質屋の女房 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • / ISBN・EAN: 9784101130026

感想・レビュー・書評

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  • 20230526再読

  • 「ガラスの靴」は前読んだときから随分印象が変わった。以前は主人公の抱く恋愛感情に浮ついた心地よさみたいなものを強く感じたけれど、今度は僕と悦子の間にあるじめじめとした人間の匂いを一文一文から感じた。こんな文章あったっけと思うことが幾度もあった。

    「青葉しげれる」「相も変わらず」は、順太郎という主人公の登場する連作で、母との関係が描かれた話。大学生ごろの年齢設定だからか、「三四郎」「それから」っぽさを感じた。
    「相も変わらず」がこの作品集の中で一番好き。「悪い仲間」などにもあった、家族から逃れようとするも最後の最後に逃れられないことに気づくという主人公の姿にひどく共感を覚える。さりげない描写にとてつもない文章の力を感じた作品だった。

    「質屋の女房」も好き。

  • 初めての安岡章太郎

    短編集

    「悪い仲間」などの青年ものより、際立つのは「陰気な愉しみ」だ。

    傷痍軍人の悲しい愉しみ。
    楽しみではなく、愉しみ。
    人の目を憚りながら、生きながらえる中に愉しみをも見出せない儚さ。

    心の凹凸を顕微鏡で覗くかのように隆々たる山並に変えてみせる、良い作品。

  • 慶応大学在学中に結核を患い、戦後、脊椎カリエスを病みながら小説を書き始めた著者が、世間に対する劣弱意識に悩まされた経験をベースに綴った10編から成る短編集。 
    戦中、戦後を哀しく、無器用に生きた学生の自堕落で屈折した日常をユーモアも盛り込んで描く。
    標題作「質屋の女房」は、戦時中、外套を質屋に持って行った学生と質屋の女房との関係を甘酸っぱく余韻を含ませて描いたもので印象に残った。学徒出陣で召集令状が来たその学生にとって一度きりの秘め事が結果的にはなむけとなったのだった。
    「ガラスの靴」は猟銃店で夜番をしている「僕」が散弾を届けに行った米軍軍医の屋敷で出会った風変わりなメイド・悦子との間に生じた特別な時間が生々しく描かれている。
    この他、兵役で病気になり、月に一度生活費をもらいにいく男の屈折した感情、厳格な母親を怖れ、呪縛を感じながらも反発する男子学生や悪徳仲間と現実逃避に終始する学生たちの姿を描く作品が盛り込まれている。

  • 肥った女

    源氏名君太郎が面白すぎる。
    最後はちょっぴり切ない

    吉原のシーンは暗夜行路の影響受けてそう

  • 目次を見て、また読んで、魅力のあるものがほとんどなかった。本作の読書は淡々と作業をする感じであった。特に気に入った作品がなかった。文体は静謐かつ読みやすい。期待したほど、楽しめなかったのが残念だ。

  • 2019年2月11日、「陰気な愉しみ」を読了。
    2019年2月13日、「悪い仲間」を読了。

    著者は、1920年4月18日生まれ。1953年に、「悪い仲間」・「陰気な愉しみ」で、芥川賞を受賞したとのこと。
    したがって、今回読了した作品は、著者が33歳頃に書かれたものになる。

    城北高等補習学校に通っていた時に、同い年の古山高麗雄ら浪人仲間と遊び歩いたようだ。
    城北高等補習学校は予備校で、城北予備校の前身のようである。その城北予備校だが、こちらは1987年に廃校になっているようだ。


    2019年年2月14日、「家族団欒図」を読了。

    251ページに、脊椎カリエスに病んでいた時期があったと書かれている。
    著者は実際に脊椎カリエスに罹患していたようだが、その脊椎カリエスを調べておく。

    「結核菌が血管を通じて脊椎に転移することで発症し、感染した部位に炎症が起こり、骨や椎間板が破壊されて膿(うみ)が発生する病気です。「結核性脊椎炎」とも呼ばれます。」

  • 仲良しグループの力学を扱った数編が印象に残った。息苦しさから逃げたくて何人かでつるんでいたら、グループの意思になんとなく引っ張られてもっと息苦しくなってしまう話。そのうちどうしたって人は一人なんだってわかるんだけど、若いときは一人でいられない苦しさがありますね。

    今読むと若者あるあるなので、ああそうね、というくらいの感想になってしまうところがある。でも、運がいいと(悪いと?)ずっと集団(会社とか特定の価値観とか)とつるむ人生を歩むケースもある。最後に、「それはそれで楽しかった」と思えるのなら、それはそれでよいのかもしれない。わたしも、「人はしょせん一人」教の一員なのかもしれない。

    高校大学のうちに読めばもっと印象が深かったと思うので、若い読者の皆さん、もしそういうのに関心があったらお早めにどうぞ。

  • まぁ上手いんでしょうけど、長旅の中で読むには当方のリズムと合わなかった。それでも後半に収められている表題作はぐっと引き寄せる力がありまする。
    しかし吉行淳之介といい、このお方といい、今でいうところの風俗に題材を求めるところを見るに、昔も今も変わらんという陳腐な結論に辿り着いて良いものやら。

  • 戦前学生特有の(徴兵制度に起因する、それに逆らう自由)行動・心情から戦後の家族まで、私小説らしい佳作な短編が揃っている。
    特に「ガラスの靴」「悪い仲間」が良かった。文章も読みやすい。他の作品も読んでみたい。

  • 学生時代(出征前)を描いた作品が一番多く、終戦直後がひとつ、戦後10年以上経った時代を舞台にしたものが2つ。芥川賞受賞作を含む。
    発表された時期はバラバラ。安岡章太郎の代表作を集めたと言っていいだろう。
    「ガラスの靴」は恋愛(それも未熟な恋愛)小説の傑作。若さと才能だけではなく、あの時代に生きていたからこそ書けた。今の上手い作家が同じ時代を舞台にしたところで、これは絶対に書けない。「待つことが、僕の仕事だった。」忘れられない。
    代表作だけあって、どれも良かったし、戦争中に浪人していた、母に愛された取り柄のない一人っ子の気分というのは、彼だからこそ書けたと思うが、自分が中年となり、かつては不在ながらも存在感と威圧感のあった父が老いた姿を描いた最後の2作も素晴らしい。
    もっと読みたい、安岡章太郎。

  • 読了

  • 短編集。
    ただ流されていくようでありながら、そこまで悲惨な境遇には陥っていない青年の話ばかり。
    でも十分に悲惨で、破滅的だけど、一方でなんとなくおかしみも感じられる。
    時代も風俗も十分感じられるけど、どれも今の時代に読んでも面白く、文学とはこういう言葉の力をもつのだなぁ、と関心するものばかり。

  • 短編集

    個人的には表題作の『質屋の女房』よりも、
    『悪い仲間』や『陰気な愉しみ』の方が好きで、
    社会に劣等感を抱きつつ中々前に進めない登場人物たちに非常に好感が持てます。

    『ガラスの靴』も読後感の素晴らしい作品です。

    短編で読みやすい作品ばかりですので、是非手に取ってほしいです。

  • 青春期はある意味、モラトリアムであるとおもいます。
    産みの苦しみを経て青年は次のステージへと進んでいくのが一般的な成長だと思うのです。

    しかし、ここでの主人公はモラトリアムとも言えない、本当に無駄な時間、糞みたいな時間を過ごしています。
    「誇り」も「覚悟」も無いから、女も抱けず、軍人にもならず、学生にもなれず、母親からも独立できずにいます。

    こんなクソ野郎が主人公のくせに、苦悩感が薄くさらりと仕上がっています。
    でも、それでも苦悩感が残っているんです。

    そんなバランスがとても心地よかったです。

  • 学校にもいかず何となく悪い方へと落ちこぼれてでも、最下層まではいけない中途半端な感じのひとが主人公。ガラスの靴は、狩猟店で夜のアルバイトをしている僕と、進駐軍のメイドの女の子が知り合って、進駐軍の主人が留守の間に食料を全部食べ尽くして、楽しく二人でふざけあってるところが好きだった。

  • 陰鬱で卑屈、

  • 追悼・安岡章太郎、ということで、今年亡くなられた「第三の新人」安岡章太郎の短編集を。1953年芥川賞受賞作もおさめられています。もうどれも、ほんとうにおもしろかった。戦後日本はこうであったのだな、という昭和感はもちろんあるのですが、今をもってしてもまったく古びていない。弱くて、ぐうたらで、どうしようもない個人の姿を描き、現実からいかに逃げ得るかを追求する。いつも追いつかれてしまうんですが、この短編集はそれでも悲壮感があまりないように思える。いや、最後は本当に恐ろしいんだけど、それでも基本的にユーモアでくるまれていて、追いつかれても追いつかれてもするりと逃げ出そうとするのだろうなあといった自由な空気が確かにある。「海辺の光景」もぜひ読みたい。戦後日本はこういう文学を生んでいたんだなあ、こういうひとがいてくれたんだなあ。ご冥福をお祈りします。

  • ■ガラスの靴
     バイトをさぼって配達先のメイドとよろしくやっちゃう話。「魅力のとぼしい」女に惹かれるっていうのがこの作品に共通して不思議なところ。

    ■陰気な愉しみ
     戦争で働けない身体になってしまい、現代で言うナマポ的なものを受け取ることで劣等感を感じる(と、同時にそれを愉しみにもしている)主人公のお話。自分と境遇は違うが、その気持ちは不思議と分かる気がする。

    ■悪い仲間
     伊坂幸太郎が書く型破りな友人キャラに近いものを感じるけど、みんなそれぞれに背伸びしてるところが面白い。

    ■夢みる女
     この本の中で異彩を放つ童話的な話。なんか怖い。

    ■肥った女
     やっぱりここでも外見的には醜い感じの女性に引かれる主人公。お母さんもぼっちゃり系女子(笑)だったようだし、何か母性でも感じちゃうのかしら。このあたりからグダグダ浪人生の話が続く。

    ■青葉しげれる
     落第してもあっけらかんとしてる。どことなく憎めないやつら。

    ■相も変らず
     ほんと相も変らずグダグダしてんなー(笑)
     医学部に入ったのに文学部に通うなんてもったいねえよ!! と思ってしまうのだった。

    ■質屋の女房
     おっ……おセンベツ!! 質屋の女房の色気がすごい。
     女房もちょっと恋心抱いてたんじゃないかしらなんて思う。

    ■家族団欒図
     ここから2作は戦争が終わって、高知県(K県となっている)のオヤジ登場。ちっとも枯れ切ってない(笑)オヤジもなかなかダメなやつだった。
     結末はなかなかハッピーな感じ……かと思いきや。

    ■軍歌
     ついに主人公が大爆発する(いや、短編なので別に同じ主人公とは一言も書かれていないのだけど、作者の私小説風の作品なので)。この大爆発を、学生のころの作者はずっと避けていたような感じがする。そのくせ、親に黙って遊び歩いたり、遊郭に行ってみたり、文科に行ってみたりするんだな。


     比喩表現のセンスに脱帽。たとえツッコミ芸人もびっくりだぜ。

  • 『ガラスの靴』の前半は、いつ読んでも斬新。

    『質屋の女房』は時を経て読んでみると
    淫靡さが薄れていた……

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著者プロフィール

安岡章太郎

一九二〇(大正九)年、高知市生まれ。慶應義塾大学在学中に入営、結核を患う。五三年「陰気な愉しみ」「悪い仲間」で芥川賞受賞。吉行淳之介、遠藤周作らとともに「第三の新人」と目された。六〇年『海辺の光景』で芸術選奨文部大臣賞・野間文芸賞、八二年『流離譚』で日本文学大賞、九一年「伯父の墓地」で川端康成文学賞を受賞。二〇一三(平成二十五)年没。

「2020年 『利根川・隅田川』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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