王妃マリー・アントワネット (下) (新潮文庫)

  • 新潮社 (1985年3月27日発売)
3.80
  • (145)
  • (173)
  • (229)
  • (13)
  • (0)
本棚登録 : 1459
感想 : 122
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • 本 ・本 (464ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123226

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 悲劇の時間へ…の一冊。

    上巻から息つく間もないぐらいに彼女のあの悲劇の瞬間までが刻一刻と綴られ刻まれていく。


    財政破綻からの群衆の苦しみ。

    その憎悪の吐け口を探し、革命という名の狂気にしか見えない残虐な行為に時代とはいえ人間の怖さを感じた。

    断頭台に上がるまで、彼女の心を嘘偽りなく全て晒されるかのような見事な描写は圧巻。

    最後まで国王と国王妃だった証ともいうべき、美と優雅という鎧を纏い階段を上がる姿、この世での最後の言葉まで息を呑むほど。

    喚声と拍手から一転、静寂に包まれた広場。
    それは彼女の人生そのもの。

  • マリー・アントワネットと言えば、子供の頃に見たアニメ「ベルサイユのばら」での印象が強かったが、今回改めて遠藤周作の本を読んでみて、今までのイメージと似ているところ、違っていたところ、それぞれ色々あって面白かった。無邪気な姿を見せる一方、皇太子妃そして王妃として誇り高く振る舞い、品位や威厳を重んじる姿は、ベルばらと似ていると感じた。一方で、自ら策略家となり、戦争を起こすことも厭わないというある種の強さ・強引さは、読みながら新鮮に感じた。最後にマルグリッドだが、彼女の感情の動きは、人間に普遍的とも言えるように思った。自分より遥かに恵まれた人間への、時に激しい嫉妬という醜い感情、しかし一方で、純粋で正義感の強いアニエス修道女を、心から信頼できる真っ直ぐな心も持ち合わせている。マルグリッドをみていると、まるで「自分のことだ」「あの人のことかも」としばしば思う所以だろう。

  • いよいよ革命が起こる!7月14日!ちょうどこの本を読み始めた日。なんと言う偶然でしょう。
    財政の悪化、市民の苦しみ、貴族への恨み。
    そんな中最後まで国民と国王とは愛し合わなければならぬと言う義務を果たそうとするルイ16世。
    この日の日記には、何もなしと書く。
    自ら意見を出し、苦しまずに死刑執行されるようにと、こころから祈った断頭台で自分が処刑されるとは思いもしない哀れな国王。
    そして何もかも理解した上で、最後まで正面を向き、優雅を守り王妃としての威厳を死守しようとするマリーアントワネット。
    群衆の残酷さが人間の悲しさをものがたり、なんとも耐え難い文章を綴っていく。
    唯一の救いは、愛するフェルセンの存在。
    そしてなにより、マリーアントワネットが、白髪になっても最後まで美しさ、王妃の威厳を失わなかったこと。
    ベルサイユにタイムスリップしてきましたが、ちょっと辛すぎてのめり込めずに、遠くから眺めておりました。誰にも感情移入できずでした。

  • パリに行く飛行機で一気読みした。翌日に実際にマリーアントワネットが処刑されたコンコルド広場を歩いたり、幽閉されていたコンシェルジュリーやチュイルリー宮殿を外からだけでも見られて、ここで、と感慨深かった。
    上巻ではただ我儘で世間知らずだったマリーアントワネットが、群衆の人々の心の変わりやすさを知り、優雅と気品だけは守り通して死んでいこうとする姿が描かれていてとても良かった。

  • 革命の凄まじさと、処刑台に上っても優雅であろうとしたマリーアントワネットの姿が、ものすごい対比をなして描かれている。一方で、マルグリットという女中とマリーアントワネットとのコントラストもある。王族や上流階級の貴族の生活と、下級人民の暮らしは隔絶しており、贅沢を極めるマリーアントワネットは、困窮する国民の生活に気づくはずもなくどこまでも世間知らずであった。革命は、人民を顧みない王族に対する怨嗟からより良い社会を求めて起こったはずなのに、正義の名を借りただけの獣の殺戮へと化してしまった。えてして歴史の大きなうねりは残酷で、個人の運命を飲み込んでしまう。

    サド公爵やモーツァルトなども出、ドラマティックなストーリーの味つけに一役買っている。マリーアントワネットはフランス人ではないがフランスの象徴的な歴史人物であるのは間違いない。ひとりの母親としてみるととても哀れだったが、しかし、生まれながらの王妃であり、善良な王であるルイ16世に貞節を護った天衣無縫の女性であった。姿を見せると怒号もぴたりと止むくらいの人心を惹きつけてやまないカリスマ的人物だったのだろう。作者の文体によって活き活きとして伝わった。

  • 絶対王政のツケをすべて払わされた不幸な国王ルイ16世とその家族。革命本を読めば読むほど、彼らへの同情が増す。
    慶喜のように絶対恭順を貫く将軍にも感心したが、最後まで王家の誇りを失うことなく散った王妃にも胸打たれた。
    劣悪な社会に対する反動とはいえ、狂った民衆による衆愚政治が怖すぎる。
    「白い人」の主人公よりはマシだが、マルグリットの加虐心には辟易した。

  • 歴史小説の中では断トツで好きな一冊です。
    初めて読んだのは学校の授業でフランス革命を学んだ直後で、遠藤周作は革命のさ中にフランスに居てその目で見たことを小説にしているのではないかと錯覚するぐらいのリアルな描写とドラマチックな展開に感激し夢中になって読んだ記憶があります。
    物語の終盤、アントワネットが最期に口にする「ごめん遊ばせ」「うっかり、いたしましたのよ」の言葉に彼女の王妃としての誇り、気高さ、優雅さの全てが集約されているように感じました。

  • 首飾事件の帰結から、マリー・アントワネットの処刑まで。フランス革命の混乱に翻弄された人生。何度も逃走し、全て失敗して最後は運命を受け入れたというのは初めて知った。終盤は妻として、母としての心理描写が多くて読むのが辛かった…。創作も一部あるけど、基本的に史実に基づいてるので教養として読んで良かった!

  • まるで今の日本。無知で無能なアホバカ首相。我々の税金を私的に勝手に使いまくるその妻。そして全てにおいてレベルの低い一般大衆。違うところは、人が良く善意のルイ16世に対してアホバカだけでなく性格最悪で腹黒い我が国の首相。気品があり美しい王妃に対して下品で醜い首相の妻。無気力で他人事の日本国民に対して血の気の多い第三身分のアホども。
    フランス革命は明らかにやりすぎであのうす暗いコンシェルジェリーに幽閉されていた王妃に同情するが、日本の革命は徹底的にやれば良い。早く起こらないかな…

  • 下巻はフランス革命がいよいよ始まる。市民の暴動や貴族たちの特権はく奪など、革命に向かうそれぞれの立場での情景が描かれている。14歳で異国から嫁ぎ、37歳で断頭台の露と消えたマリーアントワネット。統率力のない王へのいらだち、貴族たちの策略、裏切り、ひそかな愛…なんと波乱に満ちた短い人生だったのだろう。フランスの財政難を理解できなかった王妃は湯水のように公費を使う。そして、その贅沢三昧は、やがて恨みから国民の暴動へと発展。今や歴史を代表する悪女のレッテルを貼られた王妃だが、その行動の中に、心から楽しんでいるわけではない、何かとても暗い孤独を感じた。晩年の生活を読み進むとさらにその印象が一転する。心から王を愛し、子供たちを溺愛するひとりの妻、母であった。そして断頭台に立つ瞬間までエレガントさと気品を失わなかった美しい女性であった。

全122件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

遠藤周作の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×