パニック・裸の王様 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128016

感想・レビュー・書評

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  • 開高健氏(1930-1989)の芥川賞受賞作『裸の王様』を含む、偽善・虚栄・打算に塗れた社会に生きる人々の、葛藤と自律、再生の心理メカニズムが描かれた、四編の骨太文学。〝太田太郎は山口の紹介で、ぼくの画塾へくることになった...想像していたより太郎は、ひどい歪形を受けていた...不器用だから画が描けないのじゃない。描くべきものを持っていない、孤独な少年、母親に禁じられて、粗野で不潔な仲間と交わることが出来ず、いつも独りぼっちでいた・・・〟

  • 開高健氏の代表作『ベトナム戦記』『輝ける闇』と続けて読んだが、それらとは違う、芥川賞作家としての開高健がここにあった。『パニック』『裸の王様』『流亡記』、いずれも甲乙つけ難い珠玉の作品だが、自然現象と厭らしい人間模様を描いた『パニック』と、始皇帝を題材として人間の残酷さと時代の流々転々を描いた『流亡記』が面白かった。

  • ずっと気になっていた作者の、有名な小説を読んだ。

    「パニック」「巨人と玩具」「裸の王様」「流亡記」の4編あり、僕はタイトルとなっているパニックと裸の王様が印象に残った。
    流亡記はちょっと描写がグロかった。

    パニックは、役人機構の腐敗をうまく表しているが、それがメインではなく、ネズミの群れがもはや一つの巨大な物体となり、台風のように人を襲い、それが湖へ消滅していく圧巻を描いている。

    裸の王様は、審美眼を持った「大人」たちの目には映らない、というよりむしろいかに我々がなにも見ていないかを表している。
    いや、知らんがな。感想が陳腐だ。これこそ裸の王様の家来になった人の感想だ。

  • 懐かしくて手に取り、「パニック」だけ読んだ。
    高校時代以来か。
    あの頃には分からなかった役人、というか大人の嫌な世界が、実感を伴って感じられた。が、それ以上に自然の前では無力化な人間の姿を描いた作者に思いを馳せられる作品。
    残りの作品も読もう。

  • 開高健はメジャーであるが誰もが読む作品ではない、少なくとも高校や中学の教科書には載らない。学校が求める(従順さを基礎とした)道徳とは折り合いがつかないし、多くの作品が(教育委員会の基準では)大人向けに書かれているのは間違いない。

    ある種の暑苦しさは否めないが、一気に作品に引きずり込む高橋源一郎や内田樹の言うところのドライブ力から言えば(彼らの絶賛する)村上春樹のそれとはまったく比較にならない。
    私が高校の教師なら、国語の授業でつまんなそうにしているやつに読ませる、そのうち三人に一人は「悪くねぇじゃん」と思うでしょう。開高健が憧れていたであろうヘミングウェイの英語は良いお手本とされるがそれとは少し違う。ヘミングウェイは優等生の課題図書としてアメリカの高校生が読まされるが、開高健はちょっと意地を張ってグデンとしている生徒にそれとなく読むように仕向けることはあっても、ハイ皆さんこれを読んできてくださいということはない。
    ただ、受験まっしぐらの高校3年生が開高健のパンチをどう受け止めるのかちょっと興味はある。
    (私は高校生のときに開高健を読んでいたと思うが、受験まっしぐらでもなければ、国語の授業で詰まらなさそうにしていたこともなかったと思う。教科書の間に文庫本はさんで読んでたけど。)

  •  裸の王様…偽善とか打算に満ちた社会への抵抗をひとりの画塾の教師の目線から描いている。だけど、私はそんな作者の意図より、太郎ちゃんが精神的に伸びやかになり、子どもの想像力で絵を描けるようになったことが何より嬉しい。

  • 「裸の王様」が素晴らしい。久々に純文学らしい純文学を読めた。独特な情景描写にしびれました。

  • 開高健、大発見。こんなに面白かったとは…。現在、神奈川近代文学館で行われている企画展「『おまけ』と『ふろく』展 子どもの夢の小宇宙」でグリコのおまけに人生を賭けた男、宮本順三が紹介されていて、そこで開高健の「巨人と玩具」がお菓子のマーケティングを舞台にした小説として触れられていました。これは!と思い探したのが、この新潮文庫でした。もちろん、文豪としてお酒のCMに出たり、週刊誌で若者の人生相談を受け止めたり、アラスカへの釣り旅の写真集とかで大活躍している時代を知っていて、しかも彼は洋酒メーカーのコピーライターであったことも知っていましたが、でも彼の小説、ちゃんと読んだかな?というぐらいの作家でした。「巨人と玩具」の消費社会への眼差し、あるいは「パニック」の官僚制度への距離感、芥川賞受賞作である「裸の王様」の教育の閉塞感…そのどれもがメチャ今っぽいテーマだと思いました。コロナ禍によって小松左京の「復活の日」やカフカの「ペスト」の先見性が注目を集めましたが「パニック」もまさに先駆けるパンデミック文学です。いや、予言性というより人間の本質は変わらないってことなのかもしれません。その普遍性がテーマになっているように思えるのが「流亡記」。でも実は今回の読書、大発見じゃなく再発見なのでした。「裸の王様」、高校時代に読んでいたこと薄っすら思い出しました。あの時、気づけず、今、刺さるってことは、社会や時代に翻弄されないと、感じることの出来ない感情がテーマだからなのかな?この作家がデビュー作で立ち向かったこの巨大なるものはのちに「オーパ!」や「ベトナム戦記」に繋がり「風に訊け」に至るということである日突然メディアの文学スターになった訳じゃなくて、ずっと一貫していたのかもしれません。

  • 開高健の初期(なのかな?)短篇が集まった本。
    個人的には長篇よりも読みやすくて、ギュッと開高健の魅力を堪能できた気がする。
    きっとこの時代の「今」を彼なりに切り取ってそこに視点を見つけて描いていたんだろうな。でも何年も経っている今でも、その視点は生きているし、それだけまだダメな社会ってことなのか、開高健の視点が鋭かったのか。


  • 芥川賞受賞の初期作品集。
    社会的な喚起を伴う堅真面目な文体。
    言葉選びや話の運びが凄まじく上手いが、流石に真面目すぎで読み疲れしてしまった印象。

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著者プロフィール

開高 健(かいこう・たけし):1930年、大阪生まれ。大阪市立大学を卒業後、壽屋宣伝部(現サントリー)にてコピーライターとして活躍。同時に創作を続け、57年『パニック』でデビュー。58年『裸の王様』で芥川賞、ベトナム戦争現地へ赴いた経験に基づく『輝ける闇』で68年に毎日出版文化賞、79年『玉、砕ける』で川端康成文学賞、81年に一連のルポルタージュ文学について菊池寛賞を受賞。ほか『日本三文オペラ』『ロビンソンの末裔』『オーパ!』『最後の晩餐』など、代表作・受賞歴多数。89年逝去。

「2024年 『新しい天体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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