- Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101134352
作品紹介・あらすじ
五年の在任中、署でも官舎でもぐうぐう寝てばかり。ところが、いよいよ他県へ転任が決ると、別れを悲しんで留任を求める声が市民たちからわき起った…。罪を憎んで人を憎まずを信条とする"寝ぼけ署長"こと五道三省が、「中央銀行三十万円紛失事件」や「海南氏恐喝事件」など十件の難事件を、痛快奇抜で人情味あふれる方法でつぎつぎと解決する。山本周五郎唯一の探偵小説である。
感想・レビュー・書評
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戦後の『新青年・探偵小説特大号』に覆面作家として掲載され好評を得たという、山本周五郎唯一の短編探偵小説10篇。 動作は鈍く、言葉はたどたどしく、風采のあがらぬ<五道三省(ごどうさんしょう)>という独身の警察署長は、5年の在任期間中、署でも官舎でも寝てばかり。ところがこの署長さん、英仏独三カ国語を話し、漢文もこなせる語学力の加え、物凄い読書力をもった驚くべき才能を備えており、難事件にぶちあっっても、罪を憎んで人を憎まずの信条とする人情味あふれる解決に、市民からヤンヤの喝采をあびる人気ものであったのです。
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地方都市の警察署に赴任してきた署長が数々の事件を解決していく様子を、近くで見ていた主人公が回想している。いつもぐうぐう居眠りしている署長は「寝ぼけ署長」と呼ばれ無能だと評判も立つほどだったが、赴任中の犯罪事件の数も少なく貧民をはじめ住民たちからの信任も厚い。
署長は常に貧しい人たちの味方側に立ち、権力者やお金持ちに対する視線は厳しい。
「犯罪は懶惰な環境から生れる、安逸から、狡猾から、無為徒食から、贅沢、虚栄から生まれるんだ、決して貧乏から生れるんじゃないんだ、決して」 -
初・山本周五郎本でした。短編だからか、無駄な形容なくすっきりした文章で、でも味わい深く、そんな文章がこの署長の人物像とぴったり合った。
こんな人いい、こんな風に生きられたらよかったな。本の中だけでもこんな人と会える、これが本の醍醐味。面白かった。 -
山本周五郎の連作ミステリ短篇集『寝ぼけ署長』を読みました。
山本周五郎の作品は今年2月に読んだ『柳橋物語・むかしも今も』以来ですね。
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“寝ぼけ署長”こと五道三省が人情味溢れる方法で難事件を解決。
周五郎唯一の警察小説。
五年の在任中、署でも官舎でもぐうぐう寝てばかり。
転任が決るや、別れを悲しんで留任を求める市民が押し寄せ大騒ぎ。
罪を憎んで人を憎まず、“寝ぼけ署長”こと五道三省が「中央銀行三十万円紛失事件」や「海南氏恐喝事件」など十件の難事件を、鋭い推理と奇抜な発想の人情味あふれる方法で次々解決。
山本周五郎唯一の警察小説。
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雑誌『新青年』の1946年(昭和21年)12月号から1948年(昭和23年)1月号に連載された警察小説… 作中の時代設定は戦前となっており、作中に登場する警察機構も内務省時代となっています、、、
また、連載当時は作者名が伏せられ「覆面作家」名義で発表され、全3話で終了予定だったようですが、読者から好評だったため連載が延長され、全10話となったそうです。
■中央銀行三十万円紛失事件(『新青年』1946年12月号)
■海南氏恐喝事件(1947年1月号)
■一粒の真珠(1947年2月号)
■新生座事件(1947年3月号)
■眼の中の砂(1947年4月号)
■夜毎十二時(1947年5月号)
■毛骨屋(けぼねや)親分(1947年9月号)
■十目十指(1947年10月号)
■我が歌終る(1947年12月号)
■最後の挨拶(1948年1月号)
■解説 中島河太郎
ある地方都市の警察署に、五道三省(ごどう さんしょう)という風変わりな署長が赴任してきた… 署でも官舎でも寝てばかりで、口さがない新聞からは「寝ぼけ署長」というあだ名をつけられ、署内でも世間からもお人よしの無能だと思われていた署長だが、5年後に離任することになった際には、署内からも世間からも別れを惜しむ人々が続出し、貧民街では留任運動すら起こされることとなった、、、
五道署長の在任中、犯罪事件は前後の時期の十分の一、起訴件数も四割以上減少していた… そのため「寝ぼけ署長でも勤まる」などと揶揄されていたが、実は切れ者で辣腕家の署長が、いち早く真相を突き止めており、しかも、人情家の署長が、罪を憎んで人を憎まずの精神から、過ちで罪を犯してしまった人間を可能な限り救済しようと、巧妙に工作していたからだったのである。
そんな署長の活躍ぶりを、署長の秘書のような役割をつとめていた「私」が回想する…… 。
ジャンル的には警察小説なんでしょうが… 人情モノ、人情事件簿的な色の濃い作品でしたねー 警察署長・五道三省の弱者に優しい眼差しは『赤ひげ診療譚』の雰囲気を感じさせられましたね、、、
地元の有力県議を向こうに見事な啖呵を切り、五道署長のもうひとつの意外な顔が明らかになる『毛骨屋親分』、
地域のコミュニティから外されてしまうことの恐怖をテーマにした『十目十指』、
密室殺人(自殺?)を扱い本格ミステリの雰囲気が漂う『我が歌終る』、
そして、警察署を静かに去っていく『最後の挨拶』、
あたりが印象に残りましたね… 人を憎んで罪を憎まず ですね。 -
周囲には油断させといて、最後は平和に解決のパターンにはまった。こんなリーダーになりたいと思ったりした。
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居眠りしているかのように衆生の心、事の本質をつぶさに見抜く署長五道三省の姿は、まさに仏の半眼の如しといったところ。読み進めるに従って署長に惚れ込んでいってしまう。
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さすがに古すぎる^^;
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署長はいつも寝ぼけているが、署長が就任している間は事件が起こらない、つまり、リスク管理がきちんと出来ているが、周りからは「寝ぼけているだけ」と評価されてしまう、という考えの例として、この本が挙げられていました。
気になったので読んでみましたが、戦後の日本の時代背景を反映した小説でした。署長の考え方は素敵だと思いますが、少し理想的で(ストイックすぎる部分があります)、その様な謙虚な生き方をしていては、通常署長にはなれないし、苦しい事に耐えるばかりでモチベーションが続かないと思いました。