満潮の時刻 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101123370

感想・レビュー・書評

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  • 著者自らの闘病生活をそのまま綴ったかのような内容。主人公の明石が入院中に見た「あの目」が彼に訴えようとしていたのは人生の本質とも思われるそれ。「人生」と「生活」、その両方を行き来する時に人は何を見るのか。
    きっと読む誰しもが「共感」を感じる一冊だと思います。とても満足でした。

  • 病気が前面に出てくる小説はあまり読まない様にしている。
    読んでいるうちに辛くなってしまうから。
    まさしくそれに当てはまる小説なのにしまいまで読めてしまった。遠藤周作、少し読んでみよう。

  • 小説のところどころに「沈黙」の一場面を思い出させる描写があって、遠藤作品そして遠藤周作さんのつながりを感じました。そのほかの作品にも流れる「人間をありのままに受け入れる」ものについての遠藤さんの強い確信を感じるよい小説でした。

  • 九官鳥、踏み絵など遠藤周作といえばというモチーフが登場する。深い河を読んだときも感じたが何気ない一瞬を切り取り、描写する能力が高いと感じる。光や匂い、登場人物の細かな心情が鮮明に伝わってくる。

    病気のためとはいえ、戦中は徴兵に招集されないまま終戦を迎え、生き残ったことを戦死した友人たちに申し訳ないと思う明石。だが、結核に冒され2度3度と訪れる死の恐怖がこれまでの人生の出来事の意義を問い直してくる。

    巻末の解説にある通り、キリスト教徒でもなかった明石が踏み絵を想起し、長崎に赴くことは確かに唐突感が否めないが、感動や喜びとはまた違う読後感を味わうことのできる作品になっている。

  • 結核にかかった明石という男の入院生活をえがいた作品です。

    肋膜炎にかかったため、召集を受けることのないまま終戦を迎えた明石は、四十代という働き盛りの年に結核で一年以上の入院を余儀なくされたことによって、同世代のなかで自分だけが戦場に行かなかったというコンプレックスを解消することができるのではないかという考えます。しかし、長くつづく入院生活にそうした決意は揺らぎ、妻に不平をこぼします。

    ところが、思いもかけず手術によって早く退院することができるかもしれないという医者の話がもたらされ、明石は手術を受けることを決意します。しかし、彼の病状は医者の予想をはずれて悪化の一途をたどり、退院のめどが立たなくなってしまいます。明石はそうした自分の運命を嘆きつつも、あたりまえだった日常の「生活」から離れて病院で長い時間を過ごしていくなかで、「人生」に思いをめぐらせます。

    『沈黙』と同時期に執筆され、著者自身は改稿の計画をもっていたものの、そのままになってしまった作品ということもあって、構成に多少難があるようにも感じられますが、入院生活という即物的な条件によってさまざまな思いが去来して心が揺れ動く展開になっており、興味深く読むことができました。

  • 肺病を患って長い入院生活から生きることの意味を見出そうする主人公の物語。飾ることのない単調な物語に深淵な哲学や宗教観が織り込まれている。

  • 「沈黙」「海と毒薬」と比較すると軽い印象。
    九官鳥や四十雀の目と踏み絵のキリストの目が「煙はなぜ立ちのぼるのか」について答えを暗示する。生とは何かについて、肺を患ったことでひとつの答えに到達する。

  • 静かな気持ちになりました。
    静かに静かに進みながらも、気づけば最高潮に。まさに満ち潮のよう。感情の大波が訪れていました。

    生きることを見つめていく明石の、たった一人と九官鳥一話の深夜の対話。溢れる彼の涙。
    明石の心を捉えた、病室の夫婦。手を握り合った2人の情景が忘れられない。
    良書でした。

  • 林檎は生の匂い

  •  40代の働き盛りの男性が、結核により療養生活を送ることになることから物語は始まり、淡々とした療養生活と、その心境の機微が描かれている。
     今の医療技術からは考えられない治療法、入院期間だが、当時多くの人々が命を落とした結核という病気の恐ろしさを垣間見た気がした。
     その苦痛、死の淵に立たされたときの模写が妙にリアルなのは、作者自身結核を患っていたからなんですね。
     病院のなんとも言えないあの重い空気感も、読んでいるだけで気が滅入るよう。

     ケムリハナゼ、ノボルノカ。
     わたしは今まで大きな病気も事故もしたことがない。
     本当の苦痛、不幸、孤独感を味わったとき、何を考えるのだろう。誰か、そばで手を握ってくれる人間がいてくれたらいいなあ。

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著者プロフィール

1923年東京に生まれる。母・郁は音楽家。12歳でカトリックの洗礼を受ける。慶應義塾大学仏文科卒。50~53年戦後最初のフランスへの留学生となる。55年「白い人」で芥川賞を、58年『海と毒薬』で毎日出版文化賞を、66年『沈黙』で谷崎潤一郎賞受賞。『沈黙』は、海外翻訳も多数。79年『キリストの誕生』で読売文学賞を、80年『侍』で野間文芸賞を受賞。著書多数。


「2016年 『『沈黙』をめぐる短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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