ロビンソンの末裔 (新潮文庫)

  • 新潮社 (1973年1月1日発売)
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感想 : 6
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  • 本 ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128030

感想・レビュー・書評

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  • これは力強いフロンティアの物語ではない。ひたすら悲惨・暗澹・無残・救い様の無い開拓民達のエピソードが積み重ねられていく。しかし、単なる暴露・告発小説でもない。
    開口健の若いころの作品は、著者自身の発散しようの無いエネルギーが込められている。最初の長編である”日本三文オペラ”では、それがアパッチ族の放埓な生命力として飛び跳ね、この”ロビンソンの末裔”では、全方位的苦難の中で、まるで石のように内向して良くのだが、確かに存在する。
    それは主人公達が悲惨な現実を受け入れ、諦め、押しつぶされながらも、淡々とささやかな抵抗を続ける姿の中にある。そして、終章の前には大きなエネルギーの発散としても現れる。オプティミズムではなくペシミズムも無い。一つ一つのエピソードが、どこか乾いた軽さ・苦々しい笑いというべきもので表現されていく。それがこの作品の魅力である。力強さである。
    この人の作品にはどこか非常に印象に残るシーンが存在する。日本三文オペラでは主人公アパッチ族が鉄骨を持って逃げ回るシーンであり、この作品では水を飲みながら酔っ払った振りをする接待シーンであり、悲惨さが圧縮されて出来上がったともいえる抱き石を抱えて上京するシーンである。これらは10年して作品のストーリー自体は忘れても、なぜか心の隅に残ってしまう。開口健の筆力のすごさだろう

  • 数年前に北海道を旅した。札幌、小樽、函館には目もくれず、旭川から入って道央、道東をレンタカーで周るひとり旅だった。時期は5月、夏の花もなければ冬の雪もない季節である。平日だったから観光客も少なく、静かな旅行となった。
    立ち寄った美瑛であるペンションに泊まった。宿は丘の上に建てられていて、整然と広がる畑が夕暮れに染まっていくのを眼下に見たことを今でもよく覚えている。オーナー自らが建てたというログハウスの中には小さな図書室があり、そこで偶然手に取ったのがこの「ロビンソンの末裔」だった。ぱらぱらとページをめくって読んだ上野駅の混沌とした描写と、目の前の静かな森の景色は遠いもののように思えた。しかしこれをきっかけに北海道の成り立ちに興味を持つことになった。広大な畑は律儀に区切られており、どう見ても人工的な風景である。豪雪の降るこの地域を一体誰がどうやってここまで整えたのか、考えてみれば不思議であった。
    この本のことは旅行から帰った後もずっと頭にあったが、読み終えたのはつい先ほどだ。今の美しい景色は劣悪な環境の中、骨を削るようにして先人たちが切り開いてきたものであると知った。結果として人が住めるようになったのが今ある北海道で、当時の開拓地の中には放棄され、今は自然のままになっている地域もあるに違いない。見よう見まねでぼろ小屋を建て、薄いおかゆをすすり、耕作に適さない土地を耕す。何キロも歩いて役所に通い詰め、無気力な役人相手に陳情を続ける。行き場を失った人間の図太さに圧倒される。こんな根性は今の人間にはないと思う。もちろん自分にもない。
    大嘘をついて棄民を続ける政府の汚さも印象的である。北海道だけではなく、似たようなことが各地で行われていたのだろう。国というのは追い詰められるとこういうことをするのだ、ということをしっかり覚えておこうと思った。

  • 第29回アワヒニビブリオバトル「衣・食・住」で紹介された本です。
    2017.09.05

  • 乾いた視線で、開拓民を見つめる。しかし、この棄民の歴史。ハワイ、そしてブラジル移民、もっと悲惨な満州開拓団。戦後の北海道入植。国家の無責任な棄民政策。それに翻弄されながら、がんばろうとする。しかし、流亡記や三文オペラのアパッチ族のように、絶望的な状況。逃げるしかない。もしこのまま突き進んでも「パニック」のネズミのように全滅。アンハッピーな結末。止むなしか。
    感情を抑えた冷徹な作者の目と筆力。

  • ヤマザキマリさんの講演会で推していて手に取る。夢のような条件に目がくらみ、敗戦直前に、北海道へ開拓民として行くことにした東京都の会計係だった一家のストーリー。夢のような条件は、青森に着く頃には玉音放送が流れ、先に進むに連れ、どんどんどんどんと悪くなり、着いてみれば、土地だけは与えられるが、家もない、食料の支給も不十分、転地も受け入れられない、現金収入もおぼつかないと無い無い尽くし。えいやっと開墾に取り掛かるも、土地が悪すぎて成果が出ず。役場にかけあうもラチがあかず、ついに団結して、中央まで乗り込んで談判し、道作りに予算を割り当ててもらうが、ともに残ったものはわずか、ともに戦ったものも意気があがらず、それでも少しの希望を見出そうとするところで物語は終わる。全くもってひどい話で、無責任なことをいったものたちは誰一人責任を取らず、過酷な条件で頑張っても報われず、その様子が淡々と描き出される。開拓地と比べた敗戦直後の猥雑で活気に満ちた描写、開拓も希望も東洋のウクライナも粉ふきジャガイモの蒸したてもへったくれもあったものかという叫び、仲間が熊に食われたことを語る畳屋の話、畳屋が大臣に「食うものも食えないで今日明日にも死にそうになっている人間が食えないことを訴えているのに、共産党もクソもありますか。あんたの責任を聞いているのだ」と啖呵を切ったシーンが印象に。

  • 戦時中の北海道開拓民の苦悩。
    映画『許されざる者』の参考になるかと思って読んだけど、時代が違った。でも、これはこれで引き込まれた。


    戦時中の満州移民と同じようにはいかない。うまい話には裏がある。
    開拓ってすさまじいんだろうなー。狩猟民族ならまだしも、そこに定住して農場を開くのは…
    先に開拓民がいるから良い土地も残っているわけではない。家なんかすぐに建たないから、木を立て掛けた小屋ともいえない何かで極寒の地で生き延びなければならない。一年目から作物は収穫できないから、支出しかない。人間生きていれば病気はする、唯一頼れるのは先住開拓者のみ。でも、頼ってばかりでは住み辛くなる。

    こんなん、人生HARDモードどころじゃない。
    恥も外聞も捨てて、生き残る。まじサバイバルだわ。

    物語の中でも発狂してしまうものが出るが、当たり前だわ。


    読んでいて、自分の中で盛り上がるところはなかった。読み終わっても、グッと来なかった。でも、何か残った。北海道という地の見方が変わる何かが。

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著者プロフィール

開高 健(かいこう・たけし):1930年、大阪生まれ。大阪市立大学を卒業後、壽屋宣伝部(現サントリー)にてコピーライターとして活躍。同時に創作を続け、57年『パニック』でデビュー。58年『裸の王様』で芥川賞、ベトナム戦争現地へ赴いた経験に基づく『輝ける闇』で68年に毎日出版文化賞、79年『玉、砕ける』で川端康成文学賞、81年に一連のルポルタージュ文学について菊池寛賞を受賞。ほか『日本三文オペラ』『ロビンソンの末裔』『オーパ!』『最後の晩餐』など、代表作・受賞歴多数。89年逝去。

「2024年 『新しい天体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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