夏の闇 (新潮文庫)

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感想 : 85
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  • 本 ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128108

感想・レビュー・書評

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  • 開高健氏による「闇三部作」の第二作目。本書のレビューに入る前に、前日譚というか補足説明をさせていただきたく…

    前作の『輝ける闇』を読んだのはロシアによるウクライナ侵攻が始まって2日目の事だった。それを意図して読んだわけじゃないのに、泥沼化が進むベトナム戦争の最前線や中身のない大義を掲げた米軍があまりにも侵攻した側とダブって見えて、思わず狼狽してしまった。
    そして往時と似た時代を今まさに生きていると知り、「何としてでも三部作を読み切ろう」と思うに至ったのである…気が滅入ると予想がつきながらも、(別に切らなくても良い)啖呵を切らずにはいられなかった。

    『輝ける闇』で臨時特派員として従軍した著者はいささか野次馬気味で日常すらのんべんだらりとして見えたが、終盤の来襲で事態は暗転する。
    本書はその続きから入るのかと思いきや全く別の場面なもんだから、「まさかの別作品?」とまたもや狼狽。(億劫になっていた自分を引き込むにはもってこいなイントロだったが)

    前作の記憶か、或いは単に自分の読解力が乏しいのか。過去に読んだという方がもし身近にいたら、まずは「時間軸はどうなっている?」と聞きたい。話の大半は、『輝ける闇』に出てきた女性とはまた別の「女」との同棲生活。しかも場所はドイツときたもんだから益々狼狽は止まらない。
    本書は『輝ける闇』の前か後どちらの話か。後だとすれば、著者はあの惨劇からどうやって抜け出したのか。それとも本当にまさかの別作品なのか。(正しい解釈というものがあれば、この駆け出しブクロガーにご一報いただけますと幸いです…)

    それでも「どこかで前作の話が出てくるだろう」と信じていたら、終盤あたりでようやくベトナム戦争の話が出てきた。(前作の断片は見当たらなかったが)
    「政治問題は遠い国のことほど単純に、壮烈にしゃべりたくなるものなのよ。(中略)つまり、きれいに苦悩できるのよ」
    死に急ぐかのように戦場に戻ろうとする著者とは真逆の生き方の「女」だが、彼女の言葉がここに書き留めてあるってことは著者にも多少響いたんじゃないかな。結局前作の断片すら確認できなかったけど、↑に前作の野次馬気味だった著者が投影されているようにも見える。

    まだ二作目だから何とも言いようがないところがある。全てが繋がった時、一体何が姿を現すのか?

    • ahddamsさん
      ヒカチューさん
      はじめまして!
      コメント&フォロー有難うございます♪
      今後とも宜しくお願いします^ ^
      ヒカチューさん
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      2022/04/06
  • 夏の闇
    著:開高 健
    新潮文庫 か-5-10

    ヤマザキマリの「国境のない生き方」にお薦めがあったので、一読させていただきました。第三段です。

    惚れた女と、とことん、ゆくとこまでゆく
    やることもなく、ただ、やることだけはやる というのはわかりました

    人生の中でこういうシチュエーションになるときがあってもいいとは正直おもいました

    堕落したベトナム戦争の従軍記者と、海外で博士号をとるために10年もの間外国をさまよっていた女との再会
    乱れきった二人の宿での愛、女の屋敷での生活、そして、旅行先での船釣り

    日本に捨てられたという女の闇、ベトナム戦争での男の闇、

    物憂い雰囲気が二人を漂い、東京の一日が再び過ぎていく

    二人の抱える「闇」が、相互に果たしてほんとうに伝わったのかなとはかんじました

    ISBN:9784101128108
    出版社:新潮社
    判型:文庫
    ページ数:268ページ
    定価:590円(本体)
    1983年05月25日発行
    2010年07月15日35刷改版
    2015年10月25日38刷

  • 『輝ける闇』も何度も読んだが、この『夏の闇』の方がよく読んだ。
    文体も自然と真似たこともあった。

    何年も前からヴェトナムには行きたいと思っていたが、なかなか機会が巡ってこず、
    それでも、それは或る日突然ベトナムに行くことになった。
    かってサイゴンと呼ばれた街の空港で、麦酒333(バーバーバー)を吞みながら、
    『夏の闇』を読み、そしてパリやベルリンでも『輝ける闇』を読むことが出来た。

  • うーん、もちろん名文だ
    でもその読むそばから不満が出てくるのは、なぜかだろうか

    まずわたしのよからぬ動機、ベトナム地の小説ねとの思い込み
    えーと、ベトナムの地は出てこない
    (この小説テーマはベトナム戦争に臨場したことが遠因である)

    読むそばからこれはどこかで読んだことのあるものとの思い
    ヘミングウェイしかり、D・H・ローレンスしかり
    (かれらの小説を読んでいる読者はもちろん気が付く)

    そして解説のC・W・ニコル氏が書いているように
    女副主人公の悲劇的設定、作者願望の無理があるようだ
    女性から見ればそんな風に描かれては反発を覚える

    実はこの作品、わたしは40年前に読んでいる
    つまり当時ベトナム戦争が終了しつつあって
    ベトナムに関心があった人々に受け入れられていた本で
    ミーハーといえばよいのか、借りて読んだ
    しかし、まったく内容を忘れてしまっていたものなのだ(汗

    おまけに
    学生時代所属していた文芸部の先輩が、前年茅ケ崎まで行って訪問収録した
    (たしか、芥川賞を受賞された直後かもしれない)
    開高健氏インタビューのテープをレコーダーで聞かされた時
    甲高い声でしゃべりまくっている、へんなおっさんと思ったことがあった
    ま、女学生にかこまれて文学の文も知らない質問を受ければそうなる(笑

    とにかく印象悪し、の10数年後の読書なれど
    すっかり内容を忘れてしまっていたということは
    その当時心に響かなかったし、反発もなかったのだろうね

    そして40年後、幸か不幸かじっくり読んでしまった今回
    当時に多く読まれ、この新潮文庫の奥付を見ると昭和58年初版
    平成25年37刷、今も健在なることがわかるが

    わたしは上記のように不満である
    『裸の王様』も読んでいない者が何を言うかであるし
    引き続き『輝ける闇』も読むので、印象が変わるかもしれない
    としておこう

  • 開高健(1930~89年)氏は、大阪市生まれ、大阪市立大卒の小説家、ノンフィクション作家。『裸の王様』で芥川賞、『玉、砕ける』で川端康成賞、一連のルポルタージュ文学により菊池寛賞を受賞。
    開高氏は、ベトナム戦争初期の1964年末~65年初に100日間、臨時特派員としてサイゴン(現ホーチミン)に赴き、「週刊朝日」に毎週ルポを送稿し、また、それをまとめた『ベトナム戦記』(1965年)を出版した。その後、同地での体験をもとに小説『輝ける闇』(1968年)を発表したが、同作品は実体験を相当程度反映しつつ、主人公である日本の新聞記者の心情の変化に主眼が置かれた内容となっている。そして、続いて本作品が書かれ(1983年)、更に、未完となった『花終わる闇』を含め、「闇三部作」と呼ばれている。開高氏は、3作が完成したときには、「漂えども沈まず」のタイトルを予定していたという。
    私はノンフィクション物が好きで、『ベトナム戦記』を読んだのをきっかけに、『輝ける闇』、本作品と読んできた。
    本作品は、ベトナム戦争に臨時特派員として赴き、九死に一生を得た主人公(従軍した部隊が戦闘に巻き込まれ、200人のうち生き残ったのは17人だったという、『輝ける闇』と同じくだりが出てくる)が、その後世界を放浪し、パリの安ホテルでひたすら眠る日々を送っていたときに、かつての恋人と再開するところから始まる。恋人は、10年前に主人公と別れて日本を飛び出した後、様々な職業を転々としつつ、今はドイツのボン(当時の西ドイツの首都)で、大学での相応の地位を得ようとしている。別れてからの歩みも、現在の立場も異なる二人は、再び一緒に暮らし始め、パリ、ボン、ベルリンと移り住み、情事に明け暮れるが、二人の心の底にある思いは全く違ったものだった。女(孤児として育った)は、日本社会への憎悪・反発だけを力にして、どん底から這い上がり、成功を掴もうとしているが、自分が本当に求めているものがわからず、男の承認に救いを見出そうとする。一方、主人公は、(釣り以外の)何事にも興味を持てない中、たまたま女が新聞のベトナム戦争の記事を読み聞かせたことで、自分の思いに気付き、ベトナムに戻る決断をするのである。
    本作品は、開高氏の最高傑作と評され、開高氏自らも第二の処女作と言っている。そうした評価の理由や、開高氏が本書に込めた様々なメッセージを、私はどれほど理解できているかわからないが、何と言っても気になるのは、どうしようもない暗さである。主人公は、なぜベトナムに戻ることでしか自分の存在の意味を感じられなかったのか? ひときわ美しく、賢く、社交的な女は、なぜあれほど世界を否定的に捉え、悲劇を演じなくてはならなかったのか?。。。本書が発表されたのは1983年、社会現象ともなった田中康夫の『なんとなく、クリスタル』(1981年)の2年後である。平和ボケし、「豊かさ」「楽しさ」をひたすら追い求める、当時の風潮へのアンチテーゼであったことは間違いないだろう。(そうした風潮を異常な現象として、「バブル」などと呼ぶようなったのは、後々のことだ)
    また、『輝ける闇』の読後から気になっていた点は、開高氏が見たベトナム戦争はほんの一部だということだ。私がベトナム戦争に関する作品で最も印象に残っているのは(映画だが)「ディア・ハンター」なのだが、開高氏がサイゴンの街中や唯一回の戦闘に巻き込まれて経験したものとは全く別の世界である。それ故に、ベトナム戦争に限らず、その後の中東での戦争でも、帰還した米国兵の何割もの人たちが自死しているのだ。
    小説でも映画でも、安易なハッピーエンドを好まない天邪鬼な私にとっては、もやもやしたものがありながらも、強く印象に残る作品ではあった。
    (2025年2月了)

  • 開高健氏の小説を読むのは初めて。勝手に硬派なイメージを抱いていたが、こんなにべたべたにウェットな文章とは驚きだった。裏表紙を先に読んでしまうとネタバレになるので、注意。
    主人公の「私」(男性)と、ガールフレンドの「女」しかほとんど登場せず、「私」の心情描写が中心になる。表現は大江健三郎的で、やや消化不良的な部分もあるかもしれない。「私」はおそらく過去の経験がトラウマとなり、欝々として無気力な日々を酒と女に溺れながら過ごす。「女」はそれをサポートしようとするが…。
    この二人がどの国にいるのか、どこの国籍の人なのか、明かされないまま物語の後半まで進む。また、核心となる部分、名前すら与えられない「女」のバックグラウンドも不明のままだ。とにかく主人公のもがき苦しむ苦悩にひたすら付き合わされる。男は身勝手で、女は辛抱強い。
    純文学が好きな人は楽しめるだろう。

  • 開高さんの文章は凄くて、解説でCWニコルさんが書かれていたような教養は自分には無いのですが、そんな素人でも読んでいてゾクッとするような臨場感が伝わってきます。
    「輝ける闇」では1ページ目から濃密な言葉の海に浸らせてもらったので、本著も期待して読んだのですが、人の内面的な感情をここまで文章で伝えられるのか!と驚きました。

    浅薄な見方ではありますが、自分が文章から感じたのはままならなさ。
    水を手で必死にすくってもどんどんこぼれていってしまうような、離陸滑走を始めてスピードがもう乗ってしまっている飛行機のような、焦りなのか諦めなのか何も無いのかもわからない感情が生々しく伝わってきます。
    ベトナム戦争のような鮮烈な経験をして、振り子でいうでっかい触れ幅のような出来事を経てしまい、日常の何もが大した触れ幅じゃないから、感動を生まなくなった男のままならなさ。女も別のままならなさを抱えている訳で、その消耗感や絶望感が伝わってくるようで恐ろしくなります。

    1点あるとすると、見なきゃ良かったんですが新潮文庫の裏表紙にある「あらすじ」的な文章。「ヴェトナムの戦場に回帰する」とあったので、また「輝ける闇」的なベトナムの話が読めるのかしらと思ったらそうじゃなかった。
    これはこれで面白かったのだけど、「行くのか?行くのか?」的な期待を持ってしまったのでちょっとマヌケな肩透かし感が。。

    ともあれ、思い出に残る素敵な小説です。輝ける闇に負けず劣らずの重厚感。
    当時のベルリンの高架鉄道、乗ってみたかったなぁ。。


  • 戦争文学として、また開高健としてもオーラを放つ名作。
    実地体験を基にした技巧的な文章が、凄まじい迫力で迫る。
    迫力など戦争文学の大半が持ち合わせているが、この湿度の高い独特の臭気、血の匂い・セックスの匂いまでも感じさせる文学は開高健ならでは。

  • 私は角田光代が好きで、その角田光代がよく熱く語っているのが開高健なので、いつか読みたいと思っていた。でも体力が必要そうだし難しそうだし…と延ばし延ばしになっていて、やっと。
    ダメな私はネットで開高についていろいろと検索し「夏の闇」のモデルと言われている女性の不幸な死を前もって知っており、さらに読みやすそうな細川布久子の「わたしの開高健」を先に読んでしまったため、とにかく「夏の闇」も読みながらこの女性の人生について考えてしまい悲しくてたまらなかった。この当時のドイツでひとりで生きていくことがどれほど大変だったことだろう(もちろん日本でも、だが)。そして家族のいない孤独な彼女が自分から離れていくとわかっている主人公とどんな気持ちで夏を過ごしていたのだろう。前半と後半はもうとにかく暗いが、中盤の湖に釣りに出かけて過ごした濃密なふたりの時間には束の間の幸せが宿っていたように思う。行ったことはないけれど、夏のドイツの美しい情景が浮かんでくるようでまるで映画の名場面。
    あの女性がこの本のモデルというのが事実だとすれば、ドイツで主人公に去られたのち東京で束の間の再会、そして直後の事故死。言葉がない。開高はこの闇を抱えてその後19年生きたのだな。

  • 輝ける闇を読んで、すぐにこちらも。
    輝ける闇よりも更に濡れ場が多すぎて読み進めるのが少し億劫になりつつも、より内面を抉るような内容で、これを世に出版するって、すごいなぁと。
    戦争を体験した人にしか通じない何かがあるんだろうな。
    女の台詞が終始素敵で、可愛かったりスカッとさせてくれたりして良かった。

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著者プロフィール

開高 健(かいこう・たけし):1930年、大阪生まれ。大阪市立大学を卒業後、壽屋宣伝部(現サントリー)にてコピーライターとして活躍。同時に創作を続け、57年『パニック』でデビュー。58年『裸の王様』で芥川賞、ベトナム戦争現地へ赴いた経験に基づく『輝ける闇』で68年に毎日出版文化賞、79年『玉、砕ける』で川端康成文学賞、81年に一連のルポルタージュ文学について菊池寛賞を受賞。ほか『日本三文オペラ』『ロビンソンの末裔』『オーパ!』『最後の晩餐』など、代表作・受賞歴多数。89年逝去。

「2024年 『新しい天体』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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