夏の闇 (新潮文庫)

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感想 : 80
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128108

感想・レビュー・書評

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  • 開高健氏による「闇三部作」の第二作目。本書のレビューに入る前に、前日譚というか補足説明をさせていただきたく…

    前作の『輝ける闇』を読んだのはロシアによるウクライナ侵攻が始まって2日目の事だった。それを意図して読んだわけじゃないのに、泥沼化が進むベトナム戦争の最前線や中身のない大義を掲げた米軍があまりにも侵攻した側とダブって見えて、思わず狼狽してしまった。
    そして往時と似た時代を今まさに生きていると知り、「何としてでも三部作を読み切ろう」と思うに至ったのである…気が滅入ると予想がつきながらも、(別に切らなくても良い)啖呵を切らずにはいられなかった。

    『輝ける闇』で臨時特派員として従軍した著者はいささか野次馬気味で日常すらのんべんだらりとして見えたが、終盤の来襲で事態は暗転する。
    本書はその続きから入るのかと思いきや全く別の場面なもんだから、「まさかの別作品?」とまたもや狼狽。(億劫になっていた自分を引き込むにはもってこいなイントロだったが)

    前作の記憶か、或いは単に自分の読解力が乏しいのか。過去に読んだという方がもし身近にいたら、まずは「時間軸はどうなっている?」と聞きたい。話の大半は、『輝ける闇』に出てきた女性とはまた別の「女」との同棲生活。しかも場所はドイツときたもんだから益々狼狽は止まらない。
    本書は『輝ける闇』の前か後どちらの話か。後だとすれば、著者はあの惨劇からどうやって抜け出したのか。それとも本当にまさかの別作品なのか。(正しい解釈というものがあれば、この駆け出しブクロガーにご一報いただけますと幸いです…)

    それでも「どこかで前作の話が出てくるだろう」と信じていたら、終盤あたりでようやくベトナム戦争の話が出てきた。(前作の断片は見当たらなかったが)
    「政治問題は遠い国のことほど単純に、壮烈にしゃべりたくなるものなのよ。(中略)つまり、きれいに苦悩できるのよ」
    死に急ぐかのように戦場に戻ろうとする著者とは真逆の生き方の「女」だが、彼女の言葉がここに書き留めてあるってことは著者にも多少響いたんじゃないかな。結局前作の断片すら確認できなかったけど、↑に前作の野次馬気味だった著者が投影されているようにも見える。

    まだ二作目だから何とも言いようがないところがある。全てが繋がった時、一体何が姿を現すのか?

    • ahddamsさん
      ヒカチューさん
      はじめまして!
      コメント&フォロー有難うございます♪
      今後とも宜しくお願いします^ ^
      ヒカチューさん
      はじめまして!
      コメント&フォロー有難うございます♪
      今後とも宜しくお願いします^ ^
      2022/04/06
  • 『輝ける闇』も何度も読んだが、この『夏の闇』の方がよく読んだ。
    文体も自然と真似たこともあった。

    何年も前からヴェトナムには行きたいと思っていたが、なかなか機会が巡ってこず、
    それでも、それは或る日突然ベトナムに行くことになった。
    かってサイゴンと呼ばれた街の空港で、麦酒333(バーバーバー)を吞みながら、
    『夏の闇』を読み、そしてパリやベルリンでも『輝ける闇』を読むことが出来た。

  • うーん、もちろん名文だ
    でもその読むそばから不満が出てくるのは、なぜかだろうか

    まずわたしのよからぬ動機、ベトナム地の小説ねとの思い込み
    えーと、ベトナムの地は出てこない
    (この小説テーマはベトナム戦争に臨場したことが遠因である)

    読むそばからこれはどこかで読んだことのあるものとの思い
    ヘミングウェイしかり、D・H・ローレンスしかり
    (かれらの小説を読んでいる読者はもちろん気が付く)

    そして解説のC・W・ニコル氏が書いているように
    女副主人公の悲劇的設定、作者願望の無理があるようだ
    女性から見ればそんな風に描かれては反発を覚える

    実はこの作品、わたしは40年前に読んでいる
    つまり当時ベトナム戦争が終了しつつあって
    ベトナムに関心があった人々に受け入れられていた本で
    ミーハーといえばよいのか、借りて読んだ
    しかし、まったく内容を忘れてしまっていたものなのだ(汗

    おまけに
    学生時代所属していた文芸部の先輩が、前年茅ケ崎まで行って訪問収録した
    (たしか、芥川賞を受賞された直後かもしれない)
    開高健氏インタビューのテープをレコーダーで聞かされた時
    甲高い声でしゃべりまくっている、へんなおっさんと思ったことがあった
    ま、女学生にかこまれて文学の文も知らない質問を受ければそうなる(笑

    とにかく印象悪し、の10数年後の読書なれど
    すっかり内容を忘れてしまっていたということは
    その当時心に響かなかったし、反発もなかったのだろうね

    そして40年後、幸か不幸かじっくり読んでしまった今回
    当時に多く読まれ、この新潮文庫の奥付を見ると昭和58年初版
    平成25年37刷、今も健在なることがわかるが

    わたしは上記のように不満である
    『裸の王様』も読んでいない者が何を言うかであるし
    引き続き『輝ける闇』も読むので、印象が変わるかもしれない
    としておこう

  • 開高健氏の小説を読むのは初めて。勝手に硬派なイメージを抱いていたが、こんなにべたべたにウェットな文章とは驚きだった。裏表紙を先に読んでしまうとネタバレになるので、注意。
    主人公の「私」(男性)と、ガールフレンドの「女」しかほとんど登場せず、「私」の心情描写が中心になる。表現は大江健三郎的で、やや消化不良的な部分もあるかもしれない。「私」はおそらく過去の経験がトラウマとなり、欝々として無気力な日々を酒と女に溺れながら過ごす。「女」はそれをサポートしようとするが…。
    この二人がどの国にいるのか、どこの国籍の人なのか、明かされないまま物語の後半まで進む。また、核心となる部分、名前すら与えられない「女」のバックグラウンドも不明のままだ。とにかく主人公のもがき苦しむ苦悩にひたすら付き合わされる。男は身勝手で、女は辛抱強い。
    純文学が好きな人は楽しめるだろう。

  • 開高さんの文章は凄くて、解説でCWニコルさんが書かれていたような教養は自分には無いのですが、そんな素人でも読んでいてゾクッとするような臨場感が伝わってきます。
    「輝ける闇」では1ページ目から濃密な言葉の海に浸らせてもらったので、本著も期待して読んだのですが、人の内面的な感情をここまで文章で伝えられるのか!と驚きました。

    浅薄な見方ではありますが、自分が文章から感じたのはままならなさ。
    水を手で必死にすくってもどんどんこぼれていってしまうような、離陸滑走を始めてスピードがもう乗ってしまっている飛行機のような、焦りなのか諦めなのか何も無いのかもわからない感情が生々しく伝わってきます。
    ベトナム戦争のような鮮烈な経験をして、振り子でいうでっかい触れ幅のような出来事を経てしまい、日常の何もが大した触れ幅じゃないから、感動を生まなくなった男のままならなさ。女も別のままならなさを抱えている訳で、その消耗感や絶望感が伝わってくるようで恐ろしくなります。

    1点あるとすると、見なきゃ良かったんですが新潮文庫の裏表紙にある「あらすじ」的な文章。「ヴェトナムの戦場に回帰する」とあったので、また「輝ける闇」的なベトナムの話が読めるのかしらと思ったらそうじゃなかった。
    これはこれで面白かったのだけど、「行くのか?行くのか?」的な期待を持ってしまったのでちょっとマヌケな肩透かし感が。。

    ともあれ、思い出に残る素敵な小説です。輝ける闇に負けず劣らずの重厚感。
    当時のベルリンの高架鉄道、乗ってみたかったなぁ。。


  • 戦争文学として、また開高健としてもオーラを放つ名作。
    実地体験を基にした技巧的な文章が、凄まじい迫力で迫る。
    迫力など戦争文学の大半が持ち合わせているが、この湿度の高い独特の臭気、血の匂い・セックスの匂いまでも感じさせる文学は開高健ならでは。

  • 輝ける闇を読んで、すぐにこちらも。
    輝ける闇よりも更に濡れ場が多すぎて読み進めるのが少し億劫になりつつも、より内面を抉るような内容で、これを世に出版するって、すごいなぁと。
    戦争を体験した人にしか通じない何かがあるんだろうな。
    女の台詞が終始素敵で、可愛かったりスカッとさせてくれたりして良かった。

  • まさに文豪。
    感動なのか感嘆なのか打ちのめされたのか沁みわたったのかよくわからない。
    ただただ呆然とする。

  • 美しい日本語、的な事を勧められ読んだが、中盤を過ぎるまで、話の内容に共感できず、官能的な部分は好きではないので、日本語を楽しむどころではなかった。
    古い本なので、当時の生活、状況、政治の知識がないため、間接的な表現や隠喩は完全には理解できない。
    推測で読み進めるも、自分の知識の土台が正しいのかどうか判断できないので、始終もやっとしたまま終わった。

  • 超大盛りの安いレトルトカレーみたいだった。最初に「うーん」で最後まで「うーん」だった。テイスト変わらずじまいなまま、いつの間にかお腹いっぱいにはなった。味わってはないな。

    孤独に苦しむ女性と、愛を知らない男の話。
    ネズミちゃんは大江健三郎「個人的な体験」に出てきた火見子に似てる。精神的な拠り所がなく、表層的に拠り所を作ろうともがき、結局それが浅はかで意味のないものだと気付いていながら気付かされて元に戻る。博士論文、飾りたてた高級品、烈しい性交渉、外国の友人、名物ピザ、青磁のような肌、たわわな胸、頑強な腕、ホームパーティへの熱望、それぞれが対照的にネズミちゃんの内なる孤独をまざまざと際立たせていたなという印象。

    ウンコちゃんはよく分からん。自己愛がないと批判され痛烈を感じながらも、それを積極的に克服する様子もなく、釣りして息を吹き返し新聞読んでベトナムに戻るかなぁと感化されて終わる。ベッドから降りずにとけかかっていたのに比べれば大きな進歩なんだろうか。意気揚々と女を捨てて戦場へ勇ましく飛び出して行く、ぐらいの鮮烈な対比ではないまま鈍重に終わるラストは、大盛りレトルトカレーの最後の一口みたいに「ふーこれで完食」っていう謎の達成感と似ている気がする。しないか。

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著者プロフィール

1930年大阪市生まれ。大阪市立大卒。58年に「裸の王様」で芥川賞受賞。60年代からしばしばヴェトナムの戦地に赴く。「輝ける闇」「夏の闇」など発表。78年「玉、砕ける」で川端康成賞受賞など、受賞多数。

「2022年 『魚心あれば 釣りエッセイ傑作選』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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