性的人間 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126043

感想・レビュー・書評

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  • 「性的人間」「セブンティーン」「共同生活」と衝撃的な三篇収録。
    特に「性的人間」「セブンティーン」は今の時代コンプラ的にもアウトだと思うが、今こうして売られている。大江健三郎さんはやはり凄い。どんなに性的な話も独特の文体で高尚な作品に仕上げる。考えてみたら滑稽な話ばかりなんだけど、高尚な話を読んだ気分になって読後の満足感は最高である。
    痴漢クラブって……笑っちゃうけどメチャ面白い。
    人間と性と変態性、きってもきれない関係。

  • うわ、すごい本を手に取っちゃったな、っていうのが読み始めた時の感想。電車の中で広げるのを躊躇するほどアレな単語満載で若干怯んだ。が、相変わらず難解ながらも文章が読みやすく、登場人物に共感を抱くことはできなくとも、ともに性の深淵っつーか生の行く末を覗き込んだ感じ。「性的人間」と「セブンティーン」での性の扱いがまったく真逆でそれがものすごく興味深い。しかし、青臭い思春期を随分前に終えてしまった私には「共同生活」がいちばん怖かった。猿の視線は感じたことがないけど、人間誰しも常に視線に晒されているわけで。そもそも“恥”という概念そのものが、他を意識したときに出るもんなんだよな、と。しかし他があってこその個なのだとしたら、「共同生活」を神経衰弱者の妄想と笑うことなど誰に出来ようか。

    …なんかあれだな、大江健三郎を読むと小難しげなことをグダグダと語りたくなってしまうみたいだ。

  • 『性的人間』の「痴漢は捕まって罰せられるまでが痴漢」という考え方や、『セブンティーン』の漠然とした不安から一時的に逃れるために自涜するところがすごく良かった。

    ただ、最近は本を読めるタイミングが早朝か公園で子どもを遊ばせているのを横目で見ているときくらいしかないので、精神的にも環境的にもこの本を楽しめる状況というのがなかなか整わなくて読み進められなかった。

    大江健三郎の積ん読はまだまだあるのでまた読み進めていきたい。

  • 中編3つ。三作とも自己の内面を追求した(押しやられた)結果、陥穽に落ちた青年の話。青年ならではの心の動きとも言えそう。「共同生活」が一番わかりやすくてよかった。「セブンティーン」の終わり方が半端で、作者が右翼とは思えず不可解だったが、実は第ニ部があって公開されていないということを知って納得とともに興味をもった。2019.6.26

  • 読後感はすこぶる悪いです。主人公が内省的で閉塞感が強く、読んでいてへこんでしまいます。ただ、これは好きか嫌いかの次元の話であって、作品に力があるということには相違ないのでしょう。記憶に残る作品ですね。

  • 「性的人間」「セヴンティーン」「共同生活」の三編。

    「共同生活」は別として、「性的人間」と「セヴンティーン」を続けて読みながら、キルケゴールの実存の三段階の見事な転覆だなと感心する。
    美的実存→倫理的実存→宗教的実存 というキルケゴールの提示するステップに対し、「セヴンティーン」の元々勉強でも運動でも酷く頼りなく人の視線に耐えられないと感じていた主人公は、人を威圧する右翼の制服を纏うことによって見透かされることなく人を見、最後には「自分は天皇陛下のものである」と考えて完璧な安住を得る。この右翼少年は、自己の存在を神に委ねる「宗教的実存」の情けなさを提示しているよう。
    ではこの「宗教的実存」を超えて、実際に社会的に実存することこそが求められるのか?というと、決してそうではなく、「性的人間」では、むしろ社会的の中でタブーを冒しながらギリギリで生きることが「生きる価値」とされている。タブーが必要なのは、単に快楽が高まるからであって、瞬間的な快楽の中に生きる価値を描くならば、必ずしも「性的人間」として提示される必要はなかったのでは?とも思うけれど、ここに出てくる人々は、(あるいは現代人たちは)おそらく死そのものよりも、社会的制裁を受けながら生きなくてはいけない犯罪のほうにより強い「タブー」を見いだしているようだし、さらに「反倫理的実存」も兼ねる意味では、人に絶対に迷惑をかける痴漢(相手が快楽を感じた場合それは失敗であるとこの小説の中でされているので、成功する痴漢は迷惑行為である)が最も反倫理的であるとされたのかな、と思ったり。

    見ること見られることをより強く主題とした「共同生活」は、私にはまだ読解が不完全な感じ。
    実際に存在する恋人や同僚に「見られる」ことよりも、実際は架空であった猿どもに見られることに非常なストレスを感じながらも、どうやらそれを求めていたらしい主人公が「二頭の馬が斜行する時…」(←これ爆笑した)の落書きに惹き付けられるのは、他者に向けて正確な意味を成さない、しかし直接でなく他者を必要とする不思議な自己完結的空間を必要としているものだったからなのだろうか。
    架空の共同生活を欲してしまう、というのが私にはいまいちピンと来ず…。

  • 大江健三郎の表題作「性的人間」の他、「セブンティーン」「共同生活」の3作が収録された短編集。大江健三郎は、ノーベル賞を受賞する以前から名前は知っていたものの、手に取ることのなかった作家でした。何故、いまさら読むことにしたかというと、「大江健三郎の小説は普通におもしろい」という雑誌の記事を見たからという単純なものです。そして数ある大江作品のなかで本書を選んだのは、「セブンティーン」の後編にあたる「政治少年死す」が雑誌に掲載されたものの発禁になってしまったという、いわくつきの作品だという理由からです。
    3編とも性に関わる話なのですが、官能的、エロチックといったものとは違います。そこは純文学、ビジネス書に慣れた頭にはストーリーがすんなり入ってくれません。「普通におもしろい」とは思いませんが、余韻が残り、考えさせられる作品です。退廃した日々のなか、痴漢によって生きていることを実感する青年(性的人間)、右翼の鎧をまとうことで劣等感から抜け出そうとする少年(セブンティーン)、存在するはずのない猿に見つめられている妄想から抜け出せない人間(共同生活)、登場する人物はいずれも尋常ではありません。しかし、生々しく描かれた人物は身近に存在する、あるいは自分自身の気持ちを代弁しているかのようです。いずれも半世紀前の1960~1963年(昭和30年後半)の作品ですが、古さは感じません。人の心、精神は進歩していないということでしょうか。
    いわくつきの「セブンティーン」は、実際にあった右翼少年による社会党委員長刺殺事件をモチーフにしたものです。そういった思想的なものが、大江作品を遠ざけていた要因だったのですが、あまり政治性を感じません。右翼だとか、左翼だといったことではなく、劣等感にまみれ自慰行為にふけっていた17歳の少年が精神のよりどころを求めていくストーリーです。右翼という鎧をまとうことで初めて自らの存在を認めるものの、破滅の道を突き進んでしまう少年の脆さが描かれています。発禁とされた後編「政治少年死す」もネットを検索することで、全文を読むことができます。正直に言って、何故発禁なのか、理解できません。政治的タブーは、性的なそれよりも大きいのでしょう。
    17歳とはいわないまでも、せめて20代で読みたかった。どんなに優れた作品であっても、時代や置かれた状況によって受け止め方が変わるもの。若い頃に読んでいたら、大江健三郎にはまっていたかもしれません。

  • 読んだ

  • 大江健三郎の初期短編3作が収録されている。痴漢、右翼、自慰行為、妄想を扱いながら実存を問うという感じ。時代の中にある作品という感じがして、いまの時代においてはやや鼻白らむ感じは否めない。登場人物が絶望しているようで、どこか希望を持っているから葛藤するわけで。
    テーマはともかくやはり文章は上手い。
    本書に収録されているセブンティーンの後編『政治少年死す』は全集の第3巻に収録されている。

  • うまく消化できなかったのでまた必ず読みます。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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