つゆのひぬま (新潮文庫)

  • 新潮社 (1972年3月1日発売)
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  • 本 ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134192

感想・レビュー・書評

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  • 山本周五郎さんの短編9編。
    とにもかくにも短編を多種多様遺された山本周五郎さんに脱帽。

    臍を噛むような悔しさややるせなさ。
    自分の思い通りに事を運べぬもどかしさ。
    つい他人と比べて抱いてしまう嫉妬心ややっかみ。
    変えることのできない過去への後悔や無念。
    駄目な人を助けるのは自分だけと一途に思い込む共依存。

    背景や身分の違う老若男女のそれぞれの営みのなかで、微細な心の動きが書き連ねられ、時が過ぎゆく。

    不遇な家族を支えるため自分の人生を棒に振り尽くそうと腹を括った姉おしずを描いた『妹の縁談』

    『水たたき』では心から大切に想う伴侶に自分がかつて行った不義理と同様の行為を許せるか…。人を想うとは?

    『凍てのあと』では貧乏長屋の隣人同士、身分の違う辰造と与十郎の過去・現在・未来。信じる人に裏切られた人がまた再び誰かを信じることができるのか。「心通じる」とは一体?

    表題『つゆのひぬま』の印象的な一節を抜粋:
    P353 舞台は佃島の「あひる」(著名な岡場所地域)
    「こういうところへ来る客はしんじつがないってこと、あんたも知ってるでしょ、あの人たちに真実がないとは云わなくってよ。けれどもこういうところへ来るときは普通じゃないわ、仕事がだめになったとか、家にごたごたがあるとか、仲のいい友達と喧嘩わかれをしたとか、ゆくさきに望みがなくなったとか、それぞれわけがあって、やけなような気持ちになっていることが多いわ、だから、あそぶことは二の次で、むやみにいばるとか、あまえるとか、だだをこねるとかするでしょ、いつかあたしの出た客で、子守唄をうたってくれって人がいて、あたし一晩中、知っている限りの子守り唄をうたったことがあるわ」

    以上抜粋。
    「あひる」地域はいまや億を軽々越えるタワマン林立エリア。なんだか皮肉。そういう地域だった…。

    決して美談だけで終わらないのが山本周五郎さん。
    そうそう人間そういう危機に瀕することが幾度となくあるよなあ、生きていれば。
    今はその心の穴を承認欲求で満たそうと必死でSNSで炎上に加わったり、仕合せアピールの切り取りしているんだろうな。

  • 山本周五郎、「赤ひげ診療譚」の、映画化されたときには香川京子が演じた役の話がずーっとひっかかってる、のと、数十年前は大好きだったのだけど、なんとなく、もういちど読んでみないとなあ…という気持ちもあり、というところで、たまたま家で未読の文庫本が発見された。

    まだ全部読んでないけど、たとえば「水たたき」のおうらさん。自分の心を底まで見据えての行動は美しい。でも美しすぎて、おちつかない。それは自分が浅いから、かもしれないが。

    「凍てのあと」は良かった。似たもの同士である意味似た境遇、だけど職人と武士、の隣同士が、一人が先に立ち直りもう一人を助けることになる。主人公のお母さんもほんとに気が長く、お隣さんをも、もちろん自分の息子のことも見守ってて偉い。

    「つゆのひぬま」カガキョンうんぬんの件がまだうっすら気になりつつもこれは良かった。手堅く商売するかかえ茶屋(?)の、お上の代理もできるしっかり者で、客に惚れるなんてと思っている女と、朋輩のおとなしい女。屋根瓦の上に登るけど伊藤大輔ではないので御用提灯でなく高潮にやられて。そこへ船で助けにくるおとなしい女のなじみ客。しっかり者の女の気持ちが変わる。映画にしてもいいと思う。ちゃんとした人がすればね。

  • 切ないと言うより、酷なくらいの哀しみの中に
    ほんのひと握りの、奇跡に近い希望を残して終わる短編集
    もう少しだけ若い時に読めば、情感溢れていいなぁと思えたのだろうか?
    今の私にはちょっと辛いかなぁ
    上手いし面白いけど
    続けて読むにはメンタル的にしんどい

  • 山本周五郎の短篇小説集『つゆのひぬま』を読みました。
    ここのところ、山本周五郎の作品が続いています。

    -----story-------------
    深川の小さな娼家に働く女“おぶん”の、欺かれることを恐れぬ一途なまごころに、年上の“おひろ”の虐げられてきたがゆえの不信の心が打負かされる姿を感動的に描いた人間賛歌「つゆのひぬま」。
    そのほか、江戸時代を舞台にした作品7篇に、平安朝に取材し現代への痛烈な批判をこめた「大納言狐」、現代ものの傑作「陽気な客」を加え、山本周五郎のさまざまな魅力を1冊に収めた短篇集。
    -----------------------

    1945年(昭和20年)から1956年(昭和31年)に発表された9篇が収録されています… 初めて読む作品ばかりでした。

     ■武家草履
     ■おしゃべり物語
     ■山女魚
     ■妹の縁談
     ■大納言狐
     ■水たたき
     ■凍てのあと
     ■つゆのひぬま
     ■陽気な客
     ■解説 木村久邇典

    山本周五郎の作品にしては、まずまずでしたね… そんな中で、、、

    人間的には誠実で一徹だが未熟さもある青年武士の成長が暗示される『武家草履』、

    驚嘆すべき口舌の才能に恵まれた少年が、寡黙で政治に無関心な藩公の眼を、その弁説で藩内の政争に向けさせて争いを終結させる『おしゃべり物語』、

    愛妻に浮気を薦めるという歪んだ展開から、行方不明になった妻を探すというミステリ的な展開に変化し、亭主の悔恨や妻の魅力的な人柄が印象に残る『水たたき』、

    娼家に働く女の一途なまごころに、虐げられた不信の心が打負かされる姿を感動的に描いた『つゆのひぬま』、

    の4篇が印象に残りました。

  • 亡父の蔵書より。
    初山本周五郎。氏の名は作家としてよりもネスカフェのCMでまず耳にした。

    かつてはなにがあろうともこの種の作品を手に取るような読み手ではなかったが、機会があれば読むくらいの活字廃にはなったようである。
    近頃強いて読むようにしてみた文学作品も、題材そのものには興味がなくとも、文章の美しさやおもしろさで惹かれることもあると知った。本書も、そのように読めた。

  • 読み終わってからすぐに感想書かなかったせいもありますが、ほとんど印象に残ってない。。。

  • 昭和二十年初頭から三十年初頭にかけての周五郎の作品集です。
    周五郎さんが大きく脱皮するのが二七年頃といわれていますので、それを挟んだ数年になります。幾つかの作品は脱皮前とは言うものの、その中でも優秀な作品が選ばれているのでしょう、全体としての質は高く感じられます。
    とはいえ、やはり後ろに行くほど、例えば”水たたき”などの作品は、構成も複雑で、物語としての深みは増すようです。

  • 武家草鞋
    つゆのひぬまが好きでした。ハッと気付きのある物語です。短編で展開がはやいのでどれも読みやすいです。

  • 「武家草鞋」「つゆのひぬま」がよかった。「つゆのひぬま」は、昔吉永小百合と長谷川裕美子、松山政路というキャストでドラマになっていて、それをCSでみて読んでみた。

  • 戦後から、昭和30年をすぎた頃の作品。この頃の作品はおもしろく、良くできている。「武家草鞋」「凍てのあと」「つゆのひぬま」が良かった。13.5.9

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著者プロフィール

(やまもと・しゅうごろう)
1903~1967。山梨県生まれ。小学校を卒業後、質店の山本周五郎商店の徒弟となる。文芸に理解のある店主のもとで創作を始め、1926年の「文藝春秋」に掲載された『須磨寺附近』が出世作となる。デビュー直後は、倶楽部雑誌や少年少女雑誌などに探偵小説や伝奇小説を書いていたが、戦後は政治の非情を題材にした『樅ノ木は残った』、庶民の生活を活写した『赤ひげ診療譚』、『青べか物語』など人間の本質に迫る名作を発表している。1943年に『日本婦道記』が直木賞に選ばれるが受賞を辞退。その後も亡くなるまで、あらゆる文学賞の受賞を拒否し続けた。

「2025年 『山本周五郎[未収録]時代小説集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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