個人的な体験 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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感想 : 142
  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126104

感想・レビュー・書評

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  • 初大江は『死者の奢り・飼育』。そこで素晴らしい文章とはじめて出逢うも、著者の代表作というべき『万延元年のフットボール』にはあまり馴染めず、自分には合わない作家なのかと思ったが、ノーベル文学賞作家を簡単に諦めてしまうのも厭なので、もう1作、と思い本作をチョイス。そうしたら見事というべきか、これはほんとうに面白かった。最後がハッピー・エンドになっているし、こういう「面白さ」が逆に不興を買った部分もある(著者のあとがき参照)のかもしれないが、個人的には讚えたい気持しかない。面白さのなかに、重厚さももちろんあって、テーマは畸形児が産まれた父親の葛藤となっている。しかし、はたしてほんとうにこれがテーマなのだろうか。私自身は、畸形児であるかどうかに問わず、もっと広く子供一般が産まれたときの父親の感情がテーマになっていると思う。宿酔状態に至ったり、情人と性交したりするのは、たんなる畸形児をもった不安では説明できないのではないか。メイン・テーマが畸形児を持つことであることは否定しないが、やはり根柢には、男が父親になること、あるいは逆に、男が「子供」になることというテーマも多分に含まれていると感じた。そして、そのような感情に対するひとつの答えとして、議論を呼んだハッピー・エンドがあるのではないか。望むにせよ望まないにせよ、この小説は「こうでなければならない」ような気がする。短文で表現できるのはここまでだが、そういう深い意味合い、必然性をもった小説である、ということが理解してもらえれば嬉しい。

  • はじめての大江健三郎作品を読みました。
    1964年に発表された作品です。

    作者の子どもが、脳瘤のある障害を持って生まれたことをきっかけにして書かれた作品。主人公は同じ立場で描かれますが私小説ではなくあくまで体験に着想を得て書かれた小説です。

    最初から半分くらいまで読むに耐えない話で、主人公の自意識過剰さと、ろくでもなさ、自分勝手で鬱陶しい性格にほとほと嫌気がさし

    『なんでみんなこれを名作だと言うのか?
    これが人間の本質だというなら
    自分も含めて全員滅んだ方がいい』

    と思うほどの残念さと倦怠感がありました。
    こらえて読もうと半分を超えた頃から、
    嫌悪感が共感に変わり、見守り願い気がついたら読み終わっていました。

    あの気持ちから、ここまで連れてこられたことにとても驚きました。読んでよかったです。

    また、形容する言葉や表現が面白く
    突飛な例えが出る度に、これはクセになる。と自分の中に作者の言葉が染み込んでいく感覚がありました。

  • 頭に障害をもって生まれた子どもの父となった27歳の鳥(バード)。彼の親としての葛藤、現実逃避、そして自己再生の軌跡を描いた大江健三郎初期小説。
    生まれた子どもの頭に障害があったショックとその受け入れ難い現実を前に主人公は恐怖する。胎児の死を願い、自己逃避のため女友達・火見子とひたすらセックスに耽り、背徳を犯し続け、アフリカ旅行というここでないどこかへの逃亡を夢見る。

    バードの内面が恥辱と絶望の間を揺れ動く。その揺らぎが赤裸々に描かれていた。しかし、どうも村上春樹のようなご都合主義的な火見子という女性造形と、逃避による性の愉楽から、胎児を引き受け父親になる決意と自覚の訪れが唐突過ぎて、あまり作品に入り込めなかった。

    著者自身、知的障害をもった息子がいる。誤解を怖れずにいえば、障害をもって生まれた息子との日々の共生と生の営みが、そのまま大江文学の核ないし創作への動機となっている感はある。もちろん本作は私小説ではないけれど、大江文学の出発点となった小説ではあるだろう。

    文章について一言。この小説は大江作品にしては読みやすい文章だった。従来よく言われる大江健三郎独特の文章(主語がやたら長くて述語の位置が定かでない読み難い解かりにくい文章)ではないので、大江初心者には読みやすいかもしれない。

  • エンディングの部分で三島由紀夫が批判したのは余りにも知られて居るので、短く書くけれども、
    クライマックスで切るべきだったと批判されて尚、作者がクライマックスその後、を書き続けたのは、
    氏が文学において「魂の遍歴」に重点を置いたことに他ならないと感じたので、
    私はこの物語設定に満足しています。

  • 現実から逃げようとする主人公に嫌悪感を感じましたが、そういう醜いところに目をそらさずに徹底的に描き出し、希望が持てる結末に持っていくところが、感動しました。他の難解な作品より読みやすいです。

  • 話の本質が掴めるまで時間がかかった。読み終わった後に初めて物語の全体像が見えてくる。後味が強烈な作品。

  • 大江健三郎の本をたくさん読んでいるわけではないけど、彼の本の主人公は、どうにも好きになれない。卑屈で、自意識過剰で、性的欲望に流されすぎる。そのくせ、英雄的行為に憧れたり、肉体的な強度を求めたりする。気持ちが悪い。男性読者にとっては感情移入しやすいのだろうか。こういう私小説の主人公のような男性とは、あまり親しくなりたくはない。

  • 理念や概念について語るのではなく、個人的なことを語ることでかえってそれが普遍性をもつことがあるのではあるまいか、的なところ(正確ではない)に私はすごく心打たれた。situation的な意味で「状況!」なんて叫んで人の人生が普遍化されがちな(あるいは無化されるともいえるような)中で強度の「個人的」出来事に遭遇した彼の言葉は、別に障害者の息子を持っていなくても、個人的人間としての「人」を励ます強さをもつ。(受け入れ乗り越える的な結末はいささかサルトル的気持ち悪さで書かれているとはいえ)

  • 表現力に圧倒された。重すぎる現実からの逃避をやめて覚悟を決める場面の描写(「答えはゼロだ」)が一番心に残った。全然小説とは無関係だけど、若い頃相当やんちゃした人ほど、大人になってすごく礼儀正しくて家族思いのいい人になってるのを思い出した。きっとこういう心の転機があったんだろうなと思った。

  • それは僕自身のためだ。僕が逃げ回り続ける男であることをやめるためだ。

    大江健三郎さんの本を初めて読んだ。独特の作風があるような気がする。なんというか、個人的に村上春樹のもつ雰囲気に似ているような気がした。
    主人公「鳥」の心の葛藤が読者に対するメッセージ性も含まれて書かれているような気がしてとても読み応えがあったし、おもしろかった。だれしもがもつ人間の醜い心と、それでも人間の尊厳を尊重し目の前にある事実を受け入れようとする心情の移り変わりに心を打たれる作品だと思う。

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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