質屋の女房 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101130026

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  • 初めての安岡章太郎

    短編集

    「悪い仲間」などの青年ものより、際立つのは「陰気な愉しみ」だ。

    傷痍軍人の悲しい愉しみ。
    楽しみではなく、愉しみ。
    人の目を憚りながら、生きながらえる中に愉しみをも見出せない儚さ。

    心の凹凸を顕微鏡で覗くかのように隆々たる山並に変えてみせる、良い作品。

  • 慶応大学在学中に結核を患い、戦後、脊椎カリエスを病みながら小説を書き始めた著者が、世間に対する劣弱意識に悩まされた経験をベースに綴った10編から成る短編集。 
    戦中、戦後を哀しく、無器用に生きた学生の自堕落で屈折した日常をユーモアも盛り込んで描く。
    標題作「質屋の女房」は、戦時中、外套を質屋に持って行った学生と質屋の女房との関係を甘酸っぱく余韻を含ませて描いたもので印象に残った。学徒出陣で召集令状が来たその学生にとって一度きりの秘め事が結果的にはなむけとなったのだった。
    「ガラスの靴」は猟銃店で夜番をしている「僕」が散弾を届けに行った米軍軍医の屋敷で出会った風変わりなメイド・悦子との間に生じた特別な時間が生々しく描かれている。
    この他、兵役で病気になり、月に一度生活費をもらいにいく男の屈折した感情、厳格な母親を怖れ、呪縛を感じながらも反発する男子学生や悪徳仲間と現実逃避に終始する学生たちの姿を描く作品が盛り込まれている。

  • 目次を見て、また読んで、魅力のあるものがほとんどなかった。本作の読書は淡々と作業をする感じであった。特に気に入った作品がなかった。文体は静謐かつ読みやすい。期待したほど、楽しめなかったのが残念だ。

  • 仲良しグループの力学を扱った数編が印象に残った。息苦しさから逃げたくて何人かでつるんでいたら、グループの意思になんとなく引っ張られてもっと息苦しくなってしまう話。そのうちどうしたって人は一人なんだってわかるんだけど、若いときは一人でいられない苦しさがありますね。

    今読むと若者あるあるなので、ああそうね、というくらいの感想になってしまうところがある。でも、運がいいと(悪いと?)ずっと集団(会社とか特定の価値観とか)とつるむ人生を歩むケースもある。最後に、「それはそれで楽しかった」と思えるのなら、それはそれでよいのかもしれない。わたしも、「人はしょせん一人」教の一員なのかもしれない。

    高校大学のうちに読めばもっと印象が深かったと思うので、若い読者の皆さん、もしそういうのに関心があったらお早めにどうぞ。

  • まぁ上手いんでしょうけど、長旅の中で読むには当方のリズムと合わなかった。それでも後半に収められている表題作はぐっと引き寄せる力がありまする。
    しかし吉行淳之介といい、このお方といい、今でいうところの風俗に題材を求めるところを見るに、昔も今も変わらんという陳腐な結論に辿り着いて良いものやら。

  • 初挑戦の純文学物でした。
    読み易く、理解もできました。
    短編集なので、主人公は異なり、1編1編は面白いのですが、似たような心情が繰り返されていたので、1冊読み終わる頃には、ちょっと食傷気味な感じになりました。

  •  悪い奴じゃない、でも、良い人にもなれなかった…。安岡章太郎の小説っていうのは、そういうどっちつかずの人間の悩みが描かれている。さて、そういう半端な人間の王様といえば、やっぱり童貞だ。ここに収録された主人公達も実は皆童貞だ。ものすごく童貞について悩んでる。この本は「童貞傑作選」と呼んでも過言ではない。
    <br>
     それはさておき、中でも安岡は「家族」のうまくいかない感じにわりとこだわっている。この問題、古く見えるかもしれないけれど、全然古くないと思う。と言うのは、確かに父権性とか家族主義っていうのは、昔に較べたらゆるくなってきた。だけど心のどこかで「でもやっぱりおれ家族の中で育ったんだよ」っていう気持ちが、まだどこかに残っている。安岡はそれから逃げれなかった。古くさい家族主義から逃れられずにいる苦しみ。たとえば母親を嫌いつつも、母から離れられない。二人は父を共に嫌うことで、蔭で手を組んでいる…。安岡はやっぱり、微妙な関係を描くのがうまいのだ。
    <br>
    (ただし私小説作家共通の欠点か、たいしたことないのをウジウジ悩みすぎる、という傾向はやはりあるかもしれない。そういうのが苦手な人は、読むのが辛いか)(けー)

著者プロフィール

安岡章太郎

一九二〇(大正九)年、高知市生まれ。慶應義塾大学在学中に入営、結核を患う。五三年「陰気な愉しみ」「悪い仲間」で芥川賞受賞。吉行淳之介、遠藤周作らとともに「第三の新人」と目された。六〇年『海辺の光景』で芸術選奨文部大臣賞・野間文芸賞、八二年『流離譚』で日本文学大賞、九一年「伯父の墓地」で川端康成文学賞を受賞。二〇一三(平成二十五)年没。

「2020年 『利根川・隅田川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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