空の怪物アグイー (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126074

感想・レビュー・書評

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  • 相変わらず、大江健三郎さんの短編集は、どの話もダークな雰囲気の中に皮肉や人間の本質が描かれていてとても面白い。これは他の短編集に比べるとちょっと難解だったかな。
    しかし、「敬老週間」はとても皮肉が込められたラストで笑っちゃうし、「スパルタ教育」「犬の世界」などは自分は大好物。「空の怪物アグイー」は長編「個人的な体験」の逆のモチーフでとても興味深かった。
    大江作品は亡くなってから読み始めたけど、こうなったら全作品読破するしかないな。


  • どれも安定して面白い貴重な短編集。
    オーケンが文字で表したい事がしっかり明示され、最初期と比べるとライトさも感じる。彼の入門書として最適解かもしれない。

  • 恐怖からの逃避と自己欺瞞、ここから個人的な体験に繋がるのか、すごい

    街の愚連隊だった時分もかれはいかにも卑小な快楽にストイックに充足して生きていたにちがいないという気がするの。

  • いわゆる過度期の作品群だけれど、初期作品ほど切羽つまっておらず、そして最近の長編よりは肩の力が抜けていて比較的読み易かったです。「アトミック・エイジの守護神」や「ブラジル風のポルトガル語」なんかは、変な人物や奇妙な事件を扱いながらもどこか他人事な感じが逆に気楽だったし。「敬老週間」のブラックなオチはありがちすぎてイマイチと思ってしまったけれど。

    いちばん好きだったのは表題作。私小説的モチーフは随所にちりばめられているけれど、狂気よりはファンタジーにも受け取れる抒情のようなものがあって、意外にもセンチメンタルな読後感が残りました。

    ※収録作品
    「不満足」「スパルタ教育」「敬老週間」「アトミック・エイジの守護神」「空の怪物アグイー」「ブラジル風のポルトガル語」「犬の世界」

  •  大江健三郎、著。精神病院から逃げ出した患者を探して町をさまよう「不満足」、新興宗教団体から脅される記者の心理的葛藤「スパルタ教育」、寝たきりの老人に現代社会は明るいと嘘をつくアルバイト「敬老週間」、原爆被害者の孤児を引き取った男の真意「アトミック・エイジの守護神」、生まれたばかりの障害児を殺した男が憑りつかれた赤ん坊の妄想「空の怪物アグイー」、突如消えた森林の奥の集落「ブラジル風ポルトガル語」、非行少年が住む世界「犬の世界」の七つの短編を収録。
     長編「個人的な体験」や「万延元年のフットボール」を書く過渡期の短編集らしく、初期の作風から抜け出そうという工夫が感じられた。特に「敬老週間」「アトミック・エイジの守護神」ではショートショート的な分かりやすいオチが用意されていて意外だった。ただ大江健三郎にそういうものを期待していなかったので少し腑に落ちなかった。暴力にあふれているが衝撃的というより虚脱感のあるオチ、生物・無生物の境界を取り去ったような観念的な視点、鬼気迫る比喩、悪文と捉えられかねない奇妙な文章、それらがこの著者のオリジナリティーだろう。それを考えると「スパルタ教育」と「空の怪物アグイー」が抜きん出ている。同じストーリーで別の小説家が文章を書いても決してここまで奥深い解釈はできないだろう。

  • アグイーを探してしまう

  • なかなか難解ではある。
    最後の解説を読んで何となーくテーマが明らかになる。

    人間の恒常的な状態は恐怖である。
    現代人間の欠落した内面は、恐怖という非存在によって埋められる。→恐怖の発見と、その恐怖からの逃亡の拒否(という矛盾)によって人間は成立する。


    「恐怖の前での自己欺瞞」
    が全体のテーマとして描かれているらしい。

  • 短編集。めちゃくちゃ心震え感動に胸打たれた!というものはなかったが、どれもそれなりに面白かった。『不満足』は暗すぎて好きではないが。

    全体的に暗いのはいつも通りだが、それプラス諧謔、皮肉が効いている印象を受けた。
    『スパルタ教育』、『敬老週間』、『アトミックエイジの守護神』は特にそう。『スパルタ教育』は特に好き。「恐怖は負け犬でいるよりマシ」というメッセージがとてもストレートに描かれている。
    『空の怪物アグイー』は、『個人的な体験』と同じテーマを扱いながらだいぶ軽やかだなと思った。
    解説の「副題をつけるとしたら『現代の恐怖』」というのは的確だなと思った。様々な恐怖が描かれていて暗い。

  • 30年ぶりの再読。いや、再再読か再々再読か。
    いくつかの長編の間の短編集だったと記憶する。

    物語世界としては、「不満足」は『個人的な体験』へ、そして「空の怪物アグイー」は『個人的な体験』の赤ん坊が死んだ、(火美子の言うところの)多元的な宇宙の話と受け取れる。

    今から30年くらい前の大学生の頃は大江健三郎の韜晦趣味の文体は非常に気持ちよくてしかしみずみずしさがあって中毒になったものだが、今読み返すとうじうじしてちょっと恥ずかしい。ヘンリー・ミラーの影響がそこかしこにうかがえてそれも鼻につく。読み手の私が年を取ったせい、おっさんになったせいだろう。
    でも、その後の『洪水は我が魂に及び』『同時代ゲーム』など、彼の小説に対する向き合い方は好き(政治思想は大嫌いだが)。
    というわけで次は『個人的な体験』を30年ぶりに再読しよう。昔付き合った女性に会うみたいでちょっとドキドキする(笑

  • これはA子さんの恋人から。

    作者の的確な描写により、体臭やら、汗臭さ、街の埃臭さなどの「生の人間」が生きる環境をジリジリと感じ、喫茶店でコーヒーとか軽食取りながら読んでいたら気分が悪くなってしまう。いや、僭越ながら…凄まじい褒め言葉です。

    こう,その当時の時代の空気を想像するに十分な描写。もっと読んでみたくなりました。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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