鬼怒川 (新潮文庫 あ-5-15 新潮文庫)

  • 新潮社 (1980年5月25日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (448ページ) / ISBN・EAN: 9784101132150

みんなの感想まとめ

時は明治、絹の里・結城を舞台に、貧しい農家に生まれた女性の生涯が描かれています。主人公チヨは、機織りの腕前が評価され、温かい家庭に嫁ぎますが、夫は戦争の影響で無気力に。彼女の苦労や家族の運命を通じて、...

感想・レビュー・書評

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  • 有吉作品って、どうしてこんなに面白いのか。紬を織って生きていた農家の人々の暮らしを、決してダレずにてきぱきと、でも人間が生きている手触りは匂い立つほどに書き出して見せる。渋いテーマなのに、次から次へと読みたくさせる。本当に小説の神様だなと思いますね。

    置かれた環境で必死に生き抜いてきた主人公の老醜まで克明に描き出すのは有吉作品ならではだけれども、今回のラストの残酷さはかなりのもの。
    埋蔵金という一攫千金に夢を見て身を持ち崩す男たちと、地に足をつけて目の前の仕事と家族の幸福に心を砕く女たちの対比を描きたかった作品なのかな。当初の『黄金伝説』というタイトルのが合ってる気もする。
    家に忍従し、子のために鬼にもなる女の強さと懸命さが、いいとも悪いとも言わないフラットな描き方で、ひしひしと伝わる。
    手仕事の良さ、尊さにも思いを馳せずにはいられない。細かい作業は苦手だけど、機織り、ちょっとやってみたいと思った。

  • 時は明治、舞台となる地は絹の里・結城で、貧しい農家に生まれたチヨの生涯が描かれている。
    チヨは幼い少女時代から機織りの腕前に評判がたち、16歳を迎えると同時に日露戦争から帰還した英雄のもとに嫁いだ。
    チヨの実家の殺伐とした困窮さとは異なり、嫁ぎ先は貧しいながらも温かい家庭環境で、チヨは初めて幸せを感じた。
    舅姑もチヨに優しく接してくれて、農作業よりも結城紬の機織りを主な仕事としてチヨは家計を助けていた。
    ただ英雄であるはずの夫・三平は、戦地での過酷な体験が影響しているのか、精神的に傷を負って無気力な男に変わり果て、仕事もできない男になっていた。
    チヨの兄も大陸で戦死し、そしてチヨの息子・三吉までもが陸軍に志願して太平洋戦争に出征した。
    そして終戦を迎えた数年後、奇跡的にチヨの息子は無事に帰国するのだが、父親の三平同様に無気力な男になっていた。
    そしてチヨの孫となる三郎は少年の頃から頭脳明晰で、村の将来を背負って東京の大学へ進んだのだが、学生運動によるセクト間の内ゲバで大怪我を負い、村に戻ってきた。
    そしてやはり無気力な男となって、仕事もせずにダラダラと過ごしていた。
    三平、三吉、そして三郎の3人の男に共通するのは、突如東京で買い求めた古本を熱心に読み続け、その後にシャベルを持って出掛けるようになったことだ。
    何に男たちは取り憑かれたのか⋯。

    一昔前の日本社会での女性のやるせ無い立場を、有吉さんは見事に綴っている。

  • 有吉佐和子氏の初期の作品『紀ノ川』『香華』は、女性物との印象で、
    若かったわたしはそのような作品と思われるものは、同時代的には読み継がなかったのです。

    でも、近ごろ読みだした未読作品群の中の『鬼怒川』は、女の一代記といえばいえるのだが、
    それだけではない作家のメッセージが、物語の中ににじみ出ているのに気が付かされた。


    「時は明治時代、絹の里・結城の機織りは女性の仕事、優秀な腕持つ女性が有利な結婚ができる。
    家が貧しい16歳のチヨはその美貌と機織りの腕で、ワンランク上の家に嫁いだ。
    夫は日露戦争の生き残り勇士。
    けれども、その戦争体験は彼を精神的に痛めつけて無気力にしてしまっていた。
    働こうとしない夫は土地に伝わるの夢を見はじめて、家を顧みない。
    チヨの苦労。
    そして時代は移って、太平洋戦争から復員した息子、学生運動で警察に逮捕された男の孫も、
    絹の里に戻ってくると、同じように無気力になり、同じように黄金埋蔵伝説に取りつかれる
    という幸せではないチヨの生き行く道。」


    というと、やっぱり同じかあ、となるのだが、
    戦争の不条理を言いながら、男脳女脳のどうしようもない違いや、
    かえって、その違いのおもしろさを描いているのではないかと思う。

    わたしは男女の区別が苛立たしいと思って幾星霜。
    しかし、違いこそ人間の生きるエネルギーになっているのだ。

  • 面白すぎた。
    戦前の貧農の暮らしをつぶさに知ることができ、現代人ってなんと贅沢なんだろう、申し訳なさすぎるとひしひし感じた。
    田舎のおばあちゃんと話す時、お互い感じる違和感というか、齟齬のようなものの理由が解明される感じ。白米絶対に食べ残したり捨てたりしないと誓う。

    また、女にとって、息子を持つ母親にとっての戦争を知る文献としても最適。
    帰ってきて埋蔵金に夢中になる、ロマンを求める男の愚かさも、無理はないのかもと、少しは理解して受け入れられるようになった。

    最近知った「死を知った時、人は心に鬱を抱える。それを飼い慣らせるかどうかで生き方が変わる」という見解があるのだが、
    チヨにとって死の概念とは、突然現れて災厄をもたらした三平の戦友だった。そこからチヨの性格が変わっていた。ターニングポイントがとてもわかりやすい構成だった。

    有吉佐和子さん本当に深い。大好きです。

  • 結城紬の名手といわれるほどの織り子チヨの人生。
    その土地の歴史や結城紬について知ることができ、チヨの人生を生きているかのような近さで読むことができた。
    たんたんと進んでいく。女性の人生が経糸で男の人生が緯糸なのか。
    一人の人が生き、老いて命がなくなるまでという時間は社会の情勢が大きく様変わりし、人の意識も変わるのに十分な時間なのだとまざまざと。
    自分の人生の終わりについても考えさせられ。
    戦争についての社会風刺にも思われ。

  • 貧しいが結城紬を織る才能があるキヨ。嫁ぎ先の義父義母に愛された。日露戦争の勇士と呼ばれ帰ってきた男に嫁いだキヨ。

    その時代空気、女の団結、文化。

  • 22.6.3〜5

    最後怖すぎ〜

  • いやはや救いがあるのか無いのか混然としているけれども、流石は流行作家だった方でしょうか、すらすらと読ませてくれて面白かった。
    何だか2023年の現在がこの本の筋をなぞっているような気もして、歴史は繰り返すのか?ある意味正念場を迎えているかもなぁとこの小説を読みつつ思ったりもして。
    有吉佐和子、今はあんまり読まれないんだろうか?それなら惜しいなぁ。

  • 「恍惚の人」や「非色」など好きな作品だし、女性の一代記みたいなの書かせたら外れはないだろうと読んでみた。前半わかりづらい方言やイメージできない織物用語がしばらく続いてしんどかったので、やめそうになったけど、なんとか読破。結城紬というものの存在を知ったし、鬼怒川は絹川だったことを知った。

    戦争だから仕方ないと言えばそれまでなのかもしれないが、代々の男連中がどいつもこいつもクズでイラついてしまった。今で言う所のPTSDということか・・・最後学生運動に巻き込まれるのはテレビを見ているシーンで分かってしまうが、日清から始まり、日露、太平洋戦争を経て戦後までの地方の農村の雰囲気は、自分のも地方の農村の生まれなので、似たような感じだったんだろうなぁと思った。

  • 日露戦争から学園闘争までの時代を、鬼怒川の畔結城で機を織り続けた女性の一代記。終わり方があまりにあんまりだったけど後書きで原題が「鬼怒川」で無かったのを知り納得。

  • (7/18一読、9/15二読)

  • 戦争に翻弄された時代と鬼怒川周辺の集落の様子と相まってなぜか黄土色の光景が浮かびました。

  • 悪い意味で極上の読後感。とてもやるせない気持ちになります。
    大の男達を腑抜けにしてしまう戦争(一人は安保闘争ですが)の恐ろしさや、
    彼らが生きる活力を再び取り戻すきっかけとなった埋蔵金伝説が返って彼らの命を奪うことの皮肉、
    そして、結城紬の名織り手として名高く妻としても母としても強く気丈であった主人公チヨが第四章(最終章)で晒す老醜。
    決してつまらないわけではありませんが、読んだ後は「なんだこれ!」の言葉しか出てきませんでした。
    物語の中で語られる結城紬の歴史や模様のことはとても興味深く面白いです
    タイトルの川になじみ深い場所に住んでいる人にとっては、出てくる地名を地図で確認するのも楽しいかもしれません。私がそうでした。
    それにしても、チヨの息子の嫁はこの後どうするんでしょうね・・・。

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著者プロフィール

有吉 佐和子(ありよし・さわこ):1931年、和歌山市生まれ。作家。東京女子大学短期大学部英語科卒。1956年『地唄』で芥川賞候補となり、文壇デビュー。以降、『紀ノ川』『華岡青洲の妻』『恍惚の人』『複合汚染』『和宮様御留』など話題作を発表し続けた昭和を代表するベストセラー作家。1984年没。

「2025年 『有吉佐和子ベスト・エッセイ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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