女の一生 二部 サチ子の場合 (新潮文庫 え-1-24 新潮文庫)

  • 新潮社 (1986年3月27日発売)
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本 ・本 (592ページ) / ISBN・EAN: 9784101123240

感想・レビュー・書評

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  • 遠藤周作は「あとがき」にこう書いている。
    「どんな人間にもその人生には書くに足る劇があるのは当然だが、我々世代の一人一人にはそういう意味で個々の劇のほかに共通したドラマがある。私はその共通したドラマを主人公サチ子の中に書いてみたかった。「あっ、これは、わたくしだ。わたくしと同じだ」 毎朝、私の新聞小説を読んでくださる主婦がそこに自分の似姿を見つけられたらなら、この小説は書き甲斐があったと言うべきであろう。」
    市井の庶民一人一人の戦中体験が、実は、最も貴重な歴史そのものであるという認識が、作者の心の中を占めていた。
    このようなサチ子を私が初めて知ったのは岡本喜八監督の映画「肉弾」の中で、大谷直子演じる少女像であった。そして最近では人気アニメから「あっちこっちのすずさん」が、自らのドラマを語り始めている。
    もちろんアウシュヴィッツのテーマや、神の問題も重要ではあるが、歴史は、一人一人に固有のものでありつつ、かつ普遍的なものであるのかもしれない。

  • 奥川サチ子と幸田修平が育っていく過程を追いながら、戦時中の庶民の生活を丹念に記述することで、当時の空気をまざまざと感じさせる作品だ.アウシュビッツのエピソードも交えて、人間の残酷さを表現するとともに、神の存在を思索する人間の葛藤も示している.キリスト教の教えと戦争行為の矛盾に悩む修平.その中で特攻隊に志願して戦死する彼の思いをサチ子が遠くから紡いでいく過程が何とも言えないむなしさを覚えた.

  • 「あなたは――ご自分の為さっていることが、心にお辛いのですか? 死ぬまであなたのことを祈ります。ご自分に絶望なさらないように」コルベ神父の言葉が残る。そして、知る。これは、実話だったのだと。
    「愛がここにないのならば、愛を作らねば」私たちは、この言葉を忘れてはいけない。神父の生き様を忘れてはいけない、と。

    キリスト教は、何故か、加害者(悩める迫害者?)に寄り添うシーンが多いような気がする。弱者にではなく。

    コルベ神父の印象が大きすぎて、サチ子を忘れがちです。しかし、時代は、学徒出陣から特攻、そして、昭和二十年八月九日午前十一時二分へと進んでいきます。
    誰にも止められなかった。しかし、その記憶は、令和の今、どれだけ残っているのだろうか、と。

  •  遠藤周作の書く女性は、いつも正直でひたむきだ。そしてほんとの恋というテーマ話語っている。私は出来なかった。それは宗教ほども強い信念がなかったからだ。

  •  コルベ神父がアウシュビッツで同じ班だった妻子ある父親の身代わりとして餓死の刑を受けるという行動が「無償の愛」だと思った。
     女の一生〈1部〉キクの場合でも無償の愛について考えたけど、今回は自分が愛する人(家族や友人や恋人)のためではなく、見ず知らず,ただアウシュビッツでたまたま同じ班だった人の身代わりとして死ぬという行為、これこそが全く見返りを求めない愛だと思った。
     最後に、この小説でコルベ神父が実在の人物であることを知って更に感動した。この方を知ることができて良かったと思う。

  • 遠藤周作らしいいろんなテーマがあった。
    神の沈黙が、今回は「殺すなかれ」と教えながら戦争を黙認する教会の沈黙や、「神なんていない」という救いのないアウシュビッツに変奏していた。
    神は直接の救いをもたらすわけではないが、修平の渾身の疑問を正面から受け止めて苦しげに分からないという高木牧師や、アウシュビッツに共に収容されていながら、いつもあなたのために祈っていると語るコルベ神父を通して、神の沈黙は沈黙ではないと語られている気がする。つまり、直接目に見える解決はしなくとも、苦しむ人ともに苦しむ愛なる神、のように。神のみならず人間も、他者の苦しみを前に無力だ。サチ子も修平の苦悩を前にマリア像に祈るしかできないし、ジムも長崎の不運に心を痛めながら原爆を落とすしかない。でもそこで祈ることや痛むことは無意味ではなくて、人間はつまりいつでもそういう存在を望んでいる。弱っている時、ただそこにいてともに苦しんでくれる相手を。「沈黙」「侍」と相通じるテーマで、とにかく苦しいけど深い。

  • やはり周作さんらしい救いのないお話でした。
    1部に続き2部でも大量虐殺が…

    今まで本当に上っ面の事しか知らずに生きてきた自分が情けない思いでいっぱいになりました。
    だからって自分に何が出来るのかは分からないけど、せめて「女の一生」に出会えたことに感謝して生きて行きたいです。

    P98、そは求むところなき愛なり
    p263、労働をつづけながらも…
    P347、路は悪いかわりに…
    P487~ラスト迄
    とっても心に響く言葉であったり文章でした。

    あと、長崎の方言好きだな(笑)
    大浦大聖堂にも行ってみたい!
    マリア像の前で思いっきり泣きたい!

  • 一部の続編。
    どんどん文章が素敵になる作家さん。
    一部もよかったけど、私は二部の方が好き。

    アウシュビッツについて、知っているつもりになっていたが、想像を絶することがあったことを知ることができた。
    もう二度とこんなことがあってはならない。

  • 1部より2部の方がさらに良かった...。

  • 信仰、愛・・・形はないけれども人間にとって大切なもの。忙しい毎日を過ごしていると忘れてしまいそうな時に手に取って読むようにしています。出不精の自分がどういう訳か単身ポーランドのビルケナウ強制収容所に赴くことになってしまったくらい世界で1番好きな作品。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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