****

    誰の心にもしのぶ、悪魔の選択。冷酷な人間か?冷静な対応なのか?
    しかし、今ニュースで接する事柄をみてもこれは小説の中のことではないと悩ましい。30年以上前の小説ながら古びていない。

  • 遅ればせながら、初遠藤周作。非常に読みやすいことに驚いた。多少難読するだろうと予想していたが、題材も含めて、スラスラと頭に入っていく。善と悪の境目の考察。無感動の境地。人間の二面性、及び多面性。それを淡白なミステリーに仕上げているなと感じた。医療分野と人間の多面性が、陰鬱で素敵だ。考察が深く潜りすぎないことも、ある程度余裕をもってページを進める要因であろう。とてもバランスのいい作品だと感じた。悪魔は多分、いる。

  • 当時の現代人の、とも言い切れない
    空虚感、心の渇き、それを満たす
    多様化容認の名もとに、古い枠組みを超えた、
    個人を社会とは別扱したがる新時代の価値、
    個人尊重の風潮。
    それは、構成員としての集団に対する責任感から
    個人の欲望を無条件で解放し、
    本来社会性を持つべき人間に対し
    動物的快楽、欲望を追求することに
    意味を持たせるだけの脳がひねり出した
    いいわけにも感じる。
    帯・背表紙には「医療ミステリー」とあり
    確かに「彼女」は何者かを追う部分があるが、
    遠藤先生のエンターテインメント作品にして、
    「悪魔」という言葉を用いているなか、
    裏返して時代の中で相対的、絶対的「善」とは
    を問いかけたのではないか。
    悪魔と悪魔が対峙するとき、彼女は彼に何を見た。

  • 白けきった時代に生きる

  • 怖い話。
    書かれた時代より、更にそう言うタイプの人間が増加してるのではと思わせる時代を先取りしている感じがした。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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