夏の闇 (新潮文庫)

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本棚登録 : 705
レビュー : 67
  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101128108

感想・レビュー・書評

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  • 輝ける闇に続いて読んだ。前作と作品の世界観は共通しているがあくまでも別々の作品という認識で良いのだろう。それにしてもやはり作者の作家としての才能をこれでもかと見せつけられる思いである。素晴らしく豊かで鋭い感性から紡ぎ出される言葉の数々にその国の天候まで感ぜられるような気がする。そして一見その私小説的な内容が余りにも微に入り細を穿つ表現なので実際に作者はこういう生活を送っているのでは?と疑ってしまうがすべて作家の想像力で作り出した世界である。余りにも肉薄し過ぎた写実主義は写真と見た目が変わらないように現実視してしまうものだ。まぎれもない芸術家の仕事と思う。特にそれが顕著なのは「輝ける闇」でもそうであったように性交のシーンと薬物を使用した後の恍惚の感覚を描くシーンだ。この二つはおそらく作家としても冥利に尽きるというか一番の腕の見せ所でもあるから気合も入れて書いたのだろうけど、何度ももほんまにやってんちゃうかと疑ってしまう(正直まだちょっと疑ってる)この表現はやったことがないけれど分かる気がするという不思議な感覚と善悪の境界線が曖昧になる感覚を読者に受けさせる。それもすべては作家の文章力のなせる技であろう。以下引用するのは恋人と釣りに行ったときの青カンみたいになったちょいエロシーン。「女は草に跪くと、そっと私のズボンに指をふれて、ファスナーをさげ、たったいままで眠りこけていたのに、ふと細い指でふれられたばかりに見る見る昂揚してしまったものを、眼を閉じて一度口いっぱいに頬ばってから音たててはなし、クローバーの花輪をひっかける。女は体を折って哄笑し、軽く拍手して、あたりを跳ねてまわった。」恥ずかしいけどちょっとM心をくすぐられる名文だ。

  • オーパに続いて読んでみた。
    あまり開高健さんのことは知らなかったが、釣りやドキュメンタリーが中心かと思っていたが、代表的な作品とのこで手を伸ばしてみたら全く想像を裏切られた作品だった。
    まとわりつくような、様々な表現方法で食、性、生命を表していて、こちらも集中して読まないとついていけない程、濃い文章であった。
    輝ける闇も続いて読んでみたい。

  • 開高さんの文章は凄くて、解説でCWニコルさんが書かれていたような教養は自分には無いのですが、そんな素人でも読んでいてゾクッとするような臨場感が伝わってきます。
    「輝ける闇」では1ページ目から濃密な言葉の海に浸らせてもらったので、本著も期待して読んだのですが、人の内面的な感情をここまで文章で伝えられるのか!と驚きました。

    浅薄な見方ではありますが、自分が文章から感じたのはままならなさ。
    水を手で必死にすくってもどんどんこぼれていってしまうような、離陸滑走を始めてスピードがもう乗ってしまっている飛行機のような、焦りなのか諦めなのか何も無いのかもわからない感情が生々しく伝わってきます。
    ベトナム戦争のような鮮烈な経験をして、振り子でいうでっかい触れ幅のような出来事を経てしまい、日常の何もが大した触れ幅じゃないから、感動を生まなくなった男のままならなさ。女も別のままならなさを抱えている訳で、その消耗感や絶望感が伝わってくるようで恐ろしくなります。

    1点あるとすると、見なきゃ良かったんですが新潮文庫の裏表紙にある「あらすじ」的な文章。「ヴェトナムの戦場に回帰する」とあったので、また「輝ける闇」的なベトナムの話が読めるのかしらと思ったらそうじゃなかった。
    これはこれで面白かったのだけど、「行くのか?行くのか?」的な期待を持ってしまったのでちょっとマヌケな肩透かし感が。。

    ともあれ、思い出に残る素敵な小説です。輝ける闇に負けず劣らずの重厚感。
    当時のベルリンの高架鉄道、乗ってみたかったなぁ。。

  • 豊饒なる読書体験。これに尽きる。

    『輝ける闇』と共に、もともと有名な小説で、方々での評価も高い。
    ここにきて漸く手にする時機が来た。

    本屋でぱらぱらめくってみると、どのページにあっても濃厚な生が匂い立つ、ただならぬ世界に引き寄せられ、迷うことなく購入へ。

    一気に読み耽った。
    異国における〈男〉と〈女〉の、棲息の記録。
    五感を痺れさせるような、縦横無尽な表現の世界に、すっかり魅せられてしまった。これぞ、本物の小説だ・・・

    稀有な作家、開高健を知るには、まさに最高の出会い。

  • 初めて開高健の本を読んだ。
    最初から表現力に圧倒された。一言もフランスと書いてないのにフランスと分かる。パリと分かる。ベルリンと分かる。
    それに、身を削って書いたと感じる文章に独特の魅力がある。
    混沌の中に知性がある。物凄くリアルなのにエロくない。汚なくない。
    今までに読んだことのないタイプの文章だった。
    登場する女性のセリフも過去?も面白い。
    生きることについて、自由主義者について感じ入る作品。
    だけど、もっともっと深く理解するには再読が必要だ。

  • 「輝ける闇」の発行が、1968年4月。「夏の闇」の方は、1972年3月ということだから、約4年間の隔たりがある。二つは独立した小説であるが、主人公は同一人物として読める。
    ベトナム戦争に特派員記者として従軍した主人公は、サイゴンで、あるいは前線で戦争を実際に経験する。それは悲惨とか醜いとかというよりは、徹底的に無意味であるがゆえに絶望的なものであるもののように、僕には感じられた。主人公は日本に帰り、以降の年月を世界各地を旅しながら無為にすごす。フランスと思われる国で、ある日、主人公は日本で付き合っていたことのある女性の訪問を受け、フランスでしばらくを過ごした後、女性の住む、ドイツと思われる国に出かける。そこでも、主人公は無為に、無気力に日々を送るが、ある日、新聞記事にベトナムでベトコン側が総攻撃をかけるのではないか、という憶測記事を読み、ベトナムにもう1度出かけることを決める。二つの小説の主人公が同一人物として考えると、おおまかな粗筋はこのようになるだろう。
    開高健には「ベトナム戦記」というルポルタージュ作品があり、彼は実際に従軍記者として南側の軍隊で前線の闘いを経験し、命からがら逃げ延びるという経験をしている。二つの小説、特に「輝ける闇」は、その際の経験をベースに書かれたものであろう。「ベトナム戦記」も読んだが、小説である「輝ける闇」の方に、よりリアリティを感じるのは不思議な話ではある。開高健は、またベ平連にも参加し、アメリカの新聞の1面に日本人からのベトナム戦争に対する意見を意見広告として掲載するという企画を思い立ち、実際に実行している。
    「ベトナム戦記」「輝ける闇」で書かれているベトナム戦争は、意味がなさ過ぎて、また過酷であり、そこに住む、あるいはそれに関わる人たちの生の尊厳を無意味にしてしまうような残酷さがあり、また、一方で圧倒的すぎて、個人の力でどうこうすることを考えることを許さない印象を受けたが、それでも、戦争に対して現実的な抗議の方法を(それがどの程度効果的だったのかは別にして)考え、実行する面が開高健にはあったわけであり、「夏の闇」の方の主人公のベトナム戦争から帰ってからの無気力さとは、少なくとも行動面では一線を画している。
    さて、主人公は何故ベトナムに帰ることを決意したのだろうか。答えは小説の中には、はっきりとはない。主人公自身も、他人に説明出来るほどには分かっていないのだろうと思う。が、主人公にとっては、理由はともかくとして、それが彼にとって、生きるということであり、そうしなければ、無気力どころではないという状態に陥ってしまうということが分かっていたのだろう。それが唐突に思えないだけの背景は、二つの小説に書き込まれていると感じる。

  • <女はいつも不屈で、勤勉、精悍、好奇心にあふれるまま前進し、生を貪ることにふけっていた>

    この一文ヤラレタ。
    精悍という言葉で女性を表現できるなんて。
    願わくば精悍という言葉が似合う人に自分もなりたいと思った。
    これ読んで一週間ぐらい、<精悍>っていう言葉がぐるぐる頭まわってた。
    「若い頃は言葉ひとつで酔えた」って柳田邦男がエッセイで回顧していたけど
    こういうことだよね。自分は純粋だと思う。

    この人の文章、酔えるからやっぱりすごく好き。
    今年の小説でとりあえずトップ。

  • まさに文豪。
    感動なのか感嘆なのか打ちのめされたのか沁みわたったのかよくわからない。
    ただただ呆然とする。

  • 美しい日本語、的な事を勧められ読んだが、中盤を過ぎるまで、話の内容に共感できず、官能的な部分は好きではないので、日本語を楽しむどころではなかった。
    古い本なので、当時の生活、状況、政治の知識がないため、間接的な表現や隠喩は完全には理解できない。
    推測で読み進めるも、自分の知識の土台が正しいのかどうか判断できないので、始終もやっとしたまま終わった。

  • 超大盛りの安いレトルトカレーみたいだった。最初に「うーん」で最後まで「うーん」だった。テイスト変わらずじまいなまま、いつの間にかお腹いっぱいにはなった。味わってはないな。

    孤独に苦しむ女性と、愛を知らない男の話。
    ネズミちゃんは大江健三郎「個人的な体験」に出てきた火見子に似てる。精神的な拠り所がなく、表層的に拠り所を作ろうともがき、結局それが浅はかで意味のないものだと気付いていながら気付かされて元に戻る。博士論文、飾りたてた高級品、烈しい性交渉、外国の友人、名物ピザ、青磁のような肌、たわわな胸、頑強な腕、ホームパーティへの熱望、それぞれが対照的にネズミちゃんの内なる孤独をまざまざと際立たせていたなという印象。

    ウンコちゃんはよく分からん。自己愛がないと批判され痛烈を感じながらも、それを積極的に克服する様子もなく、釣りして息を吹き返し新聞読んでベトナムに戻るかなぁと感化されて終わる。ベッドから降りずにとけかかっていたのに比べれば大きな進歩なんだろうか。意気揚々と女を捨てて戦場へ勇ましく飛び出して行く、ぐらいの鮮烈な対比ではないまま鈍重に終わるラストは、大盛りレトルトカレーの最後の一口みたいに「ふーこれで完食」っていう謎の達成感と似ている気がする。しないか。

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著者プロフィール

開高 健(かいこう たけし、かいこう けん)
1930年12月30日 - 1989年12月9日
大阪府、天王寺区生まれの小説家。大阪市立大学法文学部法学科在学中、同人誌活動を始める。洋書輸入商、壽屋(現・サントリー)宣伝部を経て、作家活動を開始。
1958年、『裸の王様』で芥川賞、1968年『輝ける闇』で毎日出版文化賞、1979年『玉、砕ける』で川端康成文学賞、1981年菊池寛賞、1987年『耳の物語』で日本文学大賞をそれぞれ受賞。ほか、主な著書に『日本三文オペラ』『夏の闇』『私の釣魚大全』『人とこの世界』などがある。

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