食卓のない家 (新潮文庫 え 2-13)

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  • Amazon.co.jp ・本 (532ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101127132

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  • 柄谷行人「倫理21」の中で言及されていたので読んだ。
    70年代の連合赤軍が起こした一連の事件をモチーフにしている。八ヶ岳山荘事件(あさま山荘事件がモチーフ)に関連したリンチによる殺人罪(幇助)に問われた息子を持つ父親を主軸に展開される。

    どうもこの手の小説を読むと気が立って仕方ない。そもそもの小説が三人称視点だし、神の視点で俯瞰してるわけだから抱く感情なのかもしれないが、加害者家族とそれに対するマスコミを始めとする大衆感情のようなものには辟易する。
    この父親は、そういった日本の家族観を背景とした批判に取り合わず、成人した子の行動に責任は取れないとして謝罪も会社を辞めることもしなかった。
    この父親の言動は全くといっていいほど異論はないが、恐ろしいのはこれが執筆されたのは昭和54年、1979年だということで、このころから未だに何も変わっていないということだ。
    作中で川辺という弁護士が、戦後二十年も経ち新憲法が制定されたところで、先進国の中で未だに家族間の血縁的ないざこざ(嫁姑問題等)は絶えない現実を指し「いくら法律が変わったって民族的な習慣はなかなか変わらないという事だよ。」と言う。
    なるほどその通りかもしれないが、いささか悲しく思う。いったいこのころの読者は今何をやってるんだ。

    そして、このような価値観の不変以外にも変わらないものがある。「若者観」だ。
    「(発話者の部下等を指し)彼らの多くが平穏無事の生活に慣れて無気力になり、能力の有無に拘らず、社会はその中に泳いでさえいれば自分たちを生かしてくれるものだと信じているようなのが不満であった。」とある。もちろんフィクションではあるので、誰か具体的な人間がこのように述べたという事実は無いが、一つの「空気」としてこういう感想は持たれていたのだろう。ここで指されてる若い人達というのは、当該発話者を含めた登場人物の多くが1970年代前半で50代に差し掛かる人であることを考えると、彼らは昭和一桁や大正の生まれで、若い人らというのは所謂「団塊の世代」(全共闘世代)を指しているのだろう。(wikipediaとにらめっこして計算していたのですが間違ってたら指摘してください)

    「なんちゃら文明の遺跡に「最近の若者は〜」という文言がある」という話はどうでもいい。しかし、石原慎太郎がアプレゲールとか揶揄されていたように、それぞれの世代がそれぞれの先代によって不当な扱いを受けてきたのではなかったのか。にも関わらず、そういう想像力が欠け、いつか自分がそのような圧力をかける側に回るという意識のない人間が多すぎる。何千年前の話をしてるのではなく、数十年前の話である。例えばこの本で描かれているような若者描写に「ちっ」と思ったような人間は、今どのように若者を見ているのだろうか。読んでてそっちの怒りも沸々と湧いてきてしまった。

    ともかく
    ・加害者家族に対する集団いじめの不変性
    ・若者観の不変性
    がしみじみとわかったのでよかったのと、ちょっとした時代の空気なるものに触れられた気がしたのがよかった。

    ご一緒に石田衣良の「うつくしい子ども」もオススメしたい。こちらは酒鬼薔薇事件を題材にした作品である。

    ちなみに。
    文庫版の解説を書いてるのは「加賀乙彦」という精神科医なのだが、この人の新書で「現代若者気質」という70年代に出版された本がある。まだ未読で積んであるのだが、わくわくして読みたい。

著者プロフィール

円地文子

一九〇五(明治三十八)年東京生まれ。小説家、劇作家。国語学者・上田万年の次女。日本女子大附属高等女学校中退。豊かな古典の教養をもとに女性の執念や業を描いた。主な作品に『女坂』(野間文芸賞)、自伝的三部作『朱を奪うもの』『傷ある翼』『虹と修羅』(谷崎潤一郎賞)、『なまみこ物語』(女流文学賞)、『遊魂』(日本文学大賞)など。また『源氏物語』の現代語訳でも知られる。八五(昭和六十)年文化勲章受章。八六年没。

「2022年 『食卓のない家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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