日本三文オペラ (新潮文庫)

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  • 新潮社
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レビュー : 44
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128023

作品紹介・あらすじ

大阪の旧陸軍工廠の広大な敷地にころがっている大砲、戦車、起重機、鉄骨などの残骸。この莫大な鉄材に目をつけた泥棒集団"アパッチ族"はさっそく緻密な作戦計画をたて、一糸乱れぬ組織力を動員、警察陣を尻目に、目ざす獲物に突進する。一見徒労なエネルギーの発散のなかに宿命的な人間存在の悲しい性を発見し、ギラギラと脂ぎった描写のなかに哀愁をただよわせた快作。

感想・レビュー・書評

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  • 『日本三文オペラ』は開高健氏の作品のなかで最も好きだ。日本が焼野原から秩序と自信を取り戻していくなかで、爪弾きにされ無気力化した半端者たちが活躍の場を与えられ圧制されたエネルギーを一気に解放し縦横無尽に旧陸軍工廠の野原を走り回る描写は圧巻だ。アパッチ族たちの熱と臭気が文章から溢れ出てくるようだ。フクスケに代表されるように、無気力のように見えながら本能として生に対する執着を剥き出し、欲望に従順で互いに狡猾に出し抜きながら規律めいたものは守る様が奇妙で面白い。

    朝鮮戦争から1964年東京オリンピックまでの混沌も混沌のなかの出来事であり、いまも在る海外のスラムのような絶望ではなく、希望と成長の澱のようなもので、その特殊な時代を切り取り昇華した良作である。

  • それこそ「モツ煮込み」みたいな本だった。

    「モツ」=好きな人はとことんハマるが割と敬遠する人も多い戦後のチョンブラという食材

    「煮込み」=鮮やかな場面展開と豊かな描写で万人が引き込まれやすいような味付けがなされた調理法

    食べだしたらとまらない私の好物でした。

    「まるでちょっとした塵芥山」
    「悪臭を発する都会のひき肉」
    「白内障でつぶれた目のような水たまり」
    と冒頭6項のたった1ページでここまで無様に形容された主人公が、徐々に組織の主要メンバーになっていく成長過程は、生々しく野卑なスラム描写で溢れた文中においてはそれこそ一種の箸休めになっている気がしないでもない。

    あと「フクスケ」という名前が贅沢すぎる。主人公がなんだかんだ本質を掴んでいたり多少有利なポジションを獲得する設定は、開高健の作品に共通していると思う。

    なんていうか別に社会批判の内容でもないだけに読み終わって考えさせられるものもなくあぁ面白かったで終わるあたりスッキリしてていいな。こってりしてるのに実はあっさりというか。

    あと割と驚いたのが文中に「ブレイン・ストーミング」という言葉が出てくること。昭和34年だから1959年か。当時すでにその言葉があり、かつ渋谷あたりに生息する若手ビジネスマンがドヤ顔で使う「ブレストからやろうよ」と正に同じ用法で使われているのに驚いた。新進気鋭の若者たちよ、現代文学を読もう。そして謙虚さを知ろう。とか言いだしたらうるせー先輩扱いされるんだろうな。

  • 大阪城に隣接し、終戦前日の空襲で壊滅的に破壊されたアジア最大の兵器工場・大阪砲兵工廠。そのそばには、長く雨ざらしにされた膨大な鉄屑を盗み出し業者に売って生きる通称アパッチ族が暮らす部落があった。
    前科者や食い詰め者からなるアパッチ族は幾つかの組に分かれ、集団で夜間に守衛たちの目をかすめ、半ば地中に埋まった機械類を掘り起こし、一人100㎏を超える鉄屑を肩に載せて疾走して盗み出す"先頭"や、埋蔵物を探す"アタリ屋"、見張り役の"シケ張り"など組織された集団だった。
    剽悍無類で野放図なアパッチ族の生き様と、その終焉を描いた実話ベースの話です。

    若かりし頃の愛読書。多分、20年ぶりくらいの再読です。
    開高健、すでに忘れ去られようとしている作家さんかも知れません。小説家としては寡作で、むしろ釣りや食に関するエッセイの方が有名かもしれません。しかし、その独特でエネルギッシュな文体やテーマは革新的でした。
    血と分泌液にまみれた牛の内臓、あらゆる物が溶け出し、重く粘っこい窒息性の酸液となった腐臭にあふれる運河。つっかえ棒によりかろうじて立っているバラック。そこに漂着したアパッチ族の剽悍、猥雑、卑陋、濃密、凄惨な男たち。そこには観念的な綺麗さなど欠片もなく、ただ暴発するむき出しの生命力が躍動するばかりです。そして、ある意味その活動が華やかであったが為に、どこか哀愁溢れるその終焉。見事な描写です。
    ただ、そのエネルギッシュな生命力の発露に若い頃に受けた強烈で心躍るような感動は浮かびませんでした。年ですね。

  • 大阪で大学生活を送ってたころ、バックパッカーとして世界を旅してた東京の友人をジャンジャン横丁~飛田へと案内したことがある。
    四天王寺でホームレスの方からもらったた缶コーヒーを飲みながら、世界のどこより衝撃的だった、と感銘を受けていた。

    噂には聞いてたアパッチ族、で噂ではやたらめったら面白いと聞いてた開高健の「大阪三文オペラ」をようやく読む。
    ガツガツとして、生々しく、ぬらりとした表現、汗、モツ煮込み、どぶ川、の匂いがぷんぷんする。うん、これだけ嗅覚に訴える小説というのはすごい。

    「アジール」として理想化されているきらいもあるが、アパッチ族のアナーキーな労働体系は非常に興味深い。だが、それも埋蔵されている資源があってのこと、資源が不足(警察、財務局の管理の強化)により崩れる。
    そういうときに生じるのが「デマ」。この情報をめぐる戦いが非常に面白い。
    埋蔵されてそこにある鉄の塊と捉えどころのない「情報」、この二つがアパッチ族を混乱させる。

    あー、ジャンジャン横丁のホルモンうどんが食べたい。

  • 戦後の大阪に現れて工廠跡から夜な夜な金属を盗み出したアバッチ族たちの、栄枯盛衰を描いた本。とにかく猥雑で、しかしながら、生命力に満ちている。

  • 描写が独特。
    実話ではないだろうけど、
    こんな時代のこんな世界のこんな価値観があったんだろうなぁ

  • 土のにおい、風のにおいを鋭く描写し、生命力あふれる人物像。生きるために必死で、助け合う底辺の人々。開高健恐るべし。引き続き、いくつか追ってみる。

  • なぜか気分が凹んだ…。本文にもあったけど“哀愁”なのかな。生々しくて隆々としてるけど、一方で細やかすぎてセンチメンタルになります。

  • ひとりのホームレスの目線から始まる泥棒集団アパッチ族の物語。鉄と汗と牛の内臓と、油っこくギラギラとしてエネルギーに満ち溢れている。

  • 「輝ける闇」の開高健。その初期のヒット作。
    現在の大阪城公園の辺りには、太平洋戦争中は広大な陸軍工廠が広がっていて、戦後は残骸が放置されたままに。付近の集落でそれに目をつけた「アパッチ族」が鉄材等を盗みにかかる、彼らの生き様を描いた作品です。

    開高健の筆致は作品によって結構違うと思っていて、中盤以降の作品では、重々しい空気感で「うわっ、読みづらい…」という作品もあるのですが、本著は割合軽快に読み進められました。
    とは言え完成度は高く、単にアパッチ部落の姿を描くだけではなく、実在するのか?と思うような生き生きとしたキャラと、終わりを見据えたストーリー構成は流石としか思えないもの。
    「輝ける闇」のような、1文だけでハッとされられるような衝撃や重さまではなかったのですが、快適に読め、面白かったなぁと思う作品でした。

    解説に、開高健は「全力投球の創作を終えると、一種の虚脱感に見舞われてノイローゼ状態になる」と書かれていましたが、凄い人だけど、何ともままならなくて、楽に生きていくことができない人なんだなぁと、本著を読み終わって改めて感じた次第です。

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著者プロフィール

開高 健(かいこう たけし、かいこう けん)
1930年12月30日 - 1989年12月9日
大阪府、天王寺区生まれの小説家。大阪市立大学法文学部法学科在学中、同人誌活動を始める。洋書輸入商、壽屋(現・サントリー)宣伝部を経て、作家活動を開始。
1958年、『裸の王様』で芥川賞、1968年『輝ける闇』で毎日出版文化賞、1979年『玉、砕ける』で川端康成文学賞、1981年菊池寛賞、1987年『耳の物語』で日本文学大賞をそれぞれ受賞。ほか、主な著書に『日本三文オペラ』『夏の闇』『私の釣魚大全』『人とこの世界』などがある。

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