燃えあがる緑の木〈第2部〉揺れ動く(ヴァシレーション) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (361ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101126197

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  • 第一部に生き続き、イェーツの”Vacillation”という詩を原動力として物語の登場人物たちが活き活きと動き回るわけです。
    しかし、第二部を経て、イェーツの独特なオカルティズム(神秘主義)から紡ぎ出されたこの詩が、徐々に僕の中で確かな質量を持ち始め、実際的になってきているのを感じます。
    最終章でアサの言葉で同じようなことを語られていますが、同じ“魂のこと”に取り組んだ「懐かしい年への手紙」では、取り組み方が知的で、ある程度机上の空論だったのに対し、本作はよりプラクティカルに“魂”に肉薄しているように思います。

    さて、主に第二章「中心の空洞」、第三章「正直いって神はあるんですか?」では、大江が唱えてきた「信仰を持たない者の祈り」がどういう祈りであるか、いったい何に祈っているのか、解き明かそうとする試みが行われています。
    第三章には、大江と同じく信仰を持たない僕が、これからの人生で“祈る”際に必ず想起するであろう一つの印象深い比喩が、ギー兄さんによって紐解かれます。その場面を以下に引用します。

    ——神という言葉を自分たちで定義することを恐がっていながら、しかもその周りを、尻尾に糸を結えられたトンボのように、グルグル廻りしているんじゃないですか?

    ——そうだね、糸の先のトンボのように、というたとえは実感があるなあ。
    (中略)自分がそこから逃れようとグルグル廻っている中心に、ほかならぬ神がいるように思えることもあるし、廻れば廻るほど神の不在を確かめているように感じることもあるものね。
    (中略)糸に結えられたトンボから逆転して、こちら側から、そのグルグル廻りの中心を囲い込んでいく。それがわれわれの祈りの、いまのところ唯一可能な実体かも知れない。

著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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