輝ける闇 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 946
レビュー : 93
  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128092

感想・レビュー・書評

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  • あんこう鍋(いわきで言う"どぶ汁"に近い)みたいな作品だった。文学の出汁がこってりと出ていて純粋に美味い。のめりこむように貪りつつも、なんかちょっと食べられない部位もあり、食後の余韻はとっぷり残る。

    さまざまな表現や描写がこれでもかってぐらい豊かで鮮やかでかつ繊細。ベトナムを五感で感じるし、戦場の迫力が真に伝わる。映画化できそうな綺麗に段階を踏んだストーリーではないのにここまで前のめりになってしまうのは、開高健の作家としての総合力がそうさせるのだろう。

    キーワードは「匂い」なのかなと思った。「使命は時間が経つと解釈が変わってしまう。だけど匂いは変りませんよ(108項)」とウェイン大尉に話すシーンがひっかかっていて、その後の場面転換や戦闘シーンにおいては重要なところにほぼ匂いに関する表現が出てくる。記者としての使命が曖昧になる一方、死や生に関わる人間の、褪せることのない生々しい匂いを、主人公は心に残すことになったのだろう。

    あとベトナム戦争の知識を少し勉強してからの方がより面白かったな。読んでるうちに分かるだろと思ってしまったが結果、後悔した。


    以下は個人的に気に入った表現集

    45 空をみたす透明な炎の大波に撫でられて私はベッドにたおれ、とろとろと沈んでいく

    48 生理の限界を一瞬で突破された恐怖の圧力がまだ体内にこもって、ぴくぴく動いていた

    76 きわめて優雅に法外な値をささやき、私がさしだす紙幣を卑しみきった手つきでつまみとった。まるで羽毛をつまむような手つきであった。威厳をそこなわずに下劣なふるまいをしたかったらこの女に習うといい。

    84 塹壕や汗や野戦服が知らず知らず私の皮膚の上に分泌していた石灰質の硬い殻のようなものが音なく落ちた。脱皮した幼虫の鮮やかな不安が全身にひろがった。

    226 私は冷血でにぶい永遠の無駄だ。

  • 「銃声が止んだ……虫が鳴く、猿が叫ぶ、黄昏のヴェトナムの森。その叫喚のなかで人はひっそり死んでゆく。誰も殺せず、誰も救えず、誰のためでもない、空と土の間を漂うしかない焦燥のリズムが亜熱帯アジアの匂いと響きと色のなかに漂う。孤独・不安・徒労・死――ヴェトナムの戦いを肌で感じた著者が、生の異相を果敢に凝視し、戦争の絶望とみにくさをえぐり出した書下ろし長編」 裏表紙より。読みかえす度に、新たな感銘を受ける一冊です。

  • 開高健の文章の世界について知りたくて読書。

    お世話になる雑誌社の人から勧められた一冊。読んだ感想は「いつかこんな文章を書けるようになりたいが、到底書けない」と思ったそうだ。

    著者の本は初めて読んだ。正直な感想は読みづらい。

    最初は少し早めに読んでいたが、途中から1文字ずつを追う熟読へ切り替えて読み進めた。

    ベトナム戦争についてよりは私小説のような内容。実に巧みな表現と比喩で当時の情景が目の前に浮かんでくるような文章。匂いや暑さ、見えている色まで想像させてくれる。

    確かにこんな文章を書けるようになりたい。一物書き、メディアに携わる人間としてより魅力的な文章とは何かを考えさせてくれる。

    また読みたいと思う。ご紹介有り難うございます。

    読書時間:約6時間

  • 読み終わった。
    キツかった。
    でも、こう言うのを読んどくのもアリだと思うんだ。

  • 比喩の多さと、時代背景の知識のなさにかなり読むのに時間がかかった。
    主人公の戦時なのにのらりくらりとした生活が描かれてるけど、最後の戦闘シーン以外はあんまり読み進める気が起きず。

  • 角田光代、平松洋子がエッセイの中で、この本の感想を書いていて、読んで見たくなった本。ベトナム戦争を肌で感じた開高健の言葉は、リアルで生々しい。「匂いを書きたい」という意図にも、納得。個人的な捉え方や感じ方は、時代の中で変わっても、匂いは不変だと。 
    戦争や残虐なシーンが書かれたものは苦手な私でも、なぜだか不思議と、目を逸らさずなに読み進んだ。
    いずれまた読み返したい一冊。

  • ベトナム戦争従軍記者の記録。うーむ、名著なんだろうけど、読むのに疲れた。しばらく読みやすい本ばかり読んでたからか、分かりにくい比喩と言うか文学的な表現が多くて途切れ途切れ読んだのも疲れた原因。インテリが安全地帯からベトナム戦争を論じるのでは無く、ベトナム戦争を取材する記者という立場で内部からの目で記録してるんだけど、客観的な記録じゃなくて悩める自分中心の私小説です。読む前にストーリーを把握しておいた方が良かった。

  • 妻子を日本に残して、ベトナム戦争の取材に赴き、サイゴンで情婦である素蛾(トーガ)と過ごし・・・男の人って、やっぱりそういうもの?と思っていたら、また危険な戦場へ戻って、今度は銃撃戦に巻き込まれる・・・九死に一生を得たからこその本作品だったようである。
    ちなみに夫婦関係は最悪で、盛んに海外に出かけていったのは、妻や娘の居る家から逃げ出したかったかららしい。さもありなん・・・。

  •  歴史小説では全然無いし、ベトナム戦争を舞台にした私小説でした。何を期待して読み始めたか忘れたが、思ったほど入り込めなかった。親の世代ではあるけど、近い時代ではあると思うが、自分の置かれている状況とあまりに違うからかと思う。
     ただ、今までベトナム戦争はアメリカの映画でしか触れていなかったので、違う視点で触れられたのが良かった。

  • 時折読み返してしまう。名著。

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著者プロフィール

開高 健(かいこう たけし、かいこう けん)
1930年12月30日 - 1989年12月9日
大阪府、天王寺区生まれの小説家。大阪市立大学法文学部法学科在学中、同人誌活動を始める。洋書輸入商、壽屋(現・サントリー)宣伝部を経て、作家活動を開始。
1958年、『裸の王様』で芥川賞、1968年『輝ける闇』で毎日出版文化賞、1979年『玉、砕ける』で川端康成文学賞、1981年菊池寛賞、1987年『耳の物語』で日本文学大賞をそれぞれ受賞。ほか、主な著書に『日本三文オペラ』『夏の闇』『私の釣魚大全』『人とこの世界』などがある。

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