彦左衛門外記 (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101134376

感想・レビュー・書評

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  • 山本周五郎ってこんな砕けた作品を書くんだと、ちょっと驚いてしまった。
    でも、時々声を出して笑ったりしたから、結構好きかも。
    大久保彦左衛門が好きになった作品だ...が、これでいいのか??

  • あらすじに『抱腹絶倒の異色作』と、あるが、抱腹絶倒とまではいかなくても笑える作品。
    山本周五郎は、初めて読むのに異色作を手に取ってしまった……
    他の作品も気になるところ。

  • 山本周五郎が、こんな酷い小説を書いていたとは。まかり間違って山本周五郎の最初の本が当書だったりしたら、二度と山本周五郎を手に取らなくなることうけあい。

  • 数ある山本周五郎作品の中でもとびきりの異色作

    裏表紙のあらすじを読むと、「抱腹絶倒の異色作」なんて書いてあったので滑稽ものなのだろうなと思って読み始めました。有名な長編作では人の生きる姿勢を問いかけるような真面目な作品が多い山本周五郎ですが、短中編の中には風刺の効いた作品や笑えるような作品もかなり多いです。ただ、そんな中でもとびきりの異色作でした。

    解説にも指摘がありました。

    たぶん『彦左衛門外記』に接した多くの山本周五郎ファンは、おやっとはじめ思われたに違いない。これは自分が愛読し、なれ親しんで来た、いつもの山本周五郎とは違うと。

    まさにその通り。周五郎作品を読んでる人ほど感じる違和感。ファンや世間のイメージを完全にぶち壊しにいく姿勢が見て取れます。
    こういう挑戦的とも言えるような作品を書く小説家はたまにいらしゃいますが、ファンの間でも評価が分かれたりしますよね。個人的には好きなことが多い。この作品も違和感ありつつも楽しすぎて一気に読んでしまいました。

    異色たる要素はいくつかあるのですが、大きな仕掛けは2つ。

    ■歴史の虚構性の指摘

    タイトルの彦左衛門とは大久保彦左衛門のこと。
    「天下のご意見番」というフレーズを聞いたことのある方もいらっしゃるかと思いますが、大久保彦左衛門がその元ネタです。

    徳川家康の直臣として仕えた旗本。戦国の徳川の歴戦で奮戦、勲功を上げた武将であり、一介の旗本武士にすぎないながら、家康からの信頼も篤く、生まれながらの将軍・3代家光にもしばしば意見をした、という伝説的な人物です。

    話の主人公は彦左衛門の甥の数馬。一目惚れをした大名の娘・ちづか姫につりあう身分を目指すため立身出世を試みることにした彼は、戦国武士の生き残りであった伯父の彦左衛門に目をつけ、彼の歴戦獅子奮迅の戦記を捏造し、「天下のご意見番」としての家康のお墨付きを偽造するという手段を実行します。
    ちづか姫との結婚のためのみに実行した方策だったが、いつのまにか周囲を巻き込んだ大事になり、、、というのが大筋。

    大筋というか、もう本当にそれだけの作品です。
    天下のご意見番という伝説的なエピソードを持つ人物は、どのようにして作り上げられたのかということを、相当に無茶苦茶なばかばかしいエピソードで暴露しにかかるのです。伝説的な人物は真実つまらない人間であったし、つまらない思いつきから簡単にできあがってしまうものであると。

    何が真実かではなく、真実だと思いたいものに傾いてしまう

    これは世の常人の常なのであって、当時の社会に対しての皮肉としての意味もあったのでしょうし、同時に、人生いかに生きるべきかというような重厚なテーマを扱う作家としてのイメージで見られがちになっていた当時の周五郎イメージに対する皮肉という意味もあったのでしょう。

    ■物語への侵入

    歴史エピソードのトリックをあばく、という大胆なテーマを持つ本作品ですが、もう一つの仕掛けがあります。
    それは、作品内への作者の登場、です。

    司馬遼太郎作品にはよく作者が登場します。小説の舞台となっている場所を訪れた時の作者本人のエピソードを紀行文的に語る感じです。タクシーの運転手とこんな会話をした、だとか。

    本作品における周五郎本人の登場はそれともまた違います。一登場人物として、物語の中に侵入し、登場人物たちと会話するのです。小説を書き進めていくための取材といった雰囲気でインタビューともつかないような会話やモノローグをします。

    面白いのは、登場人物とのやりとりに腹を立て、その登場人物の存在を消してやろうか、というような物騒なメタ発言まで飛び出すところ。

    つまり、この作品は先に指摘した通り大久保彦左衛門という伝説的人物の虚構性をあばく作品でありながら、そのあばきの物語自身すらも物語である以上根本的に虚構であらざるを得ないという告白をしているということです。二段構えの暴露。


    ■江戸初期のカオスを表すいいかげんな登場人物

    仕掛けの面白い小説ですが、登場人物たちもなかなか魅力です。良い意味で雑な感じがして。雑というかいいかげんというか。だいたい立身出世の方策が偽造というあたりからしてかっこいい物語ではないし、ちづか姫との恋も、敵の陰謀もどれもまじめになりきろうとしないのです。

    なんて適当な小説なんだ、と指摘することもできるでしょうが、むしろ時代背景を表すにはとてもよい方法なのではないかと考えます。

    江戸時代も中後期になると文化的にも洗練されていきますが、江戸初期はまだまだ戦国の粗野で乱雑な雰囲気を引きずっているのですよね。町民の日々の暮らしもまだ落ち着いていなかったり、太平的雰囲気がなんとなく醸成され始め職業的アイデンティを失いつつあった武士階級の不安が行きどころを見失っていたり、なんとも言えないカオスがあったのだと思います。カオスだからこそ伝説的エピソードの入り込む余地もたくさんあったのだろうし、人々のカオスを表すにはこのぐらいいいかげんな登場人物たちが調度良いのだろうと思います。

    ■以上

    といううことで、だいぶ面白い小説でした。
    周五郎ファンはぜひ読むべし。
    周五郎読んだことない人は、この一冊だけ読んでも面白いですが、十分に楽しむためには"真面目な周五郎"を一冊でも二冊でも読んでからこの本を手にしたほうが良いでしょう。

  • 山本周五郎の異色ユーモア時代小説。
    「樅の木は残った」「日本婦道記」の周五郎先生がどうしちゃったの?言ってみれば山本周五郎が森見登美彦になってしまった感じ。まあ、似合わない。

    大名の姫と結婚するために、市井に隠棲していた大伯父の大久保彦左衛門をおだてあげ、戦記を捏造、家康のお墨付きを偽造して天下の御意見番に仕立て上げる。

  • 大久保彦左衛門おだて、家康のお墨付きを偽造、天下のご意見番に。性愛の表現があけっぴろげで、明るい内容の一部を成している。ただ、周五郎の作品だからと読むとがっかりするかも。12.10.18

  • 江戸時代初期に生きた五橋数馬の
    サクセスストーリー。

    コメディ要素が現代のノリに
    似てると思った。
    ただただ面白い。

    みんなが元気になるような嘘なら
    (最後まで責任取れるなら)
    ついてもいいなぁと思わせる。

  • これはどたばた劇。NHKでドラマ化されたのもまあまあ見れたものでした。おもしろ出世物語。

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著者プロフィール

山本周五郎(やまもと しゅうごろう)=1903年山梨県生まれ。1967年没。本名、清水三十六(しみず さとむ)。小学校卒業後、質店の山本周五郎商店に徒弟として住み込む(筆名はこれに由来)。雑誌記者などを経て、1926年「須磨寺付近」で文壇に登場。庶民の立場から武士の苦衷や市井人の哀感を描いた時代小説、歴史小説などを発表。1943年、『日本婦道記』が上半期の直木賞に推されたが受賞を固辞。『樅ノ木は残った』『赤ひげ診療譚』『青べか物語』など、とくに晩年多くの傑作を発表し、高く評価された。 

解説:新船海三郎(しんふね かいさぶろう)=1947年生まれ。日本民主主義文学会会員、日本文芸家協会会員。著書に『歴史の道程と文学』『史観と文学のあいだ』『作家への飛躍』『藤澤周平 志たかく情あつく』『不同調の音色 安岡章太郎私論』『戦争は殺すことから始まった 日本文学と加害の諸相』『日々是好読』、インタビュー集『わが文学の原風景』など。

「2023年 『山本周五郎 ユーモア小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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