- 本 ・本 (313ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101133133
感想・レビュー・書評
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古い本だが、SFチックな感じもあり、現代ドラマのようでもあり面白かった。
自分の息子を東大に合格させたいという願望を持つ女性。お見合いの時点でその事を告げ、合意の上で結婚。まるで動物実験のように、子育てをしていく。夫婦ともに、教育最優先で、自分たちに極端な我慢を強いる。更に、そこには長男だけでは無く、次男の存在があり、教育を優先すべき我が子を選択しなければならない。そこにはどんなドラマ、結末が待ち受けているのか。
学歴志向、偏差値志向をカリカチュア化すると、こうした小説が出来上がるのだろう。城山三郎の皮肉小説だったのか、当時の風潮を嘲ったか。いずれにせよ、興味深いシミュレーションでもある一方、今でいうヘリコプターペアレントとの境界線はどの辺にあるのかという点も気になる所。いつの時代も親の愛とは、理想の押し付けと表裏である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ゾッとした。
「学歴社会の日本において、より多くの選択肢を子供が持てるように東大に入れる」という考えは一理あると思いますが、そのために子供がどれほどの代償を払っているか…子供の為と口では言いつつもエゴを満たす為に盲目な思い込みをする母親の姿が恐怖でした。また子供や母親の気持ちよりも自分が可愛くなる父親の姿にも不快感が残りました。
ただ教育は難しいと思います。勿論自分が遂げられなかったことを子供に託したくなる親の気持ちもわかる。けれども、自分の親がしてくれた様に、子供がやりたいことを後押ししてやれる親になりたいと思いました。
また血は繋がっていれど、親も子も1人の人間に過ぎず、個人vs個人で接するというアメリカの文化は見習うべきところがあると思いました。礼儀・尊重はあれど上下関係はないとの理解です。
世にはびこる様々な説を馬鹿みたいに信じず、妥当性を検証する癖をつけるよう心がけます。 -
子どもの教育について、ドキッとさせられる小説だ。
ここまで極端ではなくても、子を思う親の気持ちとしては、同じような思いがあることは否めない。ある意味、自分への戒めにもなる小説だった。
当たり前だが、勉強だけでなく、感性や人間性も大事よねと実感した。
途中から読むのが恐くなってくるが、最後はある意味で、ハッピーエンドなのかも。
ちょっと男性目線過ぎるのかもと思う部分もあるが、それはそういう時代だったのかもしれない。 -
病的なまでの教育ママっぷりが気持ち良いほど突き抜けた不快感を煽る作品。今時見られない執念で、一昔前の作品だなぁという感じを受けるも、現代のモンスターペアレンツに通ずる点もそこかしこに感じられる、特に子供の幸先暗い将来が類似している。子供の健全な成長は親に依拠するものなのだと改めて痛感させられる。孟母三遷の悪い例。グイグイと作品の中に引き込まれる展開と、簡潔で明瞭な叙述が秀逸。非常に面白かった!
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子供に自由な選択をさせるために東大を目指させるという考え方は一理あるけど、結局子供を自分の思いのままにしようというのは親のエゴだと実感。救いのないラストは官僚たちの夏に通ずるところがある。
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ここまで極端に書かれれば、英才教育のバカさ加減がはっきりしますが、ここまでは行かない程度のバカなら自分にも思い当たるところがあるわけで、ただ笑っているだけでは済まされない後味の悪さが残りました。
昭和53年に出た本ですので、ある部分では、今の方が加熱している部分もあるかもしれません。現実が小説を越えるということはあるわけですが、子を持つ親として、子育てをよくよく考えたいものです。
最後に奥さんが次男に乗り換えないのがせめてもの救いと思ったけれど、一晩寝て考えてみたら、結局奥さんは何が起きても最後まで徹底しているという意味なんだと思い直しました。いやーこわいこわい。 -
千枝はお見合ひの席で、普通では考へられない質問を連発します。
あなたのIQ(知能指数)はいくつ?
出世したいですか? 諦めてゐる? それは結構なこと。
御趣味は? 無趣味なの? 結構な答へです。
千枝は、今後生れるであらう自分の息子(と決め付けてゐる)に、徹底的な英才教育をし、東大に合格させることに人生の目的を決めてしまつてゐたのです。
その第一歩として、その父親になるに相応しい男性を物色してゐたといふ訳であります。
IQ153、出世に興味なし、趣味無しの松沢秋雄は理想的な相手として千枝は結婚を決めました。
IQの高い男児を出産するのは、25-26歳がベスト、といふ情報を得て、24歳に見合ひをしたと、まづそこから始める周到さであります。
待望の長男が誕生しますが、母親の千枝は、彼に自分が出来るすべてを注ぎ、英才教育をほどこします。並みの教育ママではありません。当然夫の秋雄にも協力を求めます。秋雄は振り回されながらも千枝の真剣さに圧倒されて従ふのであつた。
二人目の子供を産むまでには、3年の間隔を空ける計画だつたのですが、年子の弟が生れます。
これがまづ最初の計画違ひと申しませうか。
最初はごく小さなほころびから、悲劇的な結末へ一気に話は進んでいくのでした...
実はこの作品、30年くらい前にテレビドラマになつてゐます。当時私も観ました。
城山三郎さんの原作と知り、経済小説の城山氏がホームドラマ? と意外に思ひました。テーマ曲まで耳に残つてゐます。
千枝役は長山藍子さんで、鬼気迫る母親を演じました。夫は中谷一郎さん。そのおろおろぶりが印象的。風車の弥七よ、もつとしつかりしろとつひ声をかけたくなるほど。
さてこの小説、さすがにここまで戯画化されると教育問題としては「良質な大人の寓話」と捉へる人が多いかもしれませぬ。しかし根底にあるのは、やはり親子関係の問題ではないでせうか。
親離れ、子離れできぬ親子、子供にしか生甲斐を持てない母親、美味しいところだけしやしやり出る父親...30年経つて、大きく変つたと、果たして言へるでせうか。
http://genjigawakusin.blog10.fc2.com/blog-entry-63.html -
学生時代に教育心理学で読んだ本。
この本で城山三郎の存在を知った。
井上ひさし作『偽原始人』にも似た興味深くも悲しい話です。
受験勉強自体が辛いんじゃなくて、ワケが判らず努力を強いられるのが辛い。人間、興味を持ったり、責任感を感じたことにはいくらでも努力ができるのだ、と思う。 -
読んでいて悲しくなる
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城山三郎の作品





