死者の奢り・飼育 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 343
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126012

感想・レビュー・書評

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  • 読んでも正直よくわからない。大江健三郎氏をサルトル的実存主義文学と称すらしいがそれもどういうことかよくわからない。でも不思議と読み進めてしまう。何か深淵な漆黒のどす黒い人間の負の感情が蠢いているような奇妙な魔力がある。「死体の奢り」が処女作というのも驚きだ。そりゃノーベル文学賞もとるわけだ。

    彼独特の視点による文章や自在に切り替わる視点も凄いが、「人間の羊」や「戦いの今日」で描かれる負の感情の連鎖が凄まじい。感情の対象となる原因発生、ストックホルム症候群に似た被害者らの連帯感(懺悔)、感情の反転とすり替え、そして虚脱、この一連の変遷の捉え方と表現が見事だ。すべて気が滅入るようなテーマではあるが文学とはかくあるべきといえる作品である。


  • 個人的にかなり好きな短編集だった。

    内容の重く暗く救えないような空気感とは裏腹に
    大江健三郎さんの文章があまりに綺麗。
    自分はこんな言い回しが思い付くか?出来るか?と
    考え込んでしまうくらい、表現に溢れていた。

    特に好きなのは「人間の羊」。

  • 最近の文学だけではなく、幅広く現代文学を…と思い手に取った本作。
    昭和中期から平成後期までの日本文学を牽引したとされる、大江健三郎さんの芥川賞・受賞作品。

    うーーーん…正直ちょっと面白さは良くわからなかったかなぁ…

    圧倒的な文章の美しさっていうのは何となく感じることができたんですけど、なにせ文章自体の読みにくさと、全体的な暗さがシンドくて…
    加えて、時代背景の分かりにくさというのも要因としてはあったのかもしれませんが…

    ただ、この作品を若干23歳で書き上げる非凡さというか…そのエグさは体験することができたかもなと(笑)

    調べてみると、中期以降(「万延元年のフットボール」以降)から作風が変わっていて、そこからは前向きで明るい作品多いらしいです。

    なので、再度そっちにはトライしてみようかな…と(´∀`)


    <印象に残った言葉>
    ・これらの死者たちは、死後ただちに火葬された死者とはちがっている、と僕は考えた。水槽に浮かんでいる死者たちは、完全な《物》の緻密さ、独立した感じを持っていた。死んですぐ火葬される死体は、これほどまでに完璧に《物》ではないだろう、と僕は思った。あれらは物と意識との曖昧な中間状態をゆっくりと推移しているのだ。それを急いで火葬してしまう。あれらには、すっかり物になってしまう時間がない。(P19)

    ・僕はもう子供ではない、という考えが啓示のように僕をみたした。兎唇との血まみれの戦、月夜の小鳥狩り、橇あそび、山犬の仔、それらはすべて子供のためのものなのだ。僕はその種の、世界との結びつき方とは無縁になってしまっている。(P156)

    ・僕は唐突な死、死者の表情、ある時には哀しみのそれ、ある時には微笑み、それらに急速に慣れてきていた、村の大人たちがそれらに慣れているように。(P160)


    <内容(「BOOK」データベースより)>
    屍体処理室の水槽に浮き沈みする死骸群に託した屈折ある抒情「死者の奢り」、療養所の厚い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌「他人の足」、黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇「飼育」、バスの車中で発生した外国兵の愚行を傍観してしまう屈辱の味を描く「人間の羊」など6編を収める。学生時代に文壇にデビューしたノーベル賞作家の輝かしい芥川賞受賞作品集。

  • 私のような戦争戦後体験がなく、そして人生経験も少なく、さらに読書初心者にとっては、かなり辛い読書体験になりました。

    むずかしいと聞いていた大江健三郎さんですが、文章とストーリーの難しさはあまり感じませんでいた。
    なにが辛かったかというと、時代を反映し全体に流れている「卑屈さ」みたいなものだったように思います。
    それは敗戦国に命あるものとしての卑屈さ、でしょうか。息が詰まるような閉塞感とその継続からくる諦めみたいなものが人物の心理に通底しているような気がしました。

    この読書には感動も発見もありません。しかし、自分と全然重なるところはないのに、どうしてか共感ができるような心境になってしまいます。置かれた状況は全く異なりますが、ただ、なんとなく、自分と一緒だ、と思うところがあるのです。

  • 人は自分に無いものを前にすると生き方全てを曝け出す。
    それはどんなに目を背けても必ず自分に返ってくる。
    この本の内容を痛いとも辛いとも思う自分は傲慢だったのだ

  • 私の感じるところでは、大江健三郎の文体は非常に冷淡でありながら、吐き気を催すほど生々しく肉薄してくるところがある。
    読むという行為を、ただ読むという行為に収めさせないほどの膂力を感じる。他の作家でも感じなかった訳ではないが、この程度は初めてだ。
    今まで彼の本を読んでこなかったことを後悔している。他の著作も読んでいく。

  • 芥川賞受賞作「飼育」を含む、最初期の短編集。戦中、戦後GHQ統制時代の色濃い背景の作品が並んでます。
    大江健三郎未読だったので、今回、主要作品をおとな買いし、少しずつ読んでいきたいと思ってます。20代前半でこれだけ濃密な小説を書けるなんて、ほんと凄いですね。まあ、芥川賞を取る人は総じてお若い方が多いのだけど。
    で、ネットでコメント見てると、大江さんの初期作品は難解だとか読みにくいとか結構出てますが、この1冊に限って全然それはなく、楽しく短時間で読めました。
    確かに昔、「同時代ゲーム」にトライして音を上げた経験もあるのだけど、安部公房氏に比べると格段にわかりすいというのが個人的感想。
    まあ自身の読解力が向上したせいだと思うようにしたい。
    どれも読み応えのある短編6短編編だけど、表題となっている、「死者の奢り」「人間の羊」が特によかった。いくつかの作品に、黒人兵に対する差別表現や感情が出すぎていることは、進駐軍や朝鮮戦争動員での影響があるのかもしれないけど、今の時代での読書の隔世感という点で少し気になりました。
    なかなか根が深くて感想らしい感想を書けません。自分にも大江健三郎を十分読めることがわかったのが最大の収穫ということでいいかとw

  • 表題作を含む6編を収録。
    主人公たちが遭遇した出来事は、冷静に見れば非日常的なことのはずなのに、彼らはすっかり慣れきってしまっているように見えた。なんだろう、感覚が麻痺しているような。
    そして、読後は虚無感に襲われた。

  • 自分にとって大江作品初体験の作品。
    芥川賞受賞作「飼育」や処女作「死者の奢り」を初めとした6つの短篇が収められている。
    どの作品にも感じられる主人公の置かれる他者からの差別の念との葛藤。また特に描かれるのは戦中戦後派作家だけあり、米国人に対する恐怖と彼等に蔑まれることから生まれる日本人としての恥とへつらいに如何にして折り合っていくかと言う内省。
    外国人を他者として描かれる作品として、文学的表現、ストーリーテリング、哲学観にも最も優れたのは芥川賞受賞作である「飼育」に違いないが、自分が好んだのは「人間の羊」と言う短篇。
    バスの中で荒げる外国人兵に脅され、四つん這いで下肢を晒される主人公を含む日本人乗客者たち。散々外国人兵に蔑まれ屈辱から消えてしまいたい主人公の念。それにもかかわらず傍観者となった他の日本人乗客の一人の教員の男に正義感を振りかざされ、この事態を世に訴えるべきだと振り回される。だが主人公はかかされたその恥から一刻も早く逃れてしまいたい。
    世の虐めの現場で僕はよくある事態だと感ずる。傍観者が第三者だけでしかなく救いの手をその場では差し伸べないのに、正義感面をして自己満足で虐められた人間を振り回す。虐められた側にとってこれ程の屈辱は無い。
    大江がこの信義を「人間の羊」の中で、人の世の正義の傲慢さとして描き出してくれた事に僕は感謝するし、その洞察に敬意を払う。今更だが見逃せない作家として彼の書を今後も手に取っていきたいと思う。

  • いつか読みたい、いや、読まなきゃと思っていた大江健三郎。読みやすい文体、しかし閉塞感いっぱいのシチュエーション。短編ってこともありかなり物語に入って読めた。個人的には「人間の羊」が印象に残った。

    • 川野隆昭さん
      大江健三郎は、一時期、若手の評論家諸氏から、かなり、攻撃されていましたが、彼の作品群の日本文学における重要性は、今後も増し続けていくのだろう...
      大江健三郎は、一時期、若手の評論家諸氏から、かなり、攻撃されていましたが、彼の作品群の日本文学における重要性は、今後も増し続けていくのだろうと思います。
      僕は、本作は未読ですので、機会がありましたら、ぜひ、読んでみたいです。
      2021/11/15
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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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