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本 ・本 (312ページ) / ISBN・EAN: 9784101123295
感想・レビュー・書評
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65歳を越えて、クリスチャンの小説家としてたしかな地位を確立した勝呂の奇妙な体験をえがいた作品です。
ある文学賞の授賞式で、勝呂は石黒比奈という画家の女から、彼が歌舞伎町で遊んでいたと言われます。身におぼえのない勝呂は彼女のことばを否定しますが、ルポ・ライターの小針は彼女から話を聞き出し、世間に向けてとりつくろった勝呂の本性をあばこうとします。
その後も勝呂は、歌舞伎町のいかがわしい店に彼が出入りしていたという話を耳にすることになり、自分の偽物が存在していると考えるようになります。彼は、編集者の栗本とともにそうしたうわさが根拠のないものであることを明らかにしようとしますが、そんななか彼は成瀬という未亡人と出会い、彼女との会話のなかで、自分がこれまで抑圧してきた心の深層に、クリスチャン作家としての彼とはまったくべつの情念が存在しているのではないかという思いにとらわれるようになります。
合理的な結末が用意されているミステリではなく、どちらかといえば怪奇小説といった内容の作品です。フロイト派の心理学者である東野という登場人物を通して、精神分析的な観点から本作のストーリーを解釈するための見取り図が語られているところがありますが、現代の読者にはあまりにも図式的な構成だと感じられるかもしれません。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
罪であるならば救いのために必要で、
悪は罪に含まれるのだろうか。
老いても光を求め続ける、
ずっと追いつづけなくてはいけないのは、
時々厳しくなるよ、と思った。 -
時代のせいか、作家の品のせいか、ともかく今この手の作品が世に出た場合は、十中八九下品さとグロテクスのいずれかに落ち着くでしょう。
その意味では少し物足りなさも感じなくもない、これは現代に染まった当方の品の悪さからくるものでしょうが。
ただこの作品の締め方は好き、読者に結論を委ねるオープンな態度は好みです。 -
時間があれば。
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ものすごく深いと思った。多角的に読める。自分は、老いという視点から読んでいたように感じる。老いのもつ、プラスの面は、主に主人公の妻とのくだり。特に、終盤で二人で旅行に行く場面。私は、この女性を生涯の伴侶に選んだことに満足している、という一文に濃縮されている。優しい嘘が牙を剥くその瞬間も、ただ妻は優しくあった。この妻の姿勢は、老いを肯定的に捉え、その時間の経過を和やかに見守ってくれた神様の存在を彷彿とさせる。キリスト教に明るい遠藤周作ならではの視点だと感じた。逆に、ミツとの暗澹たるホテルでのくだりは老いを全面的に醜いものとして映し出す。自殺したマゾの女性の性癖は、それでも老いという醜さの中に一縷の望みを、作者の救いを求めていた。しけし、やはり全体を通して老いは否定的に捉えられていたように感じる。これは破滅型?の作品だという自分の捉え方が正しいのかすら分からなくなる。スキャンダルを醜聞と表現したところからも、作者の老いに対する思いが反映されているように感じた。
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遠藤周作本人を連想させる、主人公の小説家勝呂。敬虔なキリスト教徒であり、作家であるかれが新宿のいかがわしい界隈で女と遊んでいる姿が頻繁に目撃される。本人にはまるで覚えがない。
無意識の具現化、いつまでも追いかけてくる、醜い自分というよりかは楽しみにifの果て、脅迫観念の権化という感じかな。 -
自分とは正反対の醜悪な自分を目にする、また他人から見られる。一体どういう現象か。全くのミステリー。しかも明らかな解答を示さずに物語は終わる。しかし、巻末に収められた河合隼雄先生の解説が易しくひもといてくれる。2015.8.12
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河合隼雄先生が紹介していたので古本屋で手に入れて読んでみた。まあ、小説なので、先が早く知りたくてどんどん読み進めることはできたけれど、最終段階に至って、結局どうなのかあいまいなままで終わってしまったから、肩すかしをくらったような気がする。まあこれはこれで、不思議な話として終わればいいのかもしれない。しかし、成瀬さんからの手紙も中途半端で、その後の性生活がどうであったのかもわからずじまいだった。ミツを巻き込んだこともどうかと思う。いろいろと不満の残るところだ。ところで、不可思議な自殺とか殺人とかは、ひょっとして本書で取り上げられたような人々と同じような思いを持った人たちの仕業である場合があるのかもしれない。
著者プロフィール
遠藤周作の作品





