- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101131016
感想・レビュー・書評
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北さんはエッセイしか知らないので、彼の小説が読みたくてこれを借りてみた。想像以上の重たさだった。特に表題作、読後感が凄い重い。でも嫌いではない。「岩尾根にて」の不思議な感じが特に好き。
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表題作の他にも短編が一緒に収められている。
個人的には表題作ではなく、蝶採集人が語る「谿間にて」が好み。動物を相手に、厳しい自然の中窮地に追い込まれながらもひたすら闘う。ヘミングウェイの老人と海にも通ずると勝手に思っている。
表題作も、初めは淡々と客観的に語られ、患者はもちろん医者も変わり者、というように始まった。そこからの切り返し。しかし語り口は変わらず。絶妙だと思った。 -
201.07.30読了
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「岩尾根にて」
山中で自我を失ったような気分になる話
クライマーズ・ハイかな?
「羽蟻のいる丘」
自暴自棄のため放射能Xの女王蟻に自分を重ねる女がいて
気の毒なのはそれにつきあわされる幼い娘だが
「霊媒のいる街」
逃げ場のない大人たちはロマンを求めてたわごとを言う
本当に過去を忘れられない坊やはハードボイルドにひたって生きる
「谿間にて」
蝶の採集で名を成したいあまりに精神の様子が少しおかしくなった人の話
かつて失われた全能性が蝶のまぼろしとなって現れるのだろうか
「夜と霧の隅で」
ナチスの断種政策によって収容所送りにされる患者を1人でも救おうと
無謀かつ無意味な実験手術に走る精神科医の話
まったくの本末転倒である -
第二次大戦下、ナチスによって行われていた障害者の虐殺を題材にした物語。病院の医師の無力感はいかばかりであったか。国家の利益にならないものと切り捨て、死へと連行するSS、一人でも多くを救おうと常軌を逸した治療を患者たちに施す医者。誰が狂っていて、誰が狂っていないと一体誰が断定できるだろう。あの時代は誰もが精神を病まずにはいきてきけなかったのではないだろうか。なんとも後味の悪い物語ではあるが、相模原の障害者施設事件のことを思うと、ただの昔の物語とは言えない気がする。
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スゴ本つながりで
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「夜と霧の隅で」ナチスのユダヤ人だけでなく不治の精神病者まで間引いていく命令に、考えられる治療を全て行い、患者が連行されていくのを防ごうとする医師。不治の対称でなかった日本人だけが治り、ユダヤ人の妻がもういないことを悟る。退院間近に自殺してしまうが、様々な苦難の現実に覚醒され、彼を絶望に導いたのか。他初期作品4編。2016.8.21
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2016.08.12
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・岩尾根にて
・羽蟻のいる丘
・霊媒のいる町
・谿間にて
・夜と霧の隅で
の五編。
最初の1編を読み終えて、あれ?
これって別の話し?「夜と霧の隅で」でじゃないよね?
とよく見たら、5編掲載の1編目であった。
「夜と霧の隅で」
読み始めて、ありゃ?
これは、同じ芥川賞受賞作品でも、又吉君の「火花」とはちょいと違うな。大丈夫か。読み終えられるのか。
苦手な、カタカナ名前がたくさんでてくるし。。
でも、終盤は一気に読んでしまった。
読み終えて、何ともいえぬ、重いもの(別に嫌な感じじゃなく)が残った。 -
「岩尾根にて」、「羽蟻のいる丘」、「 霊媒のいる町」、「谿間にて」、「夜と霧の隅で」の五編。
山を舞台にした話と、脳・心理・精神医学に関わる話が多い。何かを考えさせられるというよりは、不気味な絵を見ているような、引きこまれて不思議な世界に連れて行かれそうな短編が多い。
「夜と霧の隅で」が面白かったので星を一つ増やした。
第二次大戦末期、ナチスは不治の精神病者に安死術を施すことを決定した。その指令に抵抗した精神科医たちは、不治の宣告から患者を救おうと、あらゆる治療を試み、ついに絶望的な脳手術まで行う。
精神病者を救うために博打のような手術に臨む医師らの苦悩。その中にひとり入院している、ユダヤ人を妻にもつ日本人医師高島のストーリーが挟み込まれる。「夜と霧」という言葉が比喩で何度も現れ、精神病者を、医師を、病院を、戦争を、個人を、人を、周囲から切り離していく。答えもゴールも見えないような、内臓の縮むような小説だった。